How did you feel at your first kiss?
何か言われる前に、ともかく跡部より先にと神尾は口をひらいた。
跡部の家の玄関先で、半ば叫ぶようにして神尾が口にした言葉は。
「俺が折ったんじゃないんだからな!」
すると跡部は少し目を細めて神尾を見下ろして、そこから神尾の手にあるものに視線を移し、見りゃ判ると言った。
「……跡部?」
「ここに来るまでに何人に言われたんだ。お前」
「………三人」
子供っぽいと自分でも思ったが、神尾は膨れた。
盛大に膨れた。
右手に持っている桜の枝に視線を落として、窘めるような注意を三人分思い返して憮然とする。
「いくら桜が綺麗だからって、俺は折ったりしないのによぅ…」
「判ってる」
「………………」
溜息に混ぜて神尾が言えば、跡部は至極平然と繰り返してくるので。
何だか急に気恥ずかしくなってきた。
判ってる、という跡部の言葉がむやみやたらに恥ずかしく胸を擽って、うろうろと視線を彷徨わせ出した神尾に、跡部が唇の端で笑った。
皮肉気な表情なのに、目だけがどうしようもな優しく見えたのは、いきなり跡部の顔が目前にあるからだと神尾が気づいた時にはもう。
極軽く、唇が掠めとられていた。
「昼間の風で折れてたんだろ」
お互いの唇と唇の合間の声はとろりと甘い味すらしそうで神尾は硬直してしまった。
実際跡部の予測は正しい。
昼間はひどい強風だった。
跡部の家へ向かう道すがらに見つけた無残に折れてしまっていた桜の枝を、神尾は捨て置けず持って来たのだ。
道中、三度の注意を受けながら。
確かに綺麗な桜の枝だけれど、有無を言わせずに窘められてへこんだ神尾に、跡部は言うのだ
判ってると。
「………………」
制服姿のままの神尾と違い、跡部は首周りの広く開いたやわらかい生地の私服姿だ。
改めて目の当たりにする剥き出しの喉やら首筋やらまで全部が綺麗で、何なんだろうこの男はと神尾は呻くしかない。
冷たそうな顔で、艶のある声で、神尾に判っていると告げてくる、囁いてくる男。
ジーンズのポケットに親指を引っ掛けて僅かに屈み、跡部は神尾の頬や目元を唇で掠めてくる。
それを神尾はじっと受け止めているだけで精一杯だ。
「桜の枝まで折れたのかよ」
「…………、…っ……」
「七分咲きってとこか」
まだ蕾があるな、と囁き神尾が持つ桜に目線を落とす、その伏せた目元を。
真っ向から見てしまった神尾は、ぐっと息をのむ。
泣きボクロ、長い睫毛、きつい眼差し。
勘弁して欲しい。
勘弁して欲しい。
勘弁して欲しい。
ひたすらそう繰り返して、頭がぐらぐらしてきて、足元が覚束なくなる。
「……お前のが散りそうじゃねえの」
バァカ、と聞き慣れた低音の笑い声が神尾の耳元で聞こえたけれど。
そういうツラを他所で絶対見せるんじゃねえと、怖いような声で凄まれ威されたけれど。
神尾の身体は跡部の腕に、ひどく熱っぽくかき抱かれた。
「………跡部…」
抱き締められる。
「しょうがねえから、今日は特別に許可してやるよ」
「…え…?……」
「特例だ。ベッドに上げてやる」
なに?と神尾がぼんやり問うと、跡部は神尾が桜の枝を掴んでいる手の甲を、指先で静かに撫でるので。
うわあ、と声にならない声で跡部の胸元に顔を伏せるしか出来ない神尾だ。
許可って、特例って、ベッドに上げてやるって。
そういうのは、桜に向ける言葉だろうか。
「……跡部…さぁ…」
強風に折れてしまった桜の枝だけれど、せっかく綺麗に咲いたのだから。
きちんと愛でてあげたいなと思って、ここまで持って来た神尾だけれど。
「………ベッドで花見…?」
「お前は俺が丁寧に散らしてやるよ」
「もー、くち、ひらくな跡部…」
恥ずかしいよお前、と泣き言を口にした神尾に跡部は機嫌の良い笑い声を響かせて。
いとも容易く神尾を抱え上げてくれたかと思えば、行先は桜ごと、跡部の寝室だった。
跡部の家の玄関先で、半ば叫ぶようにして神尾が口にした言葉は。
「俺が折ったんじゃないんだからな!」
すると跡部は少し目を細めて神尾を見下ろして、そこから神尾の手にあるものに視線を移し、見りゃ判ると言った。
「……跡部?」
「ここに来るまでに何人に言われたんだ。お前」
「………三人」
子供っぽいと自分でも思ったが、神尾は膨れた。
盛大に膨れた。
右手に持っている桜の枝に視線を落として、窘めるような注意を三人分思い返して憮然とする。
「いくら桜が綺麗だからって、俺は折ったりしないのによぅ…」
「判ってる」
「………………」
溜息に混ぜて神尾が言えば、跡部は至極平然と繰り返してくるので。
何だか急に気恥ずかしくなってきた。
判ってる、という跡部の言葉がむやみやたらに恥ずかしく胸を擽って、うろうろと視線を彷徨わせ出した神尾に、跡部が唇の端で笑った。
皮肉気な表情なのに、目だけがどうしようもな優しく見えたのは、いきなり跡部の顔が目前にあるからだと神尾が気づいた時にはもう。
極軽く、唇が掠めとられていた。
「昼間の風で折れてたんだろ」
お互いの唇と唇の合間の声はとろりと甘い味すらしそうで神尾は硬直してしまった。
実際跡部の予測は正しい。
昼間はひどい強風だった。
跡部の家へ向かう道すがらに見つけた無残に折れてしまっていた桜の枝を、神尾は捨て置けず持って来たのだ。
道中、三度の注意を受けながら。
確かに綺麗な桜の枝だけれど、有無を言わせずに窘められてへこんだ神尾に、跡部は言うのだ
判ってると。
「………………」
制服姿のままの神尾と違い、跡部は首周りの広く開いたやわらかい生地の私服姿だ。
改めて目の当たりにする剥き出しの喉やら首筋やらまで全部が綺麗で、何なんだろうこの男はと神尾は呻くしかない。
冷たそうな顔で、艶のある声で、神尾に判っていると告げてくる、囁いてくる男。
ジーンズのポケットに親指を引っ掛けて僅かに屈み、跡部は神尾の頬や目元を唇で掠めてくる。
それを神尾はじっと受け止めているだけで精一杯だ。
「桜の枝まで折れたのかよ」
「…………、…っ……」
「七分咲きってとこか」
まだ蕾があるな、と囁き神尾が持つ桜に目線を落とす、その伏せた目元を。
真っ向から見てしまった神尾は、ぐっと息をのむ。
泣きボクロ、長い睫毛、きつい眼差し。
勘弁して欲しい。
勘弁して欲しい。
勘弁して欲しい。
ひたすらそう繰り返して、頭がぐらぐらしてきて、足元が覚束なくなる。
「……お前のが散りそうじゃねえの」
バァカ、と聞き慣れた低音の笑い声が神尾の耳元で聞こえたけれど。
そういうツラを他所で絶対見せるんじゃねえと、怖いような声で凄まれ威されたけれど。
神尾の身体は跡部の腕に、ひどく熱っぽくかき抱かれた。
「………跡部…」
抱き締められる。
「しょうがねえから、今日は特別に許可してやるよ」
「…え…?……」
「特例だ。ベッドに上げてやる」
なに?と神尾がぼんやり問うと、跡部は神尾が桜の枝を掴んでいる手の甲を、指先で静かに撫でるので。
うわあ、と声にならない声で跡部の胸元に顔を伏せるしか出来ない神尾だ。
許可って、特例って、ベッドに上げてやるって。
そういうのは、桜に向ける言葉だろうか。
「……跡部…さぁ…」
強風に折れてしまった桜の枝だけれど、せっかく綺麗に咲いたのだから。
きちんと愛でてあげたいなと思って、ここまで持って来た神尾だけれど。
「………ベッドで花見…?」
「お前は俺が丁寧に散らしてやるよ」
「もー、くち、ひらくな跡部…」
恥ずかしいよお前、と泣き言を口にした神尾に跡部は機嫌の良い笑い声を響かせて。
いとも容易く神尾を抱え上げてくれたかと思えば、行先は桜ごと、跡部の寝室だった。
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