How did you feel at your first kiss?
四月の第一月曜日に当たる頃は悪魔の誕生日と言われているらしい。
つまり今日で。
神尾がそれ跡部に言うと、跡部の返答には何の感慨もなかった。
「俗説だがな」
あっさりとしたものである。
不満と呆れとで半々になった顔で神尾は唸った。
「あのよー……跡部さ、ちょっとは驚けよ。悪魔の誕生日だぞ? すごいじゃんかよ」
「……悪魔の誕生日だからって、それのどこがすごいのか俺にはさっぱり判らねえよ」
「だって悪魔の誕生日だぜ? 普通そう言われたらもう少し驚くとかしねえ?」
「だいたい今時分は気候が不安定だから、海に出れば荒れる、地上に居ても荒れる、その程度の理由で悪魔の誕生日だ何だって言われてるだけの事だろうが」
不機嫌な跡部がうんざりと言った言葉に。
うっかり感心してしまった神尾は。
「………跡部ってさ……何ていうか、こう、知らない事とかないわけ?」
「ないな」
「……即答かよ」
深々と溜息をつく羽目になる。
判ってはいても、思い知らされる。
跡部の性格や言動は、神尾をよく脱力させた。
常識離れした金持ちっぷりにもそうだし、桁外れの頭の良さにしてもそうだ。
あと、俺様っぷりとかも。
「………神尾」
しかし今は、跡部も負けてはいないとでも言いたげに、盛大で派手であからさまな溜息を吐き出してきた。
「なんだよ?」
「この状態でそこまで喋っていられるお前の頭の中が俺には皆目不明だ」
「え?………、ン…、…」
額を、ぐっと真上から押さえつけられて。
深く、強く、合わせられた唇。
ベッドに組み敷かれていたことを忘れていた訳ではなかったけれど。
神尾に乗り上げてきていた跡部に見下ろされていること。
始まろうとしていたこと。
誤魔化すつもりは毛頭無かったが、だからってこんな、唇が歪むくらい強いキスはどうかと思う。
「ん……、ゃ……」
跡部の胸を押し返そうとして失敗。
かぶりを振ってキスからのがれようとして失敗。
抑えようとして逆に上擦った声を出してしまって失敗。
神尾は何もかもを失敗したのに。
「……ふ……、ぁ…」
「……………」
跡部の手にゆっくりと髪を撫で付けられて、神尾の頭の中に、何か甘いいけないものが滲んでくる。
髪の払われた額や、頭皮に、宛がわれ撫でられる。
跡部の手の感触。
「………っ…ん…」
まさぐられるように口腔を、跡部の舌に探られる。
角度を変えて。
時折はとても深いところまで沈んできて。
そんなキスが延々と続くので、神尾の唇は、震えて震えてどうしようもなくなった。
「………神尾」
「……、………、は…」
浅く呼気の当たる距離で、キスを途切れさせた跡部が食い入るような眼差しを神尾に向けてくる。
近すぎて惑うように。
近すぎて見つけられないように。
神尾の目に跡部がはっきりと写らない。
切れ切れの呼吸に。
潤んだ視界に。
水中で泳いでいるみたいだと神尾は思った。
跡部の輪郭もぼやけているようで、横たわっているのにくらくらした。
「…っ…ん…」
息を整えるように。
こくんと喉にあるようなものを神尾は飲んだ。
何故かその瞬間跡部の気配が強くなって。
この、悪魔、と。
何だか嗄れたような声で跡部が言ったような気がしたが、神尾は気のせいだと思う。
意味が判らないから。
それより、今なにを飲んだのかとぼんやり考えた。
何かひどく慣れないようなもの。
喉がじんわりと熱かった。
「ん…ぅ………、…」
すぐにまた跡部に唇が塞がれてきて、舌と息とが絡む感触、自然と口角から零れ出るもの、それが口腔に溜まり、ひいては飲み干したのだと気づいて神尾の脳裏がぼうっと熱で霞んだ。
「…、……、…ん、…、っ」
跡部の舌に纏わりつかれながら、神尾は跡部の背中に縋る。
背を丸めるようにして、神尾の上、神尾に覆い被さるようにしてくる跡部の背のシャツを握り締めて。
神尾が持て余しそうなほど屈強で広い背に両手で縋った。
「……ン……ぅ……ん…」
シャツを握りこんで拳を丸めて、溺れているような必死で切羽詰った喉声ばかりがついて出てくる。
この男こそ悪魔なんじゃないかと、神尾は朦朧と思った。
「………少しはその気になったかよ」
唇を離して、悪い笑みを刻んで。
跡部は神尾の首筋に言葉を埋めた。
「……ャ……なに……、……」
「いつもみたいに泣いて頼めば終わると思うなよ」
「ぇ…、……っ…ん…?……跡部…?」
笑いながら機嫌を損ねているらしい跡部のバランスが、神尾には図れない。
何だかひどく恥ずかしい事を言われている気もするが、どうする事も出来ない。
「…………、…ぁ」
服と素肌の間に滑り込んできた跡部の手のひらの下、血液が流れる音すらも聞こえてきそうな自分自身の体の乱れにも。
すでに神尾には対応出来るものではなくなっていた。
四月最初の月曜日。
ここに悪魔が生まれてしまった。
つまり今日で。
神尾がそれ跡部に言うと、跡部の返答には何の感慨もなかった。
「俗説だがな」
あっさりとしたものである。
不満と呆れとで半々になった顔で神尾は唸った。
「あのよー……跡部さ、ちょっとは驚けよ。悪魔の誕生日だぞ? すごいじゃんかよ」
「……悪魔の誕生日だからって、それのどこがすごいのか俺にはさっぱり判らねえよ」
「だって悪魔の誕生日だぜ? 普通そう言われたらもう少し驚くとかしねえ?」
「だいたい今時分は気候が不安定だから、海に出れば荒れる、地上に居ても荒れる、その程度の理由で悪魔の誕生日だ何だって言われてるだけの事だろうが」
不機嫌な跡部がうんざりと言った言葉に。
うっかり感心してしまった神尾は。
「………跡部ってさ……何ていうか、こう、知らない事とかないわけ?」
「ないな」
「……即答かよ」
深々と溜息をつく羽目になる。
判ってはいても、思い知らされる。
跡部の性格や言動は、神尾をよく脱力させた。
常識離れした金持ちっぷりにもそうだし、桁外れの頭の良さにしてもそうだ。
あと、俺様っぷりとかも。
「………神尾」
しかし今は、跡部も負けてはいないとでも言いたげに、盛大で派手であからさまな溜息を吐き出してきた。
「なんだよ?」
「この状態でそこまで喋っていられるお前の頭の中が俺には皆目不明だ」
「え?………、ン…、…」
額を、ぐっと真上から押さえつけられて。
深く、強く、合わせられた唇。
ベッドに組み敷かれていたことを忘れていた訳ではなかったけれど。
神尾に乗り上げてきていた跡部に見下ろされていること。
始まろうとしていたこと。
誤魔化すつもりは毛頭無かったが、だからってこんな、唇が歪むくらい強いキスはどうかと思う。
「ん……、ゃ……」
跡部の胸を押し返そうとして失敗。
かぶりを振ってキスからのがれようとして失敗。
抑えようとして逆に上擦った声を出してしまって失敗。
神尾は何もかもを失敗したのに。
「……ふ……、ぁ…」
「……………」
跡部の手にゆっくりと髪を撫で付けられて、神尾の頭の中に、何か甘いいけないものが滲んでくる。
髪の払われた額や、頭皮に、宛がわれ撫でられる。
跡部の手の感触。
「………っ…ん…」
まさぐられるように口腔を、跡部の舌に探られる。
角度を変えて。
時折はとても深いところまで沈んできて。
そんなキスが延々と続くので、神尾の唇は、震えて震えてどうしようもなくなった。
「………神尾」
「……、………、は…」
浅く呼気の当たる距離で、キスを途切れさせた跡部が食い入るような眼差しを神尾に向けてくる。
近すぎて惑うように。
近すぎて見つけられないように。
神尾の目に跡部がはっきりと写らない。
切れ切れの呼吸に。
潤んだ視界に。
水中で泳いでいるみたいだと神尾は思った。
跡部の輪郭もぼやけているようで、横たわっているのにくらくらした。
「…っ…ん…」
息を整えるように。
こくんと喉にあるようなものを神尾は飲んだ。
何故かその瞬間跡部の気配が強くなって。
この、悪魔、と。
何だか嗄れたような声で跡部が言ったような気がしたが、神尾は気のせいだと思う。
意味が判らないから。
それより、今なにを飲んだのかとぼんやり考えた。
何かひどく慣れないようなもの。
喉がじんわりと熱かった。
「ん…ぅ………、…」
すぐにまた跡部に唇が塞がれてきて、舌と息とが絡む感触、自然と口角から零れ出るもの、それが口腔に溜まり、ひいては飲み干したのだと気づいて神尾の脳裏がぼうっと熱で霞んだ。
「…、……、…ん、…、っ」
跡部の舌に纏わりつかれながら、神尾は跡部の背中に縋る。
背を丸めるようにして、神尾の上、神尾に覆い被さるようにしてくる跡部の背のシャツを握り締めて。
神尾が持て余しそうなほど屈強で広い背に両手で縋った。
「……ン……ぅ……ん…」
シャツを握りこんで拳を丸めて、溺れているような必死で切羽詰った喉声ばかりがついて出てくる。
この男こそ悪魔なんじゃないかと、神尾は朦朧と思った。
「………少しはその気になったかよ」
唇を離して、悪い笑みを刻んで。
跡部は神尾の首筋に言葉を埋めた。
「……ャ……なに……、……」
「いつもみたいに泣いて頼めば終わると思うなよ」
「ぇ…、……っ…ん…?……跡部…?」
笑いながら機嫌を損ねているらしい跡部のバランスが、神尾には図れない。
何だかひどく恥ずかしい事を言われている気もするが、どうする事も出来ない。
「…………、…ぁ」
服と素肌の間に滑り込んできた跡部の手のひらの下、血液が流れる音すらも聞こえてきそうな自分自身の体の乱れにも。
すでに神尾には対応出来るものではなくなっていた。
四月最初の月曜日。
ここに悪魔が生まれてしまった。
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