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How did you feel at your first kiss?
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 大概において自分の範疇外の行動をとる奴だと跡部は思っている。
 対象は、神尾アキラという生き物だ。
 一つ年下の、その割には大層なガキ、しかしそう思っていたのは最初のうち。
 今となっては、これはもう動物だと思うようになっていた。
 危害をくわえられる事はない、ガキの動物。
 今日も今日とて神尾は落ち着き無い事極まりなく、小さい身体でちょこまかしている。
 だいたい待ち合わせ場所に現れて、それで跡部を素通りした相手など、跡部は神尾以外に経験した事がない。
 ありえない振る舞いに本気で腹を立て、目を据わらせた跡部が強引に掴んだ神尾の腕は細かった。
 手に余るくらいに細かった。
 そうやって掴んだ二の腕から強く引き寄せると、うろうろと彷徨っていた神尾の目が真っ直ぐに跡部を見上げてきた。
 その時になって漸く、あ、と跡部に気づいた顔で笑う。
 嬉しいと、満面の笑みに込められたその表情は明け透けで。
 跡部は毒気を抜かれてしまった。
 そんな顔をするくらいなら何故通り過ぎたり出来るのかと甚だ疑問だ。
 舌打ちした跡部に対して、遅れてごめんな、と眉尻が下がる神尾の表情は本当に子供っぽい。
 跡部が無言で顎で指し示す仕草で促し歩き出すと、神尾は神妙についてはくるものの、また気もそぞろになってあちこち見回している。
 然して珍しい道でもないのにだ。
 跡部が視界の端でそんな様子を伺い見ていると、神尾はともかくきょろきょろと落ち着きがない。
 そのくせ時折ひどく真面目な顔で溜息などもついている。
 いったい何を珍しくもそこまで思いつめているのかと、仕方なく跡部は問いかけてみた。
 素っ気無い跡部の声に対し、返ってきた神尾の言葉はこれだ。
「俺よう、跡部。実は猫を撫でたいんだ。あ、今日中に」
 跡部には理解不能だった。
「………………」
 重ねて問いかける気力も湧かない。
 跡部は歩く足を止め、神尾を見下ろし、薄い唇を皮肉気に歪めた。
 漏らした溜息は我ながら冷徹だと思った跡部に、何故か神尾は、意味が伝わらなかったのが不思議そうな顔をしている。
「跡部?」
「………………」
「ええと、だから、猫な」
 まるで跡部にも判るようにと、神尾が言葉を噛み砕こうとしているのがまた余計に跡部を呆れさせた。
 何なんだこいつはと思う跡部に。
 猫、そのへんにいねえかなあ?と、神尾は跡部を上目に見やって首を傾けてくる。
 これはもう、ガキなのか動物なのか。
 いや実際、それよりももっとタチの悪い生き物かもしれないと、跡部は神尾の小さな顔を見下ろし内心で思う。
「猫…」
「………………」
 いたいけ。
 なんて言葉が脳裏に浮かぶような真っ直ぐな目で、神尾は跡部を無心に見つめてくる。
 今すぐにでもぐちゃぐちゃにしてやろうかなどという、跡部の心中など露とも知らない神尾は、単に跡部が訳が判らずに黙っているのだと思ったらしかった。
 あのな。と口調を変えてきた。
「俺、昨日ハッピーターン食ったんだよ。だからなんだけど」
 何がどうしてだからなのかと呆れる以前に。
「………なんだそれは」
 食えるらしいハッピーターンとやらが跡部には判らない。
 会話の出来ない自分達に不機嫌も露に聞けば、神尾は不思議そうに更に小首を傾けた。
「あれ…知らない? お菓子。甘じょっぱいやつ」
「てめえの説明でますます判らねえ」
「煎餅みたいなやつ。こう、ちょっと長い。で、透明なのでくるくるって」
「………………」
 身振り手振りまで感情豊かな神尾のボディランゲージがまた跡部には皆目検討がつかない。
 子供っぽい仕草が可愛くなくもないが。
 ともかくそういう食べ物があるらしいとだけ認識して、跡部はすごむように先を促した。
「それが何だ」
「そのハッピーターンを包んでる透明な紙に、えっと、マメ知識?…みたいなのが書いてあった」
「………………」
「猫がくしゃみをする夢を見ると、幸せになれるんだって」
 そう書いてあったんだと神尾は言って、それから眩しいばかりの明るい笑顔になって。
「俺、今日、猫がくしゃみする夢みた!」
 でもさ、と今度はすぐさま肩を落とす。
 本当に、あまりにも目まぐるしい。
 跡部は腕組みして憮然と神尾を見下ろしつつも内心で。
 この生き物を一生自分だけのものにする方法を考えてしまったりする。
「でも、もしその猫のしっぽが短かったら、幸せの後に大どんでん返し。大きな落とし穴が待ってるって、ハッピーターンの包み紙に書いてあったんだ」
 しょぼくれた華奢な肩。
 細い首。
 跡部は見下ろして、目を細める。
 この間、第一頚椎と第二頚椎のあたりにつけてやった鬱血の痕は、まだうっすらと色づいて見下ろせる。
「………………」
「それでさ、幸せの後の大どんでん返しにならない為には、夢をみたその日中に猫を探して、撫でてやるといいんだって」
 だから俺、猫を今日は一日ずうっと探してるんだけどよう、と神尾は呟いた。
 それであの落ち着きの無い態度かと、跡部は漸く納得する。
 跡部には全く持って理解できない行動だけれど。
 神尾ならば、いかにも当然といった気がした。
 さてどうしてやろうかと跡部は考える。
 猫ねえ、僅かに首を傾げた跡部の視界で、しかし神尾がいきなりまた突拍子もない事を口にしてきた。
「跡部……」
「…アア?」
「跡部って…猫っぽい…よな…?」
「何だと?」
 猫!と神尾が叫んだ。
 うるせえ、と跡部が怒鳴るより先に。
「うん。跡部、猫っぽい。…ってゆーか、猫だ!……あれ、…ってことは……」
「……おい」
「跡部を撫でておけばいいんじゃねえ?」
「てめ、…」
 言うが早いか神尾の手が伸びてきた。
 両手。
 爪先立って、くしゃくしゃと跡部の髪をかきまぜてくる。
 嬉しそうな満面の笑みと共にだ。
「あー、よかった! すっきりした!」
「………っ…、…」
 跡部が物凄い形相になったのは。
 乱された髪に対してではない。
 警戒心などまるでない指先と、無邪気な笑い顔のせいだ。
 大どんでん返しを免れたらしい神尾に、まんまとはめられて。
 それならいっそ、一生、一緒に。
 幸せというもので雁字搦めにしてやると目論む跡部は、凶悪に甘く笑みを零した。
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