How did you feel at your first kiss?
乾がデータ収集に没頭するのはいつもの事だ。
でも今日に限って海堂がそれを咎めたのには、海堂なりの言い分があった。
乾が彼自身の為に無茶をするなら、もう少しは黙っていられたのだ。
しかし、部活後に、乾に誘われて。
立ち寄った乾の部屋で、海堂の調整メニューを一から見直し始めた乾の、そのあまりの専念ぶりに。
海堂は次第に眉根を寄せていった。
乾が海堂の為だけにつくるメニューは、海堂にとって、必要不可欠なものになっている。
でも、その半面で、ただでさえ時間の足りない生活を送っている乾に、自分の為だけに根を詰めさせているという事実は時折海堂を悩ませた。
そこまでさせてしまっていいものだろうかと、実際幾度か口に出した事もある。
大抵乾は笑って、いいよ、と優しい声をくれるのだが、それを聞いても海堂にはその事が気がかりだった。
そうして今日のように、目の前で海堂のデータをつくることに没頭する乾を見てしまったものだから、海堂は思わず、その言葉を乾の背に向かって投げていた。
「データと俺と、どっちが大事なんですかっ」
口調は海堂自身が考えていたよりも荒くなってしまって、でも呟くくらいの声量でしかなかったのに、乾はすぐに振り返ってきた。
海堂は、腹がたったというよりも、呆れてその言葉を乾にぶつけたのだが、乾は傍目に見てもはっきりと判るくらい狼狽しているように見えた。
「海堂」
「……………」
上擦っても、低い声。
乾が立ち上がって、海堂の正面に近づいてきた。
大きな手に肩を掴まれる。
思いのほか強い力に、自分のデータをつくらせておいて、あの言い草はなかったかと海堂が躊躇した隙をつくようにして乾に押し倒される。
ほとんどもつれこむ勢いで、海堂は腰掛けていたベッドに身体を沈められた。
海堂の背で、毛布から空気が抜ける音がする。
「乾先輩、……」
きつく抱き締められたまま押し倒されたものの、乾から、怒りの乱暴な気配は伝わってこなかった。
それどころか、これではまるで。
「…………乾先輩…」
「………………」
しがみついてくるようだと。
海堂は思った。
自然と、固い背をあやすように手を伸ばしてしまう。
「乾先輩…」
「………………」
多分、同じような台詞を今までにも言われた事があるんだろうと、海堂は乾の背を下から抱き締めながら思った。
馬鹿な事を言ったと、急激に悔やむ気持ちが湧き出てきて、そっと乾の背を擦った。
あんな言い方、よりにもよって自分が。
決して言うべきではなかったと。
ちゃんと、思ったままを言えばよかったと。
海堂は小さく息をついた。
「……俺の事で、あんたに無理して欲しくないって意味だ……変な言い方してすみません」
「………海堂」
やっと口を開いてくれた乾に少し安心して、海堂は身体の力を抜いた。
言葉のうまくない海堂にはそれ以上言いようがない。
乾の返事を待っていると、乾は、感触で探り当てるような少々即物的なやり方で唇を重ねてきた。
「ン、………」
唇から、ベッドに押さえ込まれるように口付けられて、海堂は乾のシャツを握り締めた。
容赦なく絡んでくる舌に呼吸を奪われ、海堂は口をひらく。
そこに尚も乾の舌が、深みを探って落ちてくる。
「………ぅ…」
ああ、不安がらせた、と思って。
荒い乾のキスで、気付いて。
海堂は、乾にひとしきり、深いキスで唇を貪られた。
「…………トラウマっすか…?」
散々に口付けられた唇は、まだ痺れるようで。
キスが止むなり掠れた声で問いかけた海堂は、乾の返事を待たないで、すみません、ともう一度言った。
乾なら絶対に聞かれていそうな事を。
乾なら絶対に返答に詰まりそうな事を。
何も自分まで言う事なかった。
「……お前と比べられるようなもの、俺には何もないよ」
「………………」
「俺が好きになってもいいのかって、そんな事したらまずいんじゃないかって、思うくらい大事なんだ」
熱のこもった乾の言葉に。
かきくどくような声音に。
乾を抱き締めながら、海堂は胸を詰まらせる。
そんな乾の思いに、見合う自分なのかは判らないけれど。
「俺にはよく判ん無いっすけど……」
乾の言う言葉。
でも。
「多分…あんたは間違って無いっすよ」
俺は、嬉しいから、と海堂は乾の耳元で言った。
「海堂?」
今顔を見られるのは本当に恥ずかしくて、顔を上げたそうにした乾の首に取り縋るようにして海堂は腕を回した。
「……俺は…あんたがそういう風に言ってくれるの、嬉しいから」
そして。
好きだ、という、海堂からの言葉は。
声という形になる前に、乾のキスで甘く潰された。
海堂の両腕が乾の首の裏側に絡んだまま。
強引な口付けをされ、声にはならなかった。
けれど、その言葉の染みた海堂の唇は、幾度も幾度も乾のキスにからめとられて、乾の中へと伝わっていく。
言葉も感情も感覚も。
重ねた唇から互いへと、沈んでいくようなイメージで。
判る事の出来るキスがある。
でも今日に限って海堂がそれを咎めたのには、海堂なりの言い分があった。
乾が彼自身の為に無茶をするなら、もう少しは黙っていられたのだ。
しかし、部活後に、乾に誘われて。
立ち寄った乾の部屋で、海堂の調整メニューを一から見直し始めた乾の、そのあまりの専念ぶりに。
海堂は次第に眉根を寄せていった。
乾が海堂の為だけにつくるメニューは、海堂にとって、必要不可欠なものになっている。
でも、その半面で、ただでさえ時間の足りない生活を送っている乾に、自分の為だけに根を詰めさせているという事実は時折海堂を悩ませた。
そこまでさせてしまっていいものだろうかと、実際幾度か口に出した事もある。
大抵乾は笑って、いいよ、と優しい声をくれるのだが、それを聞いても海堂にはその事が気がかりだった。
そうして今日のように、目の前で海堂のデータをつくることに没頭する乾を見てしまったものだから、海堂は思わず、その言葉を乾の背に向かって投げていた。
「データと俺と、どっちが大事なんですかっ」
口調は海堂自身が考えていたよりも荒くなってしまって、でも呟くくらいの声量でしかなかったのに、乾はすぐに振り返ってきた。
海堂は、腹がたったというよりも、呆れてその言葉を乾にぶつけたのだが、乾は傍目に見てもはっきりと判るくらい狼狽しているように見えた。
「海堂」
「……………」
上擦っても、低い声。
乾が立ち上がって、海堂の正面に近づいてきた。
大きな手に肩を掴まれる。
思いのほか強い力に、自分のデータをつくらせておいて、あの言い草はなかったかと海堂が躊躇した隙をつくようにして乾に押し倒される。
ほとんどもつれこむ勢いで、海堂は腰掛けていたベッドに身体を沈められた。
海堂の背で、毛布から空気が抜ける音がする。
「乾先輩、……」
きつく抱き締められたまま押し倒されたものの、乾から、怒りの乱暴な気配は伝わってこなかった。
それどころか、これではまるで。
「…………乾先輩…」
「………………」
しがみついてくるようだと。
海堂は思った。
自然と、固い背をあやすように手を伸ばしてしまう。
「乾先輩…」
「………………」
多分、同じような台詞を今までにも言われた事があるんだろうと、海堂は乾の背を下から抱き締めながら思った。
馬鹿な事を言ったと、急激に悔やむ気持ちが湧き出てきて、そっと乾の背を擦った。
あんな言い方、よりにもよって自分が。
決して言うべきではなかったと。
ちゃんと、思ったままを言えばよかったと。
海堂は小さく息をついた。
「……俺の事で、あんたに無理して欲しくないって意味だ……変な言い方してすみません」
「………海堂」
やっと口を開いてくれた乾に少し安心して、海堂は身体の力を抜いた。
言葉のうまくない海堂にはそれ以上言いようがない。
乾の返事を待っていると、乾は、感触で探り当てるような少々即物的なやり方で唇を重ねてきた。
「ン、………」
唇から、ベッドに押さえ込まれるように口付けられて、海堂は乾のシャツを握り締めた。
容赦なく絡んでくる舌に呼吸を奪われ、海堂は口をひらく。
そこに尚も乾の舌が、深みを探って落ちてくる。
「………ぅ…」
ああ、不安がらせた、と思って。
荒い乾のキスで、気付いて。
海堂は、乾にひとしきり、深いキスで唇を貪られた。
「…………トラウマっすか…?」
散々に口付けられた唇は、まだ痺れるようで。
キスが止むなり掠れた声で問いかけた海堂は、乾の返事を待たないで、すみません、ともう一度言った。
乾なら絶対に聞かれていそうな事を。
乾なら絶対に返答に詰まりそうな事を。
何も自分まで言う事なかった。
「……お前と比べられるようなもの、俺には何もないよ」
「………………」
「俺が好きになってもいいのかって、そんな事したらまずいんじゃないかって、思うくらい大事なんだ」
熱のこもった乾の言葉に。
かきくどくような声音に。
乾を抱き締めながら、海堂は胸を詰まらせる。
そんな乾の思いに、見合う自分なのかは判らないけれど。
「俺にはよく判ん無いっすけど……」
乾の言う言葉。
でも。
「多分…あんたは間違って無いっすよ」
俺は、嬉しいから、と海堂は乾の耳元で言った。
「海堂?」
今顔を見られるのは本当に恥ずかしくて、顔を上げたそうにした乾の首に取り縋るようにして海堂は腕を回した。
「……俺は…あんたがそういう風に言ってくれるの、嬉しいから」
そして。
好きだ、という、海堂からの言葉は。
声という形になる前に、乾のキスで甘く潰された。
海堂の両腕が乾の首の裏側に絡んだまま。
強引な口付けをされ、声にはならなかった。
けれど、その言葉の染みた海堂の唇は、幾度も幾度も乾のキスにからめとられて、乾の中へと伝わっていく。
言葉も感情も感覚も。
重ねた唇から互いへと、沈んでいくようなイメージで。
判る事の出来るキスがある。
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