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How did you feel at your first kiss?
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 何でも命令するような、その態度が嫌いだ。
 きっと相手は相手で、何一つ言う事を聞かない自分のことを嫌いだろう。
 会えば険悪になることは判っていて、それでも会う為の約束ひとつ普通に取り付ける事も出来ない。
 会えば会ったで揉め事を繰り返し、別れ際に苦々しさだとか悔しさだとか物哀しさだとかを抱かない事はないくらいなのに。
 一言に傷ついたり、傷つけたり。
 そういう事がみんな判っていて。
 それでも、接触を持とうとする感情は、不可解で、いつまでも名前がつけられない。
 本当に、ただ嫌いなだけならよかったのに。
 嫌いなのに、腹も立つのに、それだけではないから苦しい。
 それだけでないから、会って、繰り返して、苛々するばかりだ。
 あの男に無関心でいられたらどんなにかいいと思う。
 そう出来ない自分に、神尾は幾度も苦しく悔しい思いをしている。


 いつものように呼びつけられた跡部の家で。
 すっぽかせば済む話なのに、いつだって必ず出向いていく自分が馬鹿みたいだと、悔しくて哀しくて苛々する。
 何か楽しいような出来事を、話すことも無いようなお互いが、二人でいれば大抵は、意味のない言い争いか、剣呑とした沈黙か、あとは。 
「……っ…、…」
 こんな。
 繰り返し、繰り返し、唇を塞がれるキスをしている。
 跡部から与えられるキスの、回数だとかやり方だとか。
 どうしてこんな。
「…、……ぅ…」
「……………」
 鷲掴みにされている後頭部。
 強く重なって、角度を変えられて、ひずむ唇。
 互いの息が混ざって、舌がふれて、濡れて。
 始まると、キスは長い。 
「……っ……、…は…、…」
「……………」
「ン…、…っ」
 あまりちゃんと見たことはないが、こういう時の跡部の目は、こんな事をしている時でも冷静で、一人かき乱されていく神尾を見据えている。
 だから、キスが深くなるのも、熱を増していくようなのも、全部自分の反応を見るための事かと思うと、神尾は執拗なキスに引きずられそうになるのを踏みとどまろうと懸命になる。
 力を入れて強張った身体や、幾度探られても噛み締め直す歯だとか、押し退ける為に跡部のシャツを掴む手だとか。
 跡部が、そういう神尾の態度で苛立っていくのが判っても。
 今更神尾にはどうしようもない。
 伺われ、からかわれていると思うのが、穿ちすぎなのかそうでないのか。
 どうして、こんな風にキスなんかするようになったのかと、それこそ今更のように考える。
 苦しいキスばかり、こんなに。
 何度も。
「…ッ、……、…」
 明らかに機嫌の悪い跡部に、千切られそうに唇を離される。
 神尾の後頭部を掴んでいた手が、髪を握り締め直す。
 痛みに眉根を寄せた神尾は、ふと、跡部の表情が何かに気を取られたようになったのに気づいた。
「………………」
 跡部の視線が、神尾からずれる。
 何かを見ている。
 不安に近い心もとない感じがして、神尾も跡部の視線の先を伺うように身じろいだ。
 ぎこちなく、背後を振り返る。
 跡部が見ていたのは、彼の手のひらだった。
「………………」
 神尾は顔を歪めた。
 跡部の手のひらにあったのは、桜の花びらだった。
 うすく、あわい、桜の花びら。
「………………」
 神尾は、それを見るなり、泣き出しそうになった。
 花びらは神尾の髪についていたもの。
 駅から跡部の家に来る途中、走って抜けた桜並木。
 そこを通るには、勾配のきつい上り坂を上がっていくしかない。
 例えば自転車で上りきるのすら難しいほどの急な坂道を、徒歩でも上ってくる人の姿は殆どない。
 駅に向かうために下っていく人はいるけれど。
 神尾は、今日、その坂道を駆け上がった。
 傾斜のきつい坂道は、跡部の家に来る為の、最短経路だ。
「………………」
 馬鹿みたいだ、と神尾は思った。
 跡部に会っては言い争いばかりして、苦しいのに、悔しいのに、呼ばれれば必ず会いにいく自分が。
 ほんの少しの差でしかないのに、苦しいのに、あの坂道を駆け上がって跡部に会いにいく自分が。
 少しでも早く、ここに来るためにあの道を選ぶ自分が。
 本当に、馬鹿みたいだと思った。
 跡部だって気づいたはずだった。
 この一枚の花びらで、全部。
「………………」
 揶揄する言葉を覚悟して神尾は視線を跡部へと戻した。
 跡部は、その花びらを、まだ見据えていた。
 苦しそうな顔をしていた。
「………跡部?」
 思わず神尾は呟いて、跡部の名を呼んだ。
 跡部は視線を神尾に移して、何だか一層、苦しそうな顔をした。
「跡部…?」
「………………」
 跡部の両腕が伸びてきて、抱き締められた。
 強い力で。
 でも苦しそうだった。
 乱暴な勢いで。
 でも縋りつかれているような気がした。
「跡部」
 どうしてそんな、苦しげに、跡部が背を丸めるのかと。
 自分を抱き締めるのかと。
 危ぶみながら、神尾は目を閉じる。
 何か言える言葉があったらいいのにと、たくさんたくさん考えても、名もつけられない感情ばかりが、溢れ出てくるだけだ。
 跡部の困惑が、密着した体から伝わってきて、どうにかしてやれたらいいのになと神尾は考えた。
 自分に出来る術がないという事は、こんなにも、寂しい。
「……………」
 結局神尾は跡部に抱き締められているしかなくて。
 どれくらいかして、跡部が手を緩めてきて、キスを。
「……………」
 ゆっくりと、近づけられてくる跡部の顔を、神尾は見つめた。
 伏せられていた睫毛の下の跡部の眼差しは、やはりどこか苦しそうで。
 でも、跡部の唇は、神尾が初めて知る程、静かで丁寧に神尾に近づいてきて。
 気恥ずかしいくらい軽く、そっと、神尾の唇を掠めた。
「……………」
 触れるだけのキスの後またすぐに跡部に抱き締められる。
 奪うみたいな強さではなくて、やはり縋りつかれるような力で。


 最後まで、神尾の行動は、揶揄されなかった。
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