How did you feel at your first kiss?
また余所見する、と笑われた。
それに対して、まともに顔を見ていられる訳ないだろうと海堂は思い、笑う乾をきつく睨みつけたのだが、乾は目が合ったと言って機嫌がよくなった。
「………………」
キスをする前。
視線を向ける先も、表情の在り方も、息の仕方も、手の置き所も。
海堂にはわからない事だらけだ。
乾の笑みが優しくなって、ひどく大切そうに軽く唇を掠られる。
だから、どうしたら。
ぎこちなく海堂は、いるしかできない。
そしてキスをされた後もそれは同じ事だ。
乾は海堂の肩口に顔を伏せて笑った。
辛うじて笑い声はたてないでいるものの、肩があからさまに上下している。
「………、…っ…」
「や、…駄目だ…我慢できない」
「してねえで笑ってんだろーが…っ……」
「いやいや…我慢できないっていうのはさ…」
こっち、と言って。
乾は海堂を抱き締めてきた。
しっかりと背中と後頭部とを抱き込まれる。
乾の胸元に、嘘みたいにすっぽりとおさめられて、海堂は熱を帯びる顔を自覚しつつも噛み付いた。
「あんたみたいに余裕ねーんだよ、こっちは…!」
「俺だってないよ。そんなもの」
好きで好きで好きでと。
低い声で淡々と、乾がやたらとそれを繰り返してくるので。
海堂は居たたまれず、耳を塞ぎたくなった。
抱き込まれているこの体勢では到底不可能な事だったが。
「耳でも塞ぎたそうだな。海堂」
「…っ…、……」
「そんな事しても聞こえなくならないと思うが…」
すこぶる機嫌よく笑う乾は、腕をゆるめてきた。
お互いの合間に少しの空間が出来る。
乾の手のひらが海堂の両耳を覆う。
海堂はそうされたまま乾を見返した。
「………………」
音が。
「海堂?」
音が、する。
血液が流れている音だろうか。
耳元にぴたりと宛がわれた乾の手のひらから聞こえてくる音。
それに集中して無意識に目を閉じた海堂は、再び唇を塞がれて、赤くなった。
ねだりでもしたかのような自身の振る舞いに気づいたからだ。
「なんか可愛い顔してたな、今」
何考えた?と乾がからかうでもない丁寧な口調で聞いてくる。
可愛いとか言うなと憮然としながらも、海堂は乾の音を尚もよく聞くように、その手のひらに耳元を預ける。
それだけの所作で乾は理解したようだ。
海堂の両耳に手のひらを宛てながら、近づいてきて囁いた。
「こうやって耳塞いだ時に聞こえてくる音って、何の音だか知ってるか。海堂」
「……血液の流れる音じゃないんですか」
「そう思われがちだけどな」
違うんだよ、と乾は言った。
「手のひらの筋肉が収縮してる音なんだよ、これ」
は?と思わず海堂は口にしていた。
「それって」
「疑うなよ」
本当の話、と笑う乾に、疑った訳ではと否定しながらも、海堂は自分の耳を覆っている乾の手のひらに集中する。
「筋肉は、細長い筋線維が束になってるだろう? 筋肉っていうのは収縮する時に微量の音が出てる。それが聞こえるんだ」
「………………」
これは乾の手のひらの筋肉が収縮している音。
海堂は、じっと耳を傾けた。
「だからそういう顔するとな……」
「………………」
言葉途中で、また。
キスをされた。
今度はもう少し深くて、長くて、重ねられたキスだ。
聴覚を遮断され、海堂に聞こえているのは乾の音だけだった。
海堂は唇をひらいていて、含まされた舌は、ひどく心地良かった。
キスがほどけて乾を見つめていると、珍しく乾が視線を泳がせた。
「………本当に両極端だな。海堂は」
「………………」
余所見か直視だ、と乾は囁き淡く苦笑いをしている。
海堂は無言で手を持ち上げた。
乾がしているように、海堂も。
乾の耳元を両手の手のひらで覆う。
乾にも聞こえているだろうか。
海堂の手のひらの筋肉の収縮音。
自分達の手は、同じ物を掴む、異なる手だ。
「………………」
お互いがお互いで聞いている音、それらを生む手は、いつの間にか重ねられて。
指を絡めて。
繋ぎ合った両手を下に落とし、静かにまたキスをする。
吐息も溶かしあう距離。
合わでた手のひら。
手のひらの音と音が重なって、互いの唇と唇が重なって、ゆっくり和いでいくのが判る。
余所見の仕方など、判らなくなった。
それに対して、まともに顔を見ていられる訳ないだろうと海堂は思い、笑う乾をきつく睨みつけたのだが、乾は目が合ったと言って機嫌がよくなった。
「………………」
キスをする前。
視線を向ける先も、表情の在り方も、息の仕方も、手の置き所も。
海堂にはわからない事だらけだ。
乾の笑みが優しくなって、ひどく大切そうに軽く唇を掠られる。
だから、どうしたら。
ぎこちなく海堂は、いるしかできない。
そしてキスをされた後もそれは同じ事だ。
乾は海堂の肩口に顔を伏せて笑った。
辛うじて笑い声はたてないでいるものの、肩があからさまに上下している。
「………、…っ…」
「や、…駄目だ…我慢できない」
「してねえで笑ってんだろーが…っ……」
「いやいや…我慢できないっていうのはさ…」
こっち、と言って。
乾は海堂を抱き締めてきた。
しっかりと背中と後頭部とを抱き込まれる。
乾の胸元に、嘘みたいにすっぽりとおさめられて、海堂は熱を帯びる顔を自覚しつつも噛み付いた。
「あんたみたいに余裕ねーんだよ、こっちは…!」
「俺だってないよ。そんなもの」
好きで好きで好きでと。
低い声で淡々と、乾がやたらとそれを繰り返してくるので。
海堂は居たたまれず、耳を塞ぎたくなった。
抱き込まれているこの体勢では到底不可能な事だったが。
「耳でも塞ぎたそうだな。海堂」
「…っ…、……」
「そんな事しても聞こえなくならないと思うが…」
すこぶる機嫌よく笑う乾は、腕をゆるめてきた。
お互いの合間に少しの空間が出来る。
乾の手のひらが海堂の両耳を覆う。
海堂はそうされたまま乾を見返した。
「………………」
音が。
「海堂?」
音が、する。
血液が流れている音だろうか。
耳元にぴたりと宛がわれた乾の手のひらから聞こえてくる音。
それに集中して無意識に目を閉じた海堂は、再び唇を塞がれて、赤くなった。
ねだりでもしたかのような自身の振る舞いに気づいたからだ。
「なんか可愛い顔してたな、今」
何考えた?と乾がからかうでもない丁寧な口調で聞いてくる。
可愛いとか言うなと憮然としながらも、海堂は乾の音を尚もよく聞くように、その手のひらに耳元を預ける。
それだけの所作で乾は理解したようだ。
海堂の両耳に手のひらを宛てながら、近づいてきて囁いた。
「こうやって耳塞いだ時に聞こえてくる音って、何の音だか知ってるか。海堂」
「……血液の流れる音じゃないんですか」
「そう思われがちだけどな」
違うんだよ、と乾は言った。
「手のひらの筋肉が収縮してる音なんだよ、これ」
は?と思わず海堂は口にしていた。
「それって」
「疑うなよ」
本当の話、と笑う乾に、疑った訳ではと否定しながらも、海堂は自分の耳を覆っている乾の手のひらに集中する。
「筋肉は、細長い筋線維が束になってるだろう? 筋肉っていうのは収縮する時に微量の音が出てる。それが聞こえるんだ」
「………………」
これは乾の手のひらの筋肉が収縮している音。
海堂は、じっと耳を傾けた。
「だからそういう顔するとな……」
「………………」
言葉途中で、また。
キスをされた。
今度はもう少し深くて、長くて、重ねられたキスだ。
聴覚を遮断され、海堂に聞こえているのは乾の音だけだった。
海堂は唇をひらいていて、含まされた舌は、ひどく心地良かった。
キスがほどけて乾を見つめていると、珍しく乾が視線を泳がせた。
「………本当に両極端だな。海堂は」
「………………」
余所見か直視だ、と乾は囁き淡く苦笑いをしている。
海堂は無言で手を持ち上げた。
乾がしているように、海堂も。
乾の耳元を両手の手のひらで覆う。
乾にも聞こえているだろうか。
海堂の手のひらの筋肉の収縮音。
自分達の手は、同じ物を掴む、異なる手だ。
「………………」
お互いがお互いで聞いている音、それらを生む手は、いつの間にか重ねられて。
指を絡めて。
繋ぎ合った両手を下に落とし、静かにまたキスをする。
吐息も溶かしあう距離。
合わでた手のひら。
手のひらの音と音が重なって、互いの唇と唇が重なって、ゆっくり和いでいくのが判る。
余所見の仕方など、判らなくなった。
PR
この記事にコメントする
カテゴリー
アーカイブ
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析