How did you feel at your first kiss?
海堂は驚かなかった。
乾はその事に驚いた。
何せ今のこの体勢。
膝枕というより、膝腹枕だろう。
上半身を起こしている海堂の腿に乾は頭を乗せていて、薄く固い腹部に額を押し当て、張りつめた硬質なラインの腰には腕をしっかり回している。
甘ったれの域を越えて、ただひたすらにべったりくっついているという自覚はあった。
さすがに乾にも。
「海堂ー…」
「………どうしたんですか」
素っ気無いような声は、しかしいつでもぎこちなく過敏だ。
乾が呻いて初めて、海堂はそんなリアクションをした。
小さく落ちてきた声には生返事だけして、乾は海堂のやわらかな体温を感じ入るように腹部に尚も密着する。
「先輩?」
「暑っ苦しい上に鬱陶しくて悪いな」
「言ってねえよ。んなこと」
欠片も甘い声ではなかったけれど、海堂は乾のする事を諾々と受け入れたままだ。
「きもちいい」
「………………」
はあ、と力の抜けたような返事が、海堂の身体から響いてくる。
微かな羞恥心の交ざる憮然とした気配もしたが、乾がそう言えば海堂はそれを奪うような事はしない。
あんたが何したいんだか俺にはさっぱり判らねえと言いながら、海堂は腿に乾の頭を乗せられたまま身じろぐ事はない。
決して無意味に絡みたい訳でも、管を巻くような真似をしたい訳でもないのだが、乾は海堂を拘束しつつあれこれと呟いた。
それに対しての海堂の返事は短く、でも必ずあった。
「珍しいな、今日の海堂は。いい加減怒鳴りつけるなり蹴り飛ばすなりすればいいのに」
「面倒なんで」
「そりゃ面倒だよな。でかい図体の男に力任せにしがみつかれて、膝の上でぐだぐだ言われてれば」
「そんなのはもう慣れてる」
「慣れてるかあ……慣れたら、後は飽きるとかだろうなあ……」
「乾先輩」
頭に重いものが落ちてきたと思ったら。
それはどうやら海堂の拳のようだった。
乾に呻く隙も与えず、今度は平手で叩かれる。
同じ場所をだ。
容赦がない。
「しつけえんだよ」
凄む、本気の、低い声だ。
乾は苦笑いを海堂の腹部に埋めた。
「全くだ。俺自身でも否定しない」
「うるせえ。あんたじゃねえ。俺がだ」
あんた今俺と他の誰かと間違えてんのかと海堂に言われて、さすがに乾は身体を起こした。
幾ら何でも、そんな事がある筈がない。
「海堂、」
しかし、起こしかけた乾の身体は、海堂の手で強引に戻された。
先程拳を落とされ、平手で叩かれた後頭部を、今度は手のひらでぐいっと押さえ込まれたのだ。
再び海堂の腿に横向きの顔を乗せた乾は、自分の髪を海堂の指先が繰り返しすいていくのを感触で知る。
「慣れたって、俺は飽きねえよ。俺がしつけえの、あんた知ってんだろ」
ぶっきらぼうな口調で、でも海堂は落ち着いていた。
ひどく慣れない事をしている海堂の手は、とても丁寧だった。
「暑っ苦しかろうが、鬱陶しかろうが、あんただろ」
だったら俺は変わんねえよ、と海堂が呟く。
海堂が言ったのはそれだけだった。
海堂の言葉使いは時折こんな風に不思議だと乾は思う。
好きだと言われるよりも強く、好きだと告げられたような気持ちになる。
言葉を尽してしまいがちな乾の隣で、ぽつりと重鎮の言葉のみを置いてくる。
それが海堂だ。
詰め込みすぎた知識や予測や思考のせいで度々穿ちがちになったり身動きがとれなくなったりする乾の隣で、不器用なのに揺るがない、頑なそうでいてやわらかなものを持った姿でいる。
それが海堂だ。
「何に…誰に、感謝したらいいんだろうな。お前の事は」
ご両親か?やっぱり、などと言いながら乾は海堂の腿の上で寝返りをうった。
仰向けになる。
乾が見上げた先、海堂が珍しく薄く笑っている。
「自分を褒め称えればいいんじゃないっすか」
「どうして?」
「あんただけだから」
何が、とそこの所は。
初めから無い言葉のように抜けているのに。
やはり海堂の言葉は、乾にはひどく不思議だった。
好きだと言われるよりも強く、好きだと告げられたような気持ちになる。
口移しに同じ言葉を返したら、自分の気持ちも全く同じように伝わるのだろうかと思いながら、乾は下から腕を伸ばす。
しかし実際は。
声を出すよりも先に、引き寄せた海堂の唇に口付けてしまったせいで。
その試みは叶わなかった。
叶わなかったのに。
でも海堂は、それはきれいな笑みを乾にくれたのだけれど。
乾はその事に驚いた。
何せ今のこの体勢。
膝枕というより、膝腹枕だろう。
上半身を起こしている海堂の腿に乾は頭を乗せていて、薄く固い腹部に額を押し当て、張りつめた硬質なラインの腰には腕をしっかり回している。
甘ったれの域を越えて、ただひたすらにべったりくっついているという自覚はあった。
さすがに乾にも。
「海堂ー…」
「………どうしたんですか」
素っ気無いような声は、しかしいつでもぎこちなく過敏だ。
乾が呻いて初めて、海堂はそんなリアクションをした。
小さく落ちてきた声には生返事だけして、乾は海堂のやわらかな体温を感じ入るように腹部に尚も密着する。
「先輩?」
「暑っ苦しい上に鬱陶しくて悪いな」
「言ってねえよ。んなこと」
欠片も甘い声ではなかったけれど、海堂は乾のする事を諾々と受け入れたままだ。
「きもちいい」
「………………」
はあ、と力の抜けたような返事が、海堂の身体から響いてくる。
微かな羞恥心の交ざる憮然とした気配もしたが、乾がそう言えば海堂はそれを奪うような事はしない。
あんたが何したいんだか俺にはさっぱり判らねえと言いながら、海堂は腿に乾の頭を乗せられたまま身じろぐ事はない。
決して無意味に絡みたい訳でも、管を巻くような真似をしたい訳でもないのだが、乾は海堂を拘束しつつあれこれと呟いた。
それに対しての海堂の返事は短く、でも必ずあった。
「珍しいな、今日の海堂は。いい加減怒鳴りつけるなり蹴り飛ばすなりすればいいのに」
「面倒なんで」
「そりゃ面倒だよな。でかい図体の男に力任せにしがみつかれて、膝の上でぐだぐだ言われてれば」
「そんなのはもう慣れてる」
「慣れてるかあ……慣れたら、後は飽きるとかだろうなあ……」
「乾先輩」
頭に重いものが落ちてきたと思ったら。
それはどうやら海堂の拳のようだった。
乾に呻く隙も与えず、今度は平手で叩かれる。
同じ場所をだ。
容赦がない。
「しつけえんだよ」
凄む、本気の、低い声だ。
乾は苦笑いを海堂の腹部に埋めた。
「全くだ。俺自身でも否定しない」
「うるせえ。あんたじゃねえ。俺がだ」
あんた今俺と他の誰かと間違えてんのかと海堂に言われて、さすがに乾は身体を起こした。
幾ら何でも、そんな事がある筈がない。
「海堂、」
しかし、起こしかけた乾の身体は、海堂の手で強引に戻された。
先程拳を落とされ、平手で叩かれた後頭部を、今度は手のひらでぐいっと押さえ込まれたのだ。
再び海堂の腿に横向きの顔を乗せた乾は、自分の髪を海堂の指先が繰り返しすいていくのを感触で知る。
「慣れたって、俺は飽きねえよ。俺がしつけえの、あんた知ってんだろ」
ぶっきらぼうな口調で、でも海堂は落ち着いていた。
ひどく慣れない事をしている海堂の手は、とても丁寧だった。
「暑っ苦しかろうが、鬱陶しかろうが、あんただろ」
だったら俺は変わんねえよ、と海堂が呟く。
海堂が言ったのはそれだけだった。
海堂の言葉使いは時折こんな風に不思議だと乾は思う。
好きだと言われるよりも強く、好きだと告げられたような気持ちになる。
言葉を尽してしまいがちな乾の隣で、ぽつりと重鎮の言葉のみを置いてくる。
それが海堂だ。
詰め込みすぎた知識や予測や思考のせいで度々穿ちがちになったり身動きがとれなくなったりする乾の隣で、不器用なのに揺るがない、頑なそうでいてやわらかなものを持った姿でいる。
それが海堂だ。
「何に…誰に、感謝したらいいんだろうな。お前の事は」
ご両親か?やっぱり、などと言いながら乾は海堂の腿の上で寝返りをうった。
仰向けになる。
乾が見上げた先、海堂が珍しく薄く笑っている。
「自分を褒め称えればいいんじゃないっすか」
「どうして?」
「あんただけだから」
何が、とそこの所は。
初めから無い言葉のように抜けているのに。
やはり海堂の言葉は、乾にはひどく不思議だった。
好きだと言われるよりも強く、好きだと告げられたような気持ちになる。
口移しに同じ言葉を返したら、自分の気持ちも全く同じように伝わるのだろうかと思いながら、乾は下から腕を伸ばす。
しかし実際は。
声を出すよりも先に、引き寄せた海堂の唇に口付けてしまったせいで。
その試みは叶わなかった。
叶わなかったのに。
でも海堂は、それはきれいな笑みを乾にくれたのだけれど。
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