How did you feel at your first kiss?
雨の降る音が聞こえる。
本当は、もっとずっと前から響いていた音なのかもしれなかったけれど。
宍戸の耳に届いたのは今だった。
「………………」
ぼんやりと目を開ける。
室内は薄暗い。
同じベッドに寝ている男が宍戸に背を向けていた。
横になったまま腕を伸ばして、床に落ちている上掛けを掴んでいるようだった。
剥き出しの肩甲骨が動く。
締まった背中が捩れて影を刻む。
「………………」
宍戸は身じろいだ。
とん、と額をその背に当てる。
少しだけ。
本当に、少しだけ。
「……おでこもいいんですが、キスだともっと嬉しいです」
「…………阿呆」
そんな風に低い優しい声が返された。
宍戸は眠気や気だるさに浸ったまま呟く。
「………背中の…皮膚の器官は」
「はい…?」
「温度や圧力は判るけど、落とされた液体が水かゼリーかは判らないって話聞いた事あるけどな……」
額と唇の差が判るくらいなら、案外敏感なんじゃねえの、と口にした宍戸に長い腕が回される。
振り返ってきた鳳が、リネンを手にしたままそれで宍戸を包み込む。
抱き締める。
「お前が敏感なのかもしんねーけど……」
「俺の皮膚感覚が、特別に過敏って訳じゃないと思いますよ」
鳳は笑う。
宍戸は包まれる。
リネンの上に体温。
体温の上に腕。
腕の上に微笑の気配。
やわらかく、幾重にも、覆われる。
「判るのは、宍戸さんが触るからですよ」
「………………」
「宍戸さんのだったら、例えば俺の背中に落ちたのが、汗なの涙なのかも判る気がする…」
「……試してみるか?」
「泣かせたくないから嫌です」
「泣いたろうが…すでに散々……」
「さっきのはいいんです」
瞼に唇が寄せられる。
目を閉じてそれを受けた宍戸は、更に自分を幾重にも包んでくる、甘ったるい接触や抱擁や言葉をまざまざ体感する。
これだけ重ねられても、何故か息苦しさを覚えない。
鳳のやり方は何なのだろう。
それどころか、寧ろもっと欲しくなるのだから、不思議だ。
「目…覚めたの、どうしてですか」
どこか苦しい?とゆるく抱き込まれて問われれば。
宍戸はちいさく笑うしかない。
「雨の音がしたのと、お前の気配が離れたからだろ。そんなのは」
「……敏感って、それどっちの話ですか」
鳳も低く笑って、雨音を聞き取った宍戸の耳を手のひらでそっと撫で、無くした分の気配を与えるように抱き締めてくる。
「………きもち、いいな…お前」
「んー……それは今言われるとちょっと複雑です」
本当に複雑極まりない笑いで返してくる鳳に宍戸の方からも擦り寄っていく。
「お前は、いつでも、いいよ。……いつも…きもちいい」
「宍戸さんー……」
だから、参るなあ、と泣き言めいた事を告げられて。
それを雨音と共に聴覚に転がして、宍戸は笑んだまま目を閉じる。
「さっきも」
「や、……これ以上は真面目に勘弁してください」
ぎゅっとかなり強い力で抱き締められたのに、少しも苦しくない。
「寝ちゃってください。今すぐに」
「…おー……」
「はい。お願いします」
切羽詰ったような、ひどく生真面目な声に、乞われるまま。
宍戸はあくびをひとつ零して、どうしようもなく居心地のいい束縛の中で目を閉じた。
本当は、もっとずっと前から響いていた音なのかもしれなかったけれど。
宍戸の耳に届いたのは今だった。
「………………」
ぼんやりと目を開ける。
室内は薄暗い。
同じベッドに寝ている男が宍戸に背を向けていた。
横になったまま腕を伸ばして、床に落ちている上掛けを掴んでいるようだった。
剥き出しの肩甲骨が動く。
締まった背中が捩れて影を刻む。
「………………」
宍戸は身じろいだ。
とん、と額をその背に当てる。
少しだけ。
本当に、少しだけ。
「……おでこもいいんですが、キスだともっと嬉しいです」
「…………阿呆」
そんな風に低い優しい声が返された。
宍戸は眠気や気だるさに浸ったまま呟く。
「………背中の…皮膚の器官は」
「はい…?」
「温度や圧力は判るけど、落とされた液体が水かゼリーかは判らないって話聞いた事あるけどな……」
額と唇の差が判るくらいなら、案外敏感なんじゃねえの、と口にした宍戸に長い腕が回される。
振り返ってきた鳳が、リネンを手にしたままそれで宍戸を包み込む。
抱き締める。
「お前が敏感なのかもしんねーけど……」
「俺の皮膚感覚が、特別に過敏って訳じゃないと思いますよ」
鳳は笑う。
宍戸は包まれる。
リネンの上に体温。
体温の上に腕。
腕の上に微笑の気配。
やわらかく、幾重にも、覆われる。
「判るのは、宍戸さんが触るからですよ」
「………………」
「宍戸さんのだったら、例えば俺の背中に落ちたのが、汗なの涙なのかも判る気がする…」
「……試してみるか?」
「泣かせたくないから嫌です」
「泣いたろうが…すでに散々……」
「さっきのはいいんです」
瞼に唇が寄せられる。
目を閉じてそれを受けた宍戸は、更に自分を幾重にも包んでくる、甘ったるい接触や抱擁や言葉をまざまざ体感する。
これだけ重ねられても、何故か息苦しさを覚えない。
鳳のやり方は何なのだろう。
それどころか、寧ろもっと欲しくなるのだから、不思議だ。
「目…覚めたの、どうしてですか」
どこか苦しい?とゆるく抱き込まれて問われれば。
宍戸はちいさく笑うしかない。
「雨の音がしたのと、お前の気配が離れたからだろ。そんなのは」
「……敏感って、それどっちの話ですか」
鳳も低く笑って、雨音を聞き取った宍戸の耳を手のひらでそっと撫で、無くした分の気配を与えるように抱き締めてくる。
「………きもち、いいな…お前」
「んー……それは今言われるとちょっと複雑です」
本当に複雑極まりない笑いで返してくる鳳に宍戸の方からも擦り寄っていく。
「お前は、いつでも、いいよ。……いつも…きもちいい」
「宍戸さんー……」
だから、参るなあ、と泣き言めいた事を告げられて。
それを雨音と共に聴覚に転がして、宍戸は笑んだまま目を閉じる。
「さっきも」
「や、……これ以上は真面目に勘弁してください」
ぎゅっとかなり強い力で抱き締められたのに、少しも苦しくない。
「寝ちゃってください。今すぐに」
「…おー……」
「はい。お願いします」
切羽詰ったような、ひどく生真面目な声に、乞われるまま。
宍戸はあくびをひとつ零して、どうしようもなく居心地のいい束縛の中で目を閉じた。
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