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How did you feel at your first kiss?
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 いい靴をはいていると、その靴がお気に入りの場所にいざなう。


 それは鳳の父親の口癖だった。
 異国の地では、昔ながらにそう言い伝えられているという。
 鳳が氷帝学園の中等部に進学すると、オーダーメイドで靴をあしらえてくれた父親に、鳳はどうせすぐに履けなくなってしまうかもしれないのにと内心で思った。
 成長期の兆しを自覚していたからだ。
 しかし、その靴を履いて出向いた入学式で。
 鳳は、父親の言葉を借りるなら、その靴にまさに、いざなわれたのだ。
 葉桜の葉擦れの音。
 長い髪が風に流れ、制服姿で立っていた人。
 テニスコートに。


 出会えた人が、そこにいた。


「……、…おい……!…長太郎!」
 歯切れの良い大声に名を呼ばれ、鳳は目を見張った。
「……宍戸さん」
「………ったく……宍戸さん、じゃねーだろーが……!」
 回想の中にいた人と同一人物でありながら、もうあの長い髪は今の彼にはない。
 しかし、その代わりに、あの時とは違って、今は鳳の名前を口にする彼がいる。
「………………」
 宍戸を見下ろす角度が、また大きくなった気がする。
 顎の尖った小さな顔に指を伸ばしたい衝動を抑えるのもいつものこと。
 きつい眼差しに見惚れて、清冽な声に気を取られて、宍戸が居心地悪そうな顔をするまで無言で見つめてしまうのも。
 自覚はしているのだが、どうにも制御しきれない。
「おい」
 宍戸に、ぐっと胸倉を掴まれて、鳳は僅かに前のめりになる。
 ひどくなめらかな宍戸の肌が鳳の視界を埋めて、これだけ近づいても綺麗なままだなんていったいどういう人なんだろうと鳳は思った。
「長太郎」
「はい」
「お前」
 軽く首を反らせる様にして。
 宍戸が鳳の耳元に唇を近づけてきた。
 その気配と、囁かれるような声に、鳳は思わず息を詰める。
 そのうえ、言われた言葉が。
「俺が欲しいだろ?」
「………、…え?」
「え?じゃねーっての…! 物欲しそうな顔で散々人のこと見ておいて間抜けな返事すんな!」
「物欲しそ…って……宍戸さん……!」
 さすがに鳳は慌てた。
 隠していたつもりの気持ちなのだ。
 それをこれほどあっさりと言い当てられては溜まらない。
 しかし。
「違うのか?」
 真直ぐな目線で問いかけられれば、鳳の出来る事はひとつだけしかない。
「違いません」
 至極真面目に首を振り、否定するだけだ。
 その返答に宍戸は満足したらしかった。
 軽く笑った。
「…………………」
 至近距離から与えられたその表情は、鳳の目には甘すぎるほど甘く映った。
 痛いような思いで目を眇めた鳳に、更に顔を近づけ。
 宍戸はひそめた声で言った。
「お前のものになってやる」
「……、…宍戸さん…?」
「聞こえなかったのか? もう一度言うか?」
「あの、………」
「お前のものになってやる」
 だから、と宍戸の拳が。
 幾分手荒に、鳳の胸を、どん、と叩く。
 互いの距離がそれで離れた。
「試合に集中しろアホ!」
「な、………」
 そう、試合中なのだ。
 部内の練習試合だが、確かに今は試合中。
「ちょ……冗談……なんですか? 今の?」
「ああもう、うるせ。さっさと打てっ」
「宍戸さんっ」
「そういうツラすんな! それからフォルトになるたんびに俺の顔を伺うな!」
「宍戸さんってば…!」
 鳳が構わず詰め寄ると、宍戸はラケットを持っていないほうの手を額に当てて、何事か嘆くような声で呟いた。
「………んだよ。すっきりするんじゃねえのか普通」
「……はい?」
「お前がぐだぐだ考えてること解決してやったろうが。もういいから、とにかく試合に集中しろっての」
 あっちのダブルスがうるせーだろ、とうんざりした様子で宍戸が言うまで、鳳は相手コートから投げられるブーイングに気付かなかった。
「この…っ……そこの…にわかダブルスー! いい加減真面目にやれっ!」
「岳人……今日ばかりはその気持ち、俺にも痛いほど判るで……」
「おう、お前も言ってやれ侑士! 罵っていい! 俺が許す! あの新米バカップルダブルス!!」
 地団駄踏んでは飛び上がって怒っている向日と、大仰に嘆き憂いでいる忍足の、氷帝ダブルス1の有様に。
 殆ど同調しているかのような態度の宍戸に、冷たくあしらわれるようにして鳳はサーブの構えを取る。
 先程の出来事は何だったんだろうか、夢か幻だったんだろうかと、意気消沈する鳳の耳に、宍戸の小さな声が届く。
 小さくて、ぶっきらぼうな声。
「…おい。後でちゃんと言えよ」
「何をですか?」
 思わず宍戸を振り返った鳳は、そこに、初めて見るような表情の宍戸を見つける。
「宍戸さん?」
「好きって言え!」
 はしょるな、そういうの!と不機嫌そうに言った宍戸の、薄赤い目元にくらくらして。
 鳳は黙り込んだ。
 返事もそこそこにサーブを打つ。
 このばかぢからぁっ!とまたも激高した向日の声が聞こえた気もしたが、ひとまずこの時の鳳は。
 一刻も早く試合を終わらせるべく、向日が後に名づけた殺人サーブを、連打していくだけであった。
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