How did you feel at your first kiss?
テリトリーの境界線には厳しそうな人なので、宍戸が一人でいると、まず近寄っていっていいものか暫し悩む。
声をかけてもいいのかどうか。
一瞬人をそう悩ませる雰囲気のある人で。
それを取っ付きにくいとみる輩は宍戸にあまり近寄らない。
しかし、恐る恐るでも近寄っていった人間からすると、拍子抜けするくらい実は気さくで面倒見の言い宍戸を目の当たりにする事になる。
くっきりと線引きをされていそうな境界線の境目は寛容で、素っ気無い言葉で冷たくあしらわれる事もない。
イメージとのギャップに面食らって、その後からはもう、彼を慕う人間が増えていくだけだ。
宍戸の一学年下だった鳳にとっては、先入観も何もなく、最初から宍戸のそういう性格が不思議とよく判っていた。
だから入学当初から今に至る一年の間、よく言われていた「あの宍戸先輩とよく普通に話せるな」という意味合いの言葉の数々を不思議に思っていた。
「それは周りの奴らのが正しいんじゃねーの?」
「何でですか?」
「……真顔で聞くなよ」
脱力した宍戸を前に、鳳は軽く首を傾ける。
「本当にさっぱり判りません。俺」
「………そーかい」
ますます肩を落として呆れたような宍戸の髪に、鳳は手を伸ばした。
鳳がレギュラー入りを果たしてから、宍戸との距離は、また近くなっている。
「何だよ」
「綺麗ですね……本当に」
「………お前のキャラが未だに掴めねえよ。俺は」
呆れ返った口調の宍戸の髪を指先ですくう。
何の手入れをしなくてもこの状態だと宍戸が言っていたのに対して鳳はつくづく感心している。
「そういう嘘っぽい台詞をよくまあマジなツラして……」
「何ですか嘘って」
苦笑いを浮かべて、鳳は名残惜しく手を引いた。
「本当ですよ」
「どっちでもいいけどよ…」
本当の事と、嘘の事。
どっちでもいい訳ないけれど。
はっきりさせたい事の方が多いものだけれど。
でも、例えば宍戸のように。
見た目の印象と本来の性質とに、大きくギャップのあるような人のことを考えると。
一概に白黒はっきりつける必要はないのかもしれないと鳳は思う。
本当の逆にあるものは、嘘ではないのかもしれない。
「……本当の反対が、即、嘘っていうのも。何かさみしいですよね」
「じゃあ本当の反対にあるのは何だよ」
本当の、真実の、反対にあるものは。
鳳は、宍戸を見つめて呟いた。
「………秘密かな?」
「…………………」
宍戸を、厳しい人と思う者もいる。
宍戸を、優しい人と思う者もいる。
そのどちらであっても、思う人間からすればそれが本当だ。
だから、その本当の裏にあるものは、嘘じゃない。
秘密だ。
「お前…つくづく性格いいな」
感嘆の息で宍戸が溜息を零す。
鳳は思わずうろたえた。
「やめてくださいよ」
「それこそ嘘じゃねーよ」
「宍戸さん?」
「本当の事。もしくは秘密の事。……だろ?」
笑う宍戸の表情は鮮やかで。
幾度となく目にしても鳳はその都度視界を眩しく覆われる。
休憩終わり、と言って宍戸が立ち上がった。
部長である跡部の声も聞こえてきて、鳳も倣って腰を上げた。
華奢でありながら、触れないと、そう感じさせない強い背を向けて、先を歩く宍戸の背後で鳳は思う。
宍戸に伝えている事は、全て本当の事。
宍戸に伝えないでいる事は、全て秘密の事。
声をかけてもいいのかどうか。
一瞬人をそう悩ませる雰囲気のある人で。
それを取っ付きにくいとみる輩は宍戸にあまり近寄らない。
しかし、恐る恐るでも近寄っていった人間からすると、拍子抜けするくらい実は気さくで面倒見の言い宍戸を目の当たりにする事になる。
くっきりと線引きをされていそうな境界線の境目は寛容で、素っ気無い言葉で冷たくあしらわれる事もない。
イメージとのギャップに面食らって、その後からはもう、彼を慕う人間が増えていくだけだ。
宍戸の一学年下だった鳳にとっては、先入観も何もなく、最初から宍戸のそういう性格が不思議とよく判っていた。
だから入学当初から今に至る一年の間、よく言われていた「あの宍戸先輩とよく普通に話せるな」という意味合いの言葉の数々を不思議に思っていた。
「それは周りの奴らのが正しいんじゃねーの?」
「何でですか?」
「……真顔で聞くなよ」
脱力した宍戸を前に、鳳は軽く首を傾ける。
「本当にさっぱり判りません。俺」
「………そーかい」
ますます肩を落として呆れたような宍戸の髪に、鳳は手を伸ばした。
鳳がレギュラー入りを果たしてから、宍戸との距離は、また近くなっている。
「何だよ」
「綺麗ですね……本当に」
「………お前のキャラが未だに掴めねえよ。俺は」
呆れ返った口調の宍戸の髪を指先ですくう。
何の手入れをしなくてもこの状態だと宍戸が言っていたのに対して鳳はつくづく感心している。
「そういう嘘っぽい台詞をよくまあマジなツラして……」
「何ですか嘘って」
苦笑いを浮かべて、鳳は名残惜しく手を引いた。
「本当ですよ」
「どっちでもいいけどよ…」
本当の事と、嘘の事。
どっちでもいい訳ないけれど。
はっきりさせたい事の方が多いものだけれど。
でも、例えば宍戸のように。
見た目の印象と本来の性質とに、大きくギャップのあるような人のことを考えると。
一概に白黒はっきりつける必要はないのかもしれないと鳳は思う。
本当の逆にあるものは、嘘ではないのかもしれない。
「……本当の反対が、即、嘘っていうのも。何かさみしいですよね」
「じゃあ本当の反対にあるのは何だよ」
本当の、真実の、反対にあるものは。
鳳は、宍戸を見つめて呟いた。
「………秘密かな?」
「…………………」
宍戸を、厳しい人と思う者もいる。
宍戸を、優しい人と思う者もいる。
そのどちらであっても、思う人間からすればそれが本当だ。
だから、その本当の裏にあるものは、嘘じゃない。
秘密だ。
「お前…つくづく性格いいな」
感嘆の息で宍戸が溜息を零す。
鳳は思わずうろたえた。
「やめてくださいよ」
「それこそ嘘じゃねーよ」
「宍戸さん?」
「本当の事。もしくは秘密の事。……だろ?」
笑う宍戸の表情は鮮やかで。
幾度となく目にしても鳳はその都度視界を眩しく覆われる。
休憩終わり、と言って宍戸が立ち上がった。
部長である跡部の声も聞こえてきて、鳳も倣って腰を上げた。
華奢でありながら、触れないと、そう感じさせない強い背を向けて、先を歩く宍戸の背後で鳳は思う。
宍戸に伝えている事は、全て本当の事。
宍戸に伝えないでいる事は、全て秘密の事。
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