How did you feel at your first kiss?
出迎えに出てきた鳳に、宍戸は右腕を突き出した。
右手に持っているのは家から持ってきたエコバッグで中にはいっぱいに詰め込んだ蜜柑が入っている。
「土産」
「ありがとうございます!」
「ただの蜜柑だぜ? 大袈裟だなぁ…お前」
鳳の満面の笑みは宍戸が面食らう程で、溜息混じりに言った宍戸に鳳は尚も笑う。
「大袈裟だなんて事ないですよ。宍戸さんからの頂き物ですから」
「そうかよ。ちょうど俺が家でて来る時に、田舎から宅配で届いたんだよ。親がお前んとこ持ってけってうるさくてよ」
「よろしく伝えて下さいね。本当に。ありがとうございます」
「だから大袈裟だっつーの」
宍戸がいくら口調を素っ気無くしても、鳳の笑顔は変わらない。
促されるまま、宍戸はエコバッグを受け取った鳳の後について彼の部屋に行く。
相変わらず広い家だ。
さすがにこれだけ訪れていれば迷うことはないけれど。
扉を開けた鳳のすぐ後ろから、宍戸も鳳の部屋に最初の一歩を踏み入れて。
まず聞かれる。
「何か飲みますか?」
「いや、いいよ」
「キスはしてもいいですか」
「……口調も変えないで何言ってんだお前は」
部屋に入るなりそれだ。
正式にはそれが理由ではないけれど、宍戸は呆れ混じりに溜息をつく。
本当に鳳に言いたい事は。
「嫌っつった事ねえだろ」
言うなり鳳は宍戸の肩に手を置いて屈んできた。
最初から薄くひらいた唇が、高い位置から近づいてきて。
重なる寸前、宍戸も唇をひらいた。
「………………」
舌と舌とが触れる。
やわらかい器官が密着して、お互い触れ合っているのは唇と舌だけなのに、ひどく近くに在る気がする。
キスの長さは一呼吸分だ。
小さく濡れた音でキスはほどけた。
「………、……ふ…」
「宍戸さん」
「……んだよ…」
それでも乱れてしまう呼吸を誤魔化したくて、宍戸の口ぶりは愛想のないものだったにも関わらず。
鳳は甘い視線を向けてきて、もう一度短く宍戸に口付けてきた。
啄ばむ仕草で唇と、頬とに。
それから肩に置いていた手で丁寧に宍戸の背中を抱き締めてから、名残惜しげに宍戸の首筋にも唇を寄せた。
「おいー……」
「痕はつけてない、です」
我慢してます、と笑み交じりの鳳の宣言に。
それでも口付けしやすいようにとでもいうような動きで自らの首筋を与えてしまう宍戸は鳳の髪を咎めるように軽くかきまぜた。
「月曜日の一時間目から体育って、宍戸さんのクラスの時間割ってすごいですよね」
「お前日曜日の度に、ほんとそれ言い続けたな」
「高等部行っても、宍戸さんの時間割下さいね」
「まだ当分先の話だろ」
「はい。だから予約ってことで」
「お前以外に欲しがる奴なんざいねえよ」
「いてもあげないで」
肩越しにゆったりと笑んでみせて、鳳は宍戸の腕を引いた。
家の中で手を繋いで歩くというのもどこか不思議な感触だ。
それがこの馴染んだ手でもだ。
「………………」
宍戸は鳳に促されるまま部屋の中央のラグマットの上に腰を下ろす。
硝子のローテーブルの上に鳳は宍戸が手渡した蜜柑の入ったバッグを置いた。
そして宍戸の向かい側に鳳も座り、中から蜜柑を数個取り出す。
宍戸は鳳のその手を自らの手で止めた。
「宍戸さん?」
「食うんだろ」
「ええ……そのつもりで取りましたけど……あの?」
不思議そうに首を僅かに傾けている鳳に構わず、宍戸は彼の手にあった二つの蜜柑を奪い取る。
皮を剥く。
果実へと差し込んだ親指と、人差し指とで。
花びらのように蜜柑の皮をひらいていく宍戸の手元を鳳はじっと見つめていた。
宍戸は皮を剥きながら言う。
「沁みるだろーが」
「え?」
「蜜柑だよ」
手ぇ切れてんだろうが、と宍戸が軽く顎で指し示して初めて鳳は自らの手を見下ろした。
その様子に宍戸は皮から引き剥がした丸い果実を更に一房ずつばらしていきながら呆れる。
「なんだよ。お前。気づいてなかったのか?」
「気づきませんよ、この程度の………宍戸さんはどうしてこんな小さい切り傷に気づくんですか」
こんなですよ!と鳳が突きつけてきた人差し指は、骨ばっていてもすらりと長く、その指先にあるのは小さかろうが何だろうが紛う事なき切り傷だ。
何を言ってるんだこいつはと宍戸は鳳を見つめ返して即答する。
「んなの、見りゃ判んだろ」
「………宍戸さんー…」
「お前、蜜柑って、まだ剥くのか皮」
これでいいよな、と指先に摘んだ一房を鳳の口に入れる。
でもそうやって口を封じられたせいか、尚更じっと鳳に見据えて来られて。
宍戸は面倒くせえなあとぼやきながらも手元の蜜柑の皮を更に一つずつ剥いていく。
「宍戸さん」
「やってる。もう少し待ってろっての」
もう、そうじゃなくて、と溜息とも詰りとも取れる一言を零した鳳が、テーブルの向こう側から身を乗り出してくる。
手元に落ちた影に宍戸が視線を上げたのと唇が塞がれたのとは同時だった。
「………………」
蜜柑の味がした。
舌が、奪われる。
音も、する。
角度が変わって、粘膜が密着して。
「宍戸さん」
キスがほどけて、宍戸はゆっくり瞬きする。
両頬を包んでいる鳳の手のひらの片方に自ら顔を預けてから、宍戸は鳳の人差し指に唇を寄せた。
「沁みても知らねえぞ?」
唇を笑みの形に引き上げて言った宍戸は、鳳に何だか呻くような声で名前を呼ばれた。
テーブルを押しのけるようにした鳳に幾分乱暴に組み敷かれる。
沁みても知らないとは言ったものの、鳳のその指を決して濡らさせたりはしないよう心に決めてから、宍戸は自身の喉元に口付けてきている鳳の頭にそっと手を伸ばした。
右手に持っているのは家から持ってきたエコバッグで中にはいっぱいに詰め込んだ蜜柑が入っている。
「土産」
「ありがとうございます!」
「ただの蜜柑だぜ? 大袈裟だなぁ…お前」
鳳の満面の笑みは宍戸が面食らう程で、溜息混じりに言った宍戸に鳳は尚も笑う。
「大袈裟だなんて事ないですよ。宍戸さんからの頂き物ですから」
「そうかよ。ちょうど俺が家でて来る時に、田舎から宅配で届いたんだよ。親がお前んとこ持ってけってうるさくてよ」
「よろしく伝えて下さいね。本当に。ありがとうございます」
「だから大袈裟だっつーの」
宍戸がいくら口調を素っ気無くしても、鳳の笑顔は変わらない。
促されるまま、宍戸はエコバッグを受け取った鳳の後について彼の部屋に行く。
相変わらず広い家だ。
さすがにこれだけ訪れていれば迷うことはないけれど。
扉を開けた鳳のすぐ後ろから、宍戸も鳳の部屋に最初の一歩を踏み入れて。
まず聞かれる。
「何か飲みますか?」
「いや、いいよ」
「キスはしてもいいですか」
「……口調も変えないで何言ってんだお前は」
部屋に入るなりそれだ。
正式にはそれが理由ではないけれど、宍戸は呆れ混じりに溜息をつく。
本当に鳳に言いたい事は。
「嫌っつった事ねえだろ」
言うなり鳳は宍戸の肩に手を置いて屈んできた。
最初から薄くひらいた唇が、高い位置から近づいてきて。
重なる寸前、宍戸も唇をひらいた。
「………………」
舌と舌とが触れる。
やわらかい器官が密着して、お互い触れ合っているのは唇と舌だけなのに、ひどく近くに在る気がする。
キスの長さは一呼吸分だ。
小さく濡れた音でキスはほどけた。
「………、……ふ…」
「宍戸さん」
「……んだよ…」
それでも乱れてしまう呼吸を誤魔化したくて、宍戸の口ぶりは愛想のないものだったにも関わらず。
鳳は甘い視線を向けてきて、もう一度短く宍戸に口付けてきた。
啄ばむ仕草で唇と、頬とに。
それから肩に置いていた手で丁寧に宍戸の背中を抱き締めてから、名残惜しげに宍戸の首筋にも唇を寄せた。
「おいー……」
「痕はつけてない、です」
我慢してます、と笑み交じりの鳳の宣言に。
それでも口付けしやすいようにとでもいうような動きで自らの首筋を与えてしまう宍戸は鳳の髪を咎めるように軽くかきまぜた。
「月曜日の一時間目から体育って、宍戸さんのクラスの時間割ってすごいですよね」
「お前日曜日の度に、ほんとそれ言い続けたな」
「高等部行っても、宍戸さんの時間割下さいね」
「まだ当分先の話だろ」
「はい。だから予約ってことで」
「お前以外に欲しがる奴なんざいねえよ」
「いてもあげないで」
肩越しにゆったりと笑んでみせて、鳳は宍戸の腕を引いた。
家の中で手を繋いで歩くというのもどこか不思議な感触だ。
それがこの馴染んだ手でもだ。
「………………」
宍戸は鳳に促されるまま部屋の中央のラグマットの上に腰を下ろす。
硝子のローテーブルの上に鳳は宍戸が手渡した蜜柑の入ったバッグを置いた。
そして宍戸の向かい側に鳳も座り、中から蜜柑を数個取り出す。
宍戸は鳳のその手を自らの手で止めた。
「宍戸さん?」
「食うんだろ」
「ええ……そのつもりで取りましたけど……あの?」
不思議そうに首を僅かに傾けている鳳に構わず、宍戸は彼の手にあった二つの蜜柑を奪い取る。
皮を剥く。
果実へと差し込んだ親指と、人差し指とで。
花びらのように蜜柑の皮をひらいていく宍戸の手元を鳳はじっと見つめていた。
宍戸は皮を剥きながら言う。
「沁みるだろーが」
「え?」
「蜜柑だよ」
手ぇ切れてんだろうが、と宍戸が軽く顎で指し示して初めて鳳は自らの手を見下ろした。
その様子に宍戸は皮から引き剥がした丸い果実を更に一房ずつばらしていきながら呆れる。
「なんだよ。お前。気づいてなかったのか?」
「気づきませんよ、この程度の………宍戸さんはどうしてこんな小さい切り傷に気づくんですか」
こんなですよ!と鳳が突きつけてきた人差し指は、骨ばっていてもすらりと長く、その指先にあるのは小さかろうが何だろうが紛う事なき切り傷だ。
何を言ってるんだこいつはと宍戸は鳳を見つめ返して即答する。
「んなの、見りゃ判んだろ」
「………宍戸さんー…」
「お前、蜜柑って、まだ剥くのか皮」
これでいいよな、と指先に摘んだ一房を鳳の口に入れる。
でもそうやって口を封じられたせいか、尚更じっと鳳に見据えて来られて。
宍戸は面倒くせえなあとぼやきながらも手元の蜜柑の皮を更に一つずつ剥いていく。
「宍戸さん」
「やってる。もう少し待ってろっての」
もう、そうじゃなくて、と溜息とも詰りとも取れる一言を零した鳳が、テーブルの向こう側から身を乗り出してくる。
手元に落ちた影に宍戸が視線を上げたのと唇が塞がれたのとは同時だった。
「………………」
蜜柑の味がした。
舌が、奪われる。
音も、する。
角度が変わって、粘膜が密着して。
「宍戸さん」
キスがほどけて、宍戸はゆっくり瞬きする。
両頬を包んでいる鳳の手のひらの片方に自ら顔を預けてから、宍戸は鳳の人差し指に唇を寄せた。
「沁みても知らねえぞ?」
唇を笑みの形に引き上げて言った宍戸は、鳳に何だか呻くような声で名前を呼ばれた。
テーブルを押しのけるようにした鳳に幾分乱暴に組み敷かれる。
沁みても知らないとは言ったものの、鳳のその指を決して濡らさせたりはしないよう心に決めてから、宍戸は自身の喉元に口付けてきている鳳の頭にそっと手を伸ばした。
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