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How did you feel at your first kiss?
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 てめえには色気がない。
 跡部は以前そう言った事がある。
 言った相手は神尾だ。
 何度目かのキスになっても、まだガチガチに固まっている神尾にそう言ってやったのだが、それを聞いた神尾は突然ぱちりと目を開けて、大真面目な顔をして跡部に返してきた。
 それ俺にあったらおかしくね?
「………………」
 余計な事を思い出したと跡部は思った。
 あの時も、今も、神尾は硬直して跡部のキスを受けている。
 薄い瞼の皮膚と睫毛の先の細かな震え。
 唇を舐めて、舌先をあからさまに差し入れて、ガードが固いのか無防備なのか判らない唇のあわいを潜る。
 癖の無い、感触ばかりがとろりとした小さな舌を、愛撫のように同じ器官で弄りながら、跡部は唇を合わせ、舌先で神尾の口腔を探る。
 神尾は小さな声を細い喉からもらしている。
 身体は強張ったままで、でも内部は少しずつ柔らかくなり、濡れていっている。
 あの時も、今も、跡部が思う事は同じだ。
 ないと決めてかかって言うしかない。
 ありすぎるからむかついて仕方ない。
 煽られている自覚は最初からあった。
 おかしいのは俺かと、呆れと八つ当たりで凄むような目になって、跡部は神尾の舌を貪って口付けを深くしていく。
「ん…、っ…ん、…」
「………………」
 最近は、キスをしながら身体を撫で回している。
 それで煽ってやろうとして、結局煽りをくらっている気がしないでもないが、神尾の薄い身体のそこらじゅうを跡部は手のひらで撫でている。
 今日は、塞いだ吐息が過敏に揺れるから、腿をしつこく擦る。
 いい加減もう、びびられても、抱いちまうかと。
 跡部は考えて、唇を離す。
 互いの唇の合間に透明に撓む口液。
 濡れた神尾の唇は薄く開いていた。
「………………」
 元々跡部は、奪う事にはさほど興味が無い。
 奪うという事は、他人のものを取り上げるという事だ。
 盗み、失わせるという事だ。
 これまで跡部が欲しいと思ったものは、手に入れてきたものは、他人の持ち物であった事は一度もない。
 だから手こずるのだ。
 目の前にこの存在に。
 奪うやり方ではなく、それでも、自分だけのものにしてやるにはどうしたらいいか。
 神尾にはこうしてキスだけで、それ以上のことは、まだ何もしていないという事を。
 跡部を知る人間に聞かせてやれば、さぞや呆れたり驚いたりするであろう自分を跡部は自覚しつつ、神尾の首筋を食んだ。
 神尾はされるがままだ。
 跡部がする事に、硬直するのは毎度だが、抗われた事は殆どない。
 恐らく判ってないのだろうと跡部は思う。
 名前だけで認識している行為といったところか。
 現に今も、喉元を舐め上げてやれば声を詰まらせて震えたのに。
「…何だよ」
 視線を感じて、跡部は神尾の首筋からちらりと上目に目線をやる。
 思った通りに神尾はじっと跡部を見てきている。
 跡部が至極不機嫌に問いかけた事への神尾の返事はこうだ。
「や、………どう…やんのかと思って」
「………………」
 つくづく判っていない。
 何がというよりも、もう何もかもがだ。
「後学の為か?」
「え…?」
 取り繕うのも面倒で、跡部は不機嫌を隠さなかった。
 神尾が、こうがく?と聞き返すのを遮って、跡部は別の言葉も口にした。
「それとも比べてんのか。お前」
「くら………」
 何と!と即座に返されて。
 誰と!と言われなかっただけまだマシかと思いながらも跡部は神尾の首筋にきつく吸い付いた。
「……ッ…、…た…」
「痛くしてんだよ」
 あからさまに濃厚な、抱いたり抱かれるする身体にしかつかない痕を、何も判ってない知らない身体につけていく。
「…………あと…べ…」
「何だよ」
 耳の縁もついでに甘く噛んでやった。
 神尾が両手を伸ばしてきて、跡部は神尾に抱き締められた。
「ごめん」
「何が」
「傷つけた…?」
「馬鹿だろ。てめえ」
「う……ごめん、なさい」
 多分今の自分達の会話は、本質的なところがずれたままで交わされている。
 跡部が言った悪態の意味と、神尾が謝る言葉の意味は少しずつ違う。
 けれども。
 甘やかされてやると、不遜に神尾に抱き締められたままの跡部も。
 判らないながらも人の心情に過敏な故に、ぎこちない言葉で跡部に謝る神尾も。
 大事にしたい、なくしたくないものは同じだ。
「………………」
 お互いの手を伸ばし、お互いの力で抱きしめあう。
 唇を、幾度も、重ねる。
 唇を、幾度も、合わせる。
 今、一番必要で、有効で、効率的な。
 今、その思いを真摯に告げる為の術は。
 これなのだろう。
 我慢とも違う。
 困惑とも違う。
 今、何の過不足もなく、自分達に必要なもの。
 しているキスは、したいキスだ。
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