How did you feel at your first kiss?
そろそろ限界だろう。
本人が気づいていないけれど、海堂は判ってしまって手を伸ばす。
「先輩」
オーバーワークです、と続けた言葉は。
五回に四回は乾が海堂に向けて言う言葉だが、五回に一回は海堂が乾に向けて言う言葉だ。
「海堂?」
「………………」
不思議そうな顔をする乾に溜息をつき、海堂は首を左右に振った。
乾の部屋、何時間データに没頭しているつもりなのか、この男は。
集中力の継続時間について、ついこの間は海堂を窘め諭した本人が今日はこれだ。
「………………」
ペンは没収。
ノートは勝手に閉じた。
デジタル機器は電源を落とし、あからさまに物足りなさそうな顔をする乾の前で、海堂はお互いの距離を縮める。
物足りなさを訴える両腕で、それなら自分を抱き締めろと近づいた。
「………海堂」
「………………」
触ってみて、確かめる言い方に、そうだと返す代わりに海堂はじっとしていた。
背中に乾の手のひらが宛がわれる。
いつまでもいつまでも無機質な物体ばかり触っていた乾の手は、生命の感触に麻痺したかのようにぎこちない。
それでもゆっくり海堂の背筋を撫で擦るように動く所作はたどたどしくも優しい。
「海堂」
「はい」
噛み締めるように名前を呼ばれた。
これはもう、しっかり認識している声だ。
海堂が頷くと、密着感が増した。
ぐっと背中を抱き寄せられ、海堂の身体は乾の胸元で薄くなる。
一所に夢中になって、周囲が見えなくなってしまう似た者同士の自分達だ。
海堂もよく乾にトレーニングのオーバーワークを窘められるが、乾のデスクワークも相当に基準外だ。
海堂が止めなければ何時までも何時までも乾は没頭していて、限度ぎりぎりの睡眠時間や食事で毎日をまかなってしまう。
「海堂」
「………………」
「もう少し」
「……先輩?」
もう少し何だと海堂が聞き返せないまま、長い腕は一層強く海堂を抱きこんでくる。
いっそ苦しいくらいに強くだ。
「……何っすか…先輩」
ぽつんと海堂が低く口にすると、乾は唸るような声を出した後、海堂と同じような言い方をした。
低く、端的に。
「わかんない」
そんな乾らしくもない子供っぽい言い方が。
可愛いように思えてならない。
こんなにも強い腕で抱き寄せてくるのに、甘えるように顔を伏せてもくる。
「先輩」
海堂は、そんな乾の奇妙なアンバランスさに、闇雲な安堵感を覚える事があった。
人付き合いに器用なようでいて、自己管理に長けていて、でも乾はまるで海堂のように誰にも見せないバランスの悪さ、そして脆さを持っている。
「嘘だよ。判ってる」
「………………」
好きだ、と言う。
だからもう少し、と言う。
抱き締められる力が増す。
こうしていたがる腕。
乞うのか、請うのか。
乾は海堂を抱き締めて、ゆるゆると溶解していく。
戻ってくる。
何かから、何処かから。
乾はいつもこうして、海堂を抱き締めて、漸く。
「温かいな、お前、身体」
「………………」
簡単にいつでも冷えてしまっている乾の手が、ゆっくりと海堂の体温で温まっていく。
同化していく意識。
それを体感する。
何処かからか戻ってくる時の乾は、いつでもこうして海堂の腕の中に在る。
本人が気づいていないけれど、海堂は判ってしまって手を伸ばす。
「先輩」
オーバーワークです、と続けた言葉は。
五回に四回は乾が海堂に向けて言う言葉だが、五回に一回は海堂が乾に向けて言う言葉だ。
「海堂?」
「………………」
不思議そうな顔をする乾に溜息をつき、海堂は首を左右に振った。
乾の部屋、何時間データに没頭しているつもりなのか、この男は。
集中力の継続時間について、ついこの間は海堂を窘め諭した本人が今日はこれだ。
「………………」
ペンは没収。
ノートは勝手に閉じた。
デジタル機器は電源を落とし、あからさまに物足りなさそうな顔をする乾の前で、海堂はお互いの距離を縮める。
物足りなさを訴える両腕で、それなら自分を抱き締めろと近づいた。
「………海堂」
「………………」
触ってみて、確かめる言い方に、そうだと返す代わりに海堂はじっとしていた。
背中に乾の手のひらが宛がわれる。
いつまでもいつまでも無機質な物体ばかり触っていた乾の手は、生命の感触に麻痺したかのようにぎこちない。
それでもゆっくり海堂の背筋を撫で擦るように動く所作はたどたどしくも優しい。
「海堂」
「はい」
噛み締めるように名前を呼ばれた。
これはもう、しっかり認識している声だ。
海堂が頷くと、密着感が増した。
ぐっと背中を抱き寄せられ、海堂の身体は乾の胸元で薄くなる。
一所に夢中になって、周囲が見えなくなってしまう似た者同士の自分達だ。
海堂もよく乾にトレーニングのオーバーワークを窘められるが、乾のデスクワークも相当に基準外だ。
海堂が止めなければ何時までも何時までも乾は没頭していて、限度ぎりぎりの睡眠時間や食事で毎日をまかなってしまう。
「海堂」
「………………」
「もう少し」
「……先輩?」
もう少し何だと海堂が聞き返せないまま、長い腕は一層強く海堂を抱きこんでくる。
いっそ苦しいくらいに強くだ。
「……何っすか…先輩」
ぽつんと海堂が低く口にすると、乾は唸るような声を出した後、海堂と同じような言い方をした。
低く、端的に。
「わかんない」
そんな乾らしくもない子供っぽい言い方が。
可愛いように思えてならない。
こんなにも強い腕で抱き寄せてくるのに、甘えるように顔を伏せてもくる。
「先輩」
海堂は、そんな乾の奇妙なアンバランスさに、闇雲な安堵感を覚える事があった。
人付き合いに器用なようでいて、自己管理に長けていて、でも乾はまるで海堂のように誰にも見せないバランスの悪さ、そして脆さを持っている。
「嘘だよ。判ってる」
「………………」
好きだ、と言う。
だからもう少し、と言う。
抱き締められる力が増す。
こうしていたがる腕。
乞うのか、請うのか。
乾は海堂を抱き締めて、ゆるゆると溶解していく。
戻ってくる。
何かから、何処かから。
乾はいつもこうして、海堂を抱き締めて、漸く。
「温かいな、お前、身体」
「………………」
簡単にいつでも冷えてしまっている乾の手が、ゆっくりと海堂の体温で温まっていく。
同化していく意識。
それを体感する。
何処かからか戻ってくる時の乾は、いつでもこうして海堂の腕の中に在る。
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初めまして。
1ヶ月程前からこちらのサイトにお邪魔させて頂いているのですが…今夜はなかなかねつけずこちらの鳳宍を読み返していまして。(ホントです!! さあ寝よう。としたら乾海SSが更新されている!!!!この嬉しすぎるリア遭遇の瞬間に乗じてコメントさせて頂きました。今回も2人の間の優しい空気が心にしみて。更に乾海妄想が広がり…眠れなくなりそうです。笑 携帯で拝見させて頂いているため拍手が送れないので。こちらから送らせて頂きます。 こちらを訪ねてから1週間で。SSやノベルほぼすべて拝見させて頂いたのですが…1部携帯からでは閲覧できないところがありまして。更に言うと。そこが直り、全てのお話を拝見してからコメをしようかなと思っていました。まさに今日の瞬間は予想外!!なので…こちらのサイトで感激した様々なシーンについて書き足りないので。また後日コメントさせて下さい。拙い上に興奮中のため失礼な箇所があるかと思いますが。これで失礼します。これからも胸が淡く甘くしめつけられるお話を心待ちしています。
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