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How did you feel at your first kiss?
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 跡部が鳳に声をかけたのは、そこに宍戸の姿がなかったからだ。
「おい」
「……部長」
 最低限の照明を使うにとどめた暗がりのテニスコート。
 振り返った鳳を跡部に気付いて目を瞠る。
 構わずに跡部はフェンス越しから鳳を見据えた。
「意味があってやってる事なら迷ってんじゃねえ」
「…………………」
 ラケットを持たない宍戸に鳳が部内最速を誇るスカッドサーブを打ち続けていた。
 身体でも顔でも構わずに、その重い球威のテニスボールを受け止めている宍戸は、夜目にも明らかに傷を負っていた。
 そんな光景を闇に紛れる様にして見続けた跡部が、選んで声をかけたのは鳳だった。
 宍戸は、こういう光景を、跡部には絶対に見られたくない男だと判っていたし。
 宍戸が不動峰との試合に負けた際、跡部はその事実に驚いただけで、宍戸のレギュラー落ちに対しては過剰な危惧も感慨も抱いてはいなかった。
 そこで終わる男と思っていなかったからだ。
「鳳」
「……判ってます。迷ってるわけじゃありません」
 宍戸が去った後もコートに残り、傷ましい顔をしていた鳳は。
 跡部に気付くと穏やかに凪いだ表情で、ゆっくりと跡部に近づいてきた。
「は、…どうだか?」
「宍戸さんが決めた事ですから」
「あれに意味があるって事か」
「はい」
 フェンス越しに、跡部は自分よりも上背のある後輩のことを、腕を組んで見上げた。
「それにしちゃ、ひでぇツラだな。お前」
「……あんなに強くて、あんなに綺麗な人、初めてなんです」
 痛みを内に包む微笑を浮かべ、鳳は静かに言った。
「どれだけ宍戸を好きなんだお前は」
 呆れた声で言い、跡部が溜息を零しても。
 鳳は痛んでいる目で、しかし幸福そうに笑う。
「言葉があればいいんですけどね」
 この気持ちに見合うだけの言葉。
 鳳はそう呟いて。
「……部長は言えないなんて事なさそうですね」
「あん?」
「言葉が追いつかない感情なんてありますか?」
「ねえよ。その高度な言葉を理解出来ねえ馬鹿ならいるがな」
「馬鹿…ですか」
 面食らったような顔をする鳳に、跡部は荒く前髪をかきあげた。
「ああ馬鹿だ。優しくしてやりゃ怖がって、仄めかす程度で匂わせれば気付きもしない。言葉が判らないから態度で表せば曲解して一人で怒るか泣き出すかする有様だ。救い様がねえ」
「はあ……」
「初心者仕様で抱いてやりゃおもちゃみたいにして遊んでるって泣く。本気で抱けばものの五分で号泣だ。いかれてるとしか言いようがねえよ。あんな馬鹿」
「あの……」
「口説かれ下手の、傷つき上手ときた。本当に頭くるぜ。ったく。あんな奴は一生俺でめちゃめちゃになってりゃいい」
「…………」
「何か言いたそうなツラしてるな…何だよ?」
「いえ……ノロケる部長を初めて見たもので少々びっくり……」
「は? お前も馬鹿か? どこ見てノロケとか言いやがる」
 侮蔑するような跡部のきつい口調に全く怯む様子もなく、寧ろ笑みを深めて鳳は言った。
「いつか、紹介して下さいね」
「するか馬鹿」
「大丈夫です」
「何が」
「俺は宍戸さんに夢中ですから。取りませんよ」
「………てめえ…」
 からかうでもなく微笑み続ける鳳は結構逞しい。
 跡部は鳳を睨み据えながら呆れた。
「人のこと言える立場か。お前が」
 口が悪くて近寄りがたく、容赦ない物言いをするのに。
 基本的に人に優しく、ひどく面倒見の良い宍戸を、慕って集まる輩は多い。
「取られません。絶対に。俺がこれから生きていくのが本当に辛くなるようなそんなこと、誰にもさせないです」
「生きていけないとは言わないんだな」
 そういう鳳なら、宍戸は大丈夫だ。
 跡部はそう思う。
 そして、一方で。
 自分は。
 自分がいなくなったら、生きていけない、というくらい。
 欲しがられないと、気がすまない。
 虚勢ばかり張る、あの馬鹿な恋人に。


 自分と同じにしてやらないと。
 気がすまない。
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