How did you feel at your first kiss?
力強く骨ばった、男っぽい手だ。
ふと、宍戸はそう思った。
その考えは雑談の中の雑念にはならず、宍戸の動きを、鳳の手を見る事だけに集中させた。
途切れた言葉。
途切れた動作。
「…宍戸さん?」
どうかしましたかと、怪訝なだけでなくやけに慎重に声をかけてくる鳳に、宍戸は生返事で首を振る。
着替えの動作を止め、ただ見つめた。
ロッカーを閉めた鳳の手。
「………………」
いつものように最後まで二人でテニスコートに居残った部活の後、部室で制服に着替えながら他愛ない話をしていたさなか、突然に宍戸は口を噤んで鳳の手を凝視しているという状況。
鳳は声に滲ませた通りに不審だろうが、宍戸はそんなことはお構いなしだった。
それよりも。
鳳の手だ。
今初めて気づいた訳でもないのに。
ずっと知っている筈のものなのに。
宍戸は真剣に、鳳の手を見つめた。
骨格の硬質さと、しなやかな筋肉とが、共存している手。
鳳は、こんな手をしていたのかと、宍戸は突然に不思議な感覚に襲われてしまった。
「………………」
優しい丁寧な印象ばかりを伝えてくる鳳が、その手にしなやかなだけでなく、こんなにも印象的な強靭さを持ち合わせていた事。
宍戸はこれまで知らなかった気がする。
ひとしきり凝視して、宍戸は無造作に鳳の手首を手に取った。
「な……」
「………………」
手に取って、尚見つめる。
大きな手のひらと、それよりもっと長い指。
固さや、温かさ、肌の色、爪の形。
「………あの………宍戸、さん…?」
「何だよ。……、って…何だよ、お前」
何で顔そんな赤いんだよっ、と宍戸は咄嗟に叫んだ。
思わずつられて宍戸も赤くなる。
鳳は宍戸がつかまえていない方の手で口許を覆って、顔を片側に俯かせ、そして。
判りやすく赤くなっている。
「何って……あのねえ、宍戸さん」
「…………っ……」
肩を落として項垂れるようにしているのに、骨のしっかりした首筋の滑らかさに、宍戸はどきりとする。
あまつさえ。
宍戸よりも背の高い鳳が、上目にちらりと宍戸を見上げてきた眼差しや、言った言葉が殊更宍戸の動悸を激しくさせた。
「好きな人にこんな風にされたら、顔が赤くもなります…」
臆面も何もなく、なめらかな声で囁かれ、宍戸もうろうろと視線を彷徨わせた。
言葉が出てこない。
鳳が生真面目に問いかけてくる。
「俺の手……何か…?」
「…や、……なんつーか…キレーな手だなあと……」
思ったままが宍戸の口をついて出る。
「……はあ……きれい…ですか?」
鳳はストレートな困惑で聞き返してきて、宍戸が手首を掴んでいる自らの手をまじまじ見て言った。
「結構ゴツゴツしてると思うんですが……」
「あー……まあ、お前、手でかいけどよ……」
それでもやっぱりキレーだぜ?と宍戸が言うと。
鳳は少し怒った目になった。
「……長太郎?」
何でだ?と内心だけでなく実際にも首を傾げた宍戸に、鳳はひそめた声で告げてくる。
「他の人に言わないで下さいね。今みたいなこと、今みたいな目で」
「……お前にしか思わねーよ、こんなん」
何を怒ってるんだと、宍戸にしてみれば当然の事だけ、告げてみれば。
宍戸はロッカーに背中を押し付けられて、鳳に唇を塞がれる。
「………、ン」
宍戸の頬を包んだ鳳の右手は優しく。
宍戸の腰を抱いた鳳の左手は卑猥だ。
放熱するように熱くなる。
「………長太郎…、……?」
「何ですか。……、って…本当に、何ですか、宍戸さん」
あんな目や仕草や言葉は平気で放ってきて、と。
宍戸は鳳に甘ったるくなじられた。
それこそ先程の宍戸の言葉をそっくり繰り返した鳳に、宍戸も同じリアクションを返してやりたくなる。
何って。
「……好きな奴にされたら、赤くもなんだろーがよ」
くそ、と腹立ち紛れに言ってやる。
凶暴に見据えて、凶暴に悪態をついてやったつもりの宍戸に、鳳はといえば、きれいであまい視線と言葉を返してきて、本当に。
何なのだ、こいつは。
何なのだ、この人は。
お互いそんな事を思いながら、静かに唇を、重ねている。
ふと、宍戸はそう思った。
その考えは雑談の中の雑念にはならず、宍戸の動きを、鳳の手を見る事だけに集中させた。
途切れた言葉。
途切れた動作。
「…宍戸さん?」
どうかしましたかと、怪訝なだけでなくやけに慎重に声をかけてくる鳳に、宍戸は生返事で首を振る。
着替えの動作を止め、ただ見つめた。
ロッカーを閉めた鳳の手。
「………………」
いつものように最後まで二人でテニスコートに居残った部活の後、部室で制服に着替えながら他愛ない話をしていたさなか、突然に宍戸は口を噤んで鳳の手を凝視しているという状況。
鳳は声に滲ませた通りに不審だろうが、宍戸はそんなことはお構いなしだった。
それよりも。
鳳の手だ。
今初めて気づいた訳でもないのに。
ずっと知っている筈のものなのに。
宍戸は真剣に、鳳の手を見つめた。
骨格の硬質さと、しなやかな筋肉とが、共存している手。
鳳は、こんな手をしていたのかと、宍戸は突然に不思議な感覚に襲われてしまった。
「………………」
優しい丁寧な印象ばかりを伝えてくる鳳が、その手にしなやかなだけでなく、こんなにも印象的な強靭さを持ち合わせていた事。
宍戸はこれまで知らなかった気がする。
ひとしきり凝視して、宍戸は無造作に鳳の手首を手に取った。
「な……」
「………………」
手に取って、尚見つめる。
大きな手のひらと、それよりもっと長い指。
固さや、温かさ、肌の色、爪の形。
「………あの………宍戸、さん…?」
「何だよ。……、って…何だよ、お前」
何で顔そんな赤いんだよっ、と宍戸は咄嗟に叫んだ。
思わずつられて宍戸も赤くなる。
鳳は宍戸がつかまえていない方の手で口許を覆って、顔を片側に俯かせ、そして。
判りやすく赤くなっている。
「何って……あのねえ、宍戸さん」
「…………っ……」
肩を落として項垂れるようにしているのに、骨のしっかりした首筋の滑らかさに、宍戸はどきりとする。
あまつさえ。
宍戸よりも背の高い鳳が、上目にちらりと宍戸を見上げてきた眼差しや、言った言葉が殊更宍戸の動悸を激しくさせた。
「好きな人にこんな風にされたら、顔が赤くもなります…」
臆面も何もなく、なめらかな声で囁かれ、宍戸もうろうろと視線を彷徨わせた。
言葉が出てこない。
鳳が生真面目に問いかけてくる。
「俺の手……何か…?」
「…や、……なんつーか…キレーな手だなあと……」
思ったままが宍戸の口をついて出る。
「……はあ……きれい…ですか?」
鳳はストレートな困惑で聞き返してきて、宍戸が手首を掴んでいる自らの手をまじまじ見て言った。
「結構ゴツゴツしてると思うんですが……」
「あー……まあ、お前、手でかいけどよ……」
それでもやっぱりキレーだぜ?と宍戸が言うと。
鳳は少し怒った目になった。
「……長太郎?」
何でだ?と内心だけでなく実際にも首を傾げた宍戸に、鳳はひそめた声で告げてくる。
「他の人に言わないで下さいね。今みたいなこと、今みたいな目で」
「……お前にしか思わねーよ、こんなん」
何を怒ってるんだと、宍戸にしてみれば当然の事だけ、告げてみれば。
宍戸はロッカーに背中を押し付けられて、鳳に唇を塞がれる。
「………、ン」
宍戸の頬を包んだ鳳の右手は優しく。
宍戸の腰を抱いた鳳の左手は卑猥だ。
放熱するように熱くなる。
「………長太郎…、……?」
「何ですか。……、って…本当に、何ですか、宍戸さん」
あんな目や仕草や言葉は平気で放ってきて、と。
宍戸は鳳に甘ったるくなじられた。
それこそ先程の宍戸の言葉をそっくり繰り返した鳳に、宍戸も同じリアクションを返してやりたくなる。
何って。
「……好きな奴にされたら、赤くもなんだろーがよ」
くそ、と腹立ち紛れに言ってやる。
凶暴に見据えて、凶暴に悪態をついてやったつもりの宍戸に、鳳はといえば、きれいであまい視線と言葉を返してきて、本当に。
何なのだ、こいつは。
何なのだ、この人は。
お互いそんな事を思いながら、静かに唇を、重ねている。
PR
この記事にコメントする
カテゴリー
アーカイブ
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析