How did you feel at your first kiss?
耳をすませても寝息は全く聞こえない。
目で凝視してみても顔には全く変化がなく、横向きで寝ている為に上向きになっている右肩の微かな上下の動きで、どうにか呼吸の様子が認められる。
海堂の寝方は静かだ。
寝返りもろくにうたない。
静かに寝入って、静かに寝続けて、静かに目覚める。
「………………」
乾は若干窮屈なベッドの中で、海堂を見ていた。
前髪が滑り落ち、なめらかな額が露になっている。
顔のすぐ近くで手のひらを上向きにして置いてある左手の指先の丸まり具合が赤ん坊のように稚い。
不思議な子だなあと乾は思う。
何もかも、とてもきちんとした子だ。
傍にいてずっと見ていたくなる。
何もかも、それでいて不器用な子だ。
一人でまっすぐ立っていて、とてもストイックで、それだから気にかかる。
構いたい、なんて欲求が自分の中にあるなんて事は。
乾は海堂がいなければ恐らく気づかなかった。
海堂の方からトレーニングのメニューのことで声をかけられた時は、乾は正直驚いた。
さすがの乾もまるで予想だにしていなかったのだ。
そしてそれからの乾は、海堂に、あれではまるでただただ夢中だったとばかりに傾倒して、メニューをつくり、体調を診て、ダブルスを組み、一緒に自主トレをした。
実際に不二からは、乾は海堂に夢中だねと言われて笑われてもいる。
海堂に関しては、乾は今すぐ全部を知りたいという欲求よりも、そうしてしまうことが勿体無いと思う気持ちの方が強かった。
今、乾の目の前にいる存在は、乾にとってひどく勿体無い幸福のようであったから。
「………………」
乾が見つめる先、海堂が微かにみじろいだ。
折り曲げられた左手の指先がちいさく動く。
乾は爪先に唇を寄せた。
つややかな爪の表面が、するりと乾の唇を撫でる。
生まれたてのようなかわいらしい動きの指先が、乾の唇の感触で大人びる。
「……目が覚めた?」
「…………乾…先輩…」
「ああ」
もう一度海堂の指の関節に唇を寄せて、乾は海堂の隣に横たわったまま手を伸ばす。
髪に触れると、海堂は一瞬目を閉じて、乾の手をそのまま受け入れた。
ふと乾の脳裏にある記憶の中の海堂と、今目の前にいる海堂の表情とが重なった。
「………………」
慎重に探り、慎重に穿つものの、幾許かの我慢をさせている自覚はあって、いつもその身体を貪りながら乾は海堂の反応を一つの取りこぼしもないよう、じっと見据えていた。
だから今日、どちらかといえば息を詰めて、辛いばかりではないものの濃すぎる感覚を必死になって受け止めている海堂が、不意にうろたえたような顔をした事に乾はすぐに気づいた。
海堂の困惑は次第に深まって、乾がその身を穿つ度、わななきだす唇や、滲んできた涙がひどく潤ませた目が、何に覚えているのかに気づいて、乾の飢餓感を急激に煽り立ててきた。
声も出せない様子の海堂は、声より雄弁に体感しているものを身体で示していて、その困惑ごと抱き締めて、拓いた身体を揺さぶると、海堂は乾が初めて見る顔で泣き出した。
辛そう、だとか。
可哀想、だとか。
そういう泣き顔ではなかった。
あれはむしろ。
「きれいな顔してた」
すごく、ね、と乾は海堂にゆったりと囁く。
折り曲げた指の関節で、海堂の頬を辿る。
思い出す目をした事が海堂にも正しく伝わったようで、お互い顔を合わせて横たわったまま、海堂が息を飲んだ。
怯えた後に、途方にくれたように一瞬だけ頼りなくなった目元が、ぼうっと赤く染まっていくのが判る。
「、ふざけ…」
「て、ない。本気」
本当、と乾は生真面目に呟く。
手の甲で海堂の頬をするりと逆撫でする。
「本当に。本気の話」
乾は繰り返した。
本当に、そうなのだ。
「………………」
海堂は長い眠りから目覚めた訳ではない。
時間にしたら、今の眠りなどほんの十分程度の事だった。
海堂は最後の最後で、乾を一層の恋情の坩堝に叩き込むようなすさまじくきれいな顔を見せて、いって。
「海堂」
「………………」
骨張った手で海堂の頬を撫でる。
乾が記憶を思い浮かべて、そして今こうして言っている言葉を、海堂は少し怖い様子で息をつめて受け止めている。
濃すぎるかな、と乾自身も思ったけれど、視線も言葉も止められない。
睫を伏せて、布団にもぐるよう俯く海堂を、乾はやわらかく抱き込んだ。
「先輩…、…」
「かわいくて、どうしようね」
「な、ん……」
「俺はこんなにお前が好きで、どうなっていくんだろうな…」
乾を包んで甘く複雑にうねった海堂の感触に。
乾で高まって、乾でいった、あの一連の表情に。
今乾の腕の中で羞恥に駆られ、強張っている戸惑いに。
困惑のきつい眼差しに。
全部に。
どうしようね、と困るどころかただ甘く凪いだ気持ちで問いかける。
両手でそっと抱き寄せて、両足は絡ませあうように近づいて。
赤く色づく海堂のあちこちに、乾は唇を寄せた。
「また、見たい」
「………っ…、…先…輩」
「海堂の。ああいうの、また見たい」
海堂の首筋に唇を押し当てたまま乾が強請れば、海堂は戦慄きながら乾の頭を両腕で抱き寄せてきた。
きれいな首筋を、肌を、惜しみなく自ら与えるが如く乾の頭を抱き寄せてくるぎこちない仕草だけで堪らなかった。
乾は身体を起こすのと同時に唇を塞いで海堂を組み敷いて。
口づけながら両手で海堂の肌を辿った。
撫でて、愛しんで、擦って、包んで。
海堂は熱をはらんだ呼吸を切なげに乱して、散らして、乾の頭をずっと、そっと、抱き込んでいた。
言葉をあまり使わない海堂だけれど。
躊躇いのない手はいつでも乾に惜しみない。
目で凝視してみても顔には全く変化がなく、横向きで寝ている為に上向きになっている右肩の微かな上下の動きで、どうにか呼吸の様子が認められる。
海堂の寝方は静かだ。
寝返りもろくにうたない。
静かに寝入って、静かに寝続けて、静かに目覚める。
「………………」
乾は若干窮屈なベッドの中で、海堂を見ていた。
前髪が滑り落ち、なめらかな額が露になっている。
顔のすぐ近くで手のひらを上向きにして置いてある左手の指先の丸まり具合が赤ん坊のように稚い。
不思議な子だなあと乾は思う。
何もかも、とてもきちんとした子だ。
傍にいてずっと見ていたくなる。
何もかも、それでいて不器用な子だ。
一人でまっすぐ立っていて、とてもストイックで、それだから気にかかる。
構いたい、なんて欲求が自分の中にあるなんて事は。
乾は海堂がいなければ恐らく気づかなかった。
海堂の方からトレーニングのメニューのことで声をかけられた時は、乾は正直驚いた。
さすがの乾もまるで予想だにしていなかったのだ。
そしてそれからの乾は、海堂に、あれではまるでただただ夢中だったとばかりに傾倒して、メニューをつくり、体調を診て、ダブルスを組み、一緒に自主トレをした。
実際に不二からは、乾は海堂に夢中だねと言われて笑われてもいる。
海堂に関しては、乾は今すぐ全部を知りたいという欲求よりも、そうしてしまうことが勿体無いと思う気持ちの方が強かった。
今、乾の目の前にいる存在は、乾にとってひどく勿体無い幸福のようであったから。
「………………」
乾が見つめる先、海堂が微かにみじろいだ。
折り曲げられた左手の指先がちいさく動く。
乾は爪先に唇を寄せた。
つややかな爪の表面が、するりと乾の唇を撫でる。
生まれたてのようなかわいらしい動きの指先が、乾の唇の感触で大人びる。
「……目が覚めた?」
「…………乾…先輩…」
「ああ」
もう一度海堂の指の関節に唇を寄せて、乾は海堂の隣に横たわったまま手を伸ばす。
髪に触れると、海堂は一瞬目を閉じて、乾の手をそのまま受け入れた。
ふと乾の脳裏にある記憶の中の海堂と、今目の前にいる海堂の表情とが重なった。
「………………」
慎重に探り、慎重に穿つものの、幾許かの我慢をさせている自覚はあって、いつもその身体を貪りながら乾は海堂の反応を一つの取りこぼしもないよう、じっと見据えていた。
だから今日、どちらかといえば息を詰めて、辛いばかりではないものの濃すぎる感覚を必死になって受け止めている海堂が、不意にうろたえたような顔をした事に乾はすぐに気づいた。
海堂の困惑は次第に深まって、乾がその身を穿つ度、わななきだす唇や、滲んできた涙がひどく潤ませた目が、何に覚えているのかに気づいて、乾の飢餓感を急激に煽り立ててきた。
声も出せない様子の海堂は、声より雄弁に体感しているものを身体で示していて、その困惑ごと抱き締めて、拓いた身体を揺さぶると、海堂は乾が初めて見る顔で泣き出した。
辛そう、だとか。
可哀想、だとか。
そういう泣き顔ではなかった。
あれはむしろ。
「きれいな顔してた」
すごく、ね、と乾は海堂にゆったりと囁く。
折り曲げた指の関節で、海堂の頬を辿る。
思い出す目をした事が海堂にも正しく伝わったようで、お互い顔を合わせて横たわったまま、海堂が息を飲んだ。
怯えた後に、途方にくれたように一瞬だけ頼りなくなった目元が、ぼうっと赤く染まっていくのが判る。
「、ふざけ…」
「て、ない。本気」
本当、と乾は生真面目に呟く。
手の甲で海堂の頬をするりと逆撫でする。
「本当に。本気の話」
乾は繰り返した。
本当に、そうなのだ。
「………………」
海堂は長い眠りから目覚めた訳ではない。
時間にしたら、今の眠りなどほんの十分程度の事だった。
海堂は最後の最後で、乾を一層の恋情の坩堝に叩き込むようなすさまじくきれいな顔を見せて、いって。
「海堂」
「………………」
骨張った手で海堂の頬を撫でる。
乾が記憶を思い浮かべて、そして今こうして言っている言葉を、海堂は少し怖い様子で息をつめて受け止めている。
濃すぎるかな、と乾自身も思ったけれど、視線も言葉も止められない。
睫を伏せて、布団にもぐるよう俯く海堂を、乾はやわらかく抱き込んだ。
「先輩…、…」
「かわいくて、どうしようね」
「な、ん……」
「俺はこんなにお前が好きで、どうなっていくんだろうな…」
乾を包んで甘く複雑にうねった海堂の感触に。
乾で高まって、乾でいった、あの一連の表情に。
今乾の腕の中で羞恥に駆られ、強張っている戸惑いに。
困惑のきつい眼差しに。
全部に。
どうしようね、と困るどころかただ甘く凪いだ気持ちで問いかける。
両手でそっと抱き寄せて、両足は絡ませあうように近づいて。
赤く色づく海堂のあちこちに、乾は唇を寄せた。
「また、見たい」
「………っ…、…先…輩」
「海堂の。ああいうの、また見たい」
海堂の首筋に唇を押し当てたまま乾が強請れば、海堂は戦慄きながら乾の頭を両腕で抱き寄せてきた。
きれいな首筋を、肌を、惜しみなく自ら与えるが如く乾の頭を抱き寄せてくるぎこちない仕草だけで堪らなかった。
乾は身体を起こすのと同時に唇を塞いで海堂を組み敷いて。
口づけながら両手で海堂の肌を辿った。
撫でて、愛しんで、擦って、包んで。
海堂は熱をはらんだ呼吸を切なげに乱して、散らして、乾の頭をずっと、そっと、抱き込んでいた。
言葉をあまり使わない海堂だけれど。
躊躇いのない手はいつでも乾に惜しみない。
PR
カテゴリー
アーカイブ
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析