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How did you feel at your first kiss?
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 乾といると、海堂はよく上級生に構われる。
 つまりはそれは乾の同級生からということで、最も出現率の高い相手は、海堂よりも少しだけ背が低い。
「あー! 乾が海堂にヘンなクスリ飲ませてるー!」
 放課後、途中から一緒になった乾と、海堂が部室に向かうさなか。
 遭遇した菊丸が、言うなり駆け寄ってきて、海堂の背中に飛びついてくる。
 ぐっ、と海堂は咄嗟に息を詰まらせたものの、身軽な相手のウエイトはかなり軽くて助かった。
 そのまま背中に張り付かれたが、耐えられないほど重くはないのだ。
 ただ。
「………………」
 こういう気安い接触に海堂は弱い。
 どうしたらいいのかまるで判らない。
 とりえずこの衝撃で、今しがた乾の手で口に入れられたものを海堂はろくろく噛まずに飲み込んだ。
「人聞きの悪い事を言うんじゃない。英二」
 渋い顔をした乾の事など菊丸は目に入らないというような勢いで。
「大丈夫? 海堂」
「………………」
 菊丸先輩は心配だよーと言いながら、背後から顔を覗き込んでくるその人懐っこさに。
 海堂はなかなか慣れない。
 背中にどっかりと乗りかかられたまま、呻くような曖昧な頷きを返す海堂から、強引に菊丸を引き剥がしたのは乾だった。
「何すんだよ、乾!」
「何すんだじゃない。こういうところに入ってくるか普通」
「………………」
 こういう、というのは、どういう?と海堂は怪訝に眉根を寄せた。
 海堂の疑問はすぐに乾が言葉にしてきた。
「せっかく二人でいるっていうのに、見て見ぬ振りくらいしろ。友達甲斐のない奴だな」
 乾がさらりとあまりに恥ずかしいような事を菊丸に言ったので。
 海堂は唖然と乾を見据えるだけになる。
 たまたま一緒になって、歩いて、それだけだった行動に、いきなり甘い含みをもたされた。
 海堂が飲み込んだ甘いものよりも、もっと甘い。
「うっわー、開き直っちゃってる! もー、バカ乾! 二人っきりにかこつけて、薫ちゃんに変な薬飲ませんなっ」
「海堂の口に入れたのはチョコレートだよ。変な薬なんて飲ませるわけないだろう。なあ、海堂」
「………、はあ…」
 急に話を振ってこられて、海堂は乾の流し目に怯みつつも頷いた。
「変なチョコとかじゃないだろーな!」
「英二…お前、俺のことを何だと思ってるんだ」
「マッドサイエンス!」
「……あのなあ」
 気心知れた上級生同士の会話を、海堂はこの場から立ち去る事も出来ず、戸惑いつつ足を止めて見やっている。
「海堂、ほんとにただのチョコだった?!」
「は……」
 菊丸からも勢い良く話を向けられ、頷くより先に海堂は菊丸にぎゅっと抱き締められた。
「…、…っ…」
「俺心配! いい? 海堂。乾がヤバイと思ったら、速攻逃げな!」
「………はぁ…」
 あまりの剣幕に海堂が溜息と問いかけの入り混じったような声を上げると、乾が苦笑いして即座に間に割って入ってくる。
「おいおい。頷くなよ海堂」
「や、…頷いた訳じゃないですけど…」
「頷いてよ海堂!」
「離れろよ英二」
「力ずくで離しておいてから言うか!」
 乾はまた、菊丸の言った通りに。
 強引に海堂から菊丸を引き剥がしてきた。
 そして適当な口調で鞄に手をやって。
「お前にもチョコレートをやろう。だからこれ持って帰れ」
「これから部活だろ! 帰んねーよ」
 乾は無造作に、先程海堂の口に入れてきた小さなチョコレートを、今度は菊丸の手に握らせる。
 海堂には包み紙を破いて、丁寧にひとつ、口に入れてきたそれを。
 菊丸には鞄の中から雑に無数掴み取って、押し付けていた。
「ハーシーのキスチョコじゃん。ったくもー、余計にやらしいな」
「何がだ」
「食わせてやんのがだよ」
 菊丸は乾をからかっているのに、その言葉に今更ながら羞恥にかられたのは海堂の方だった。
 何となく、別段疑問ももたないで、海堂は乾に促されるままおとなしく口をひらいてしまったが。
 よくよく考えれば、チョコレートを食べさせられる、という行動が。
 異様に気恥ずかしい事のように思えてくる。
 思わず口許を片手で覆った海堂は、その上。
 いきなり。
 乾に強く引き寄せられて、何事かと激しく混乱した。
 海堂が乾を見上げると、肩にある乾の手に、更に強く抱き寄せられる。
 その体勢で乾は菊丸に言った。
「ハーシーのそのチョコレートが、どうしてキスチョコっていうか知ってるか?」
 聞いておいて乾は、すぐに答えを口にした。
「工場で、このチョコレートが機械に落ちる時、チュッとキスの時の音がするから名付けられた。何なら聞いていくか」
「……っ…、……」
「サイテー! バカ乾っ!」
 ものすごい速さで菊丸は部室へ走って行ってしまった。
 海堂は海堂で、乾に肩から抱き寄せられたまま、赤くなって戦慄いた。
 気持ち的には、菊丸と同じ言葉を口にして、菊丸と同じように走り去りたかった。
「海堂?」
「……、…っ…」
 笑っている乾に。
 案の定。
 あのチョコレートが作られる過程の音を、たてられる。
 頬の上に。
 

 逃げ出せなかったから。
 逃げ出さなかったから。
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