How did you feel at your first kiss?
苦くて、酸っぱくて、神尾はコーヒーが苦手だった。
跡部は好きらしい。
家でも外でもよくコーヒーを飲む。
最初の頃、そんな跡部を見て、よくあんなの飲めるよなあと神尾は思っていた。
別に飲みたくて見ていた訳じゃないのだが、跡部と目が合ってしまった時、飲みたきゃやると跡部の飲みかけを、半ば強引に渡されてしまった。
いかにも高級なカップを手に、神尾はほとほと参った。
ぼそぼそと、コーヒーは苦手だと言ったら、飲んでから言えと凄まれた。
仕方ないから神尾は渋々それに口をつけた。
味はやはり苦かった。
でも、苦手な要素のもう一つ、酸っぱい味はしなくて。
ひとくち飲んで、それだけ言って。
恐る恐る跡部にカップを返すと。
跡部は僅かに目を見開いて、唇の端を引き上げた。
それから、酸味の強い豆が苦手なだけじゃねえの?と跡部は笑って。
跡部の家に行く度、神尾は必ず、一杯のコーヒーを飲まされるようになった。
ふわふわのスチームミルクが浮いているのとか。
牛乳の方が多いくらいの色味の、甘いフレーバーのカフェオレとか。
香ばしい香りのするさらりとしたのとか。
たっぷりとクリームが乗っているのとか。
最初はそういう、匂いとか甘みだとかで誤魔化されるように。
それから徐々に、少しずつ味の違うコーヒーそのものを。
そうして、いつの間にか神尾はコーヒーが飲めるようになっていた。
「………あれ? これ?」
今日も神尾は跡部の部屋で、コーヒーを飲んでいる。
跡部と出会ったばかりの頃は、ひとくちだって辛かった飲み物を。
「味覚は悪くねえんだよな。お前」
全然味を知らねえけど、と意地悪く笑う跡部は、いつもと味の違うコーヒーに気づいた神尾を、言い方ほどは意地悪くもない目で、見据えてくる。
コーヒーを飲む度、神尾は、この飲み物は跡部のようだとよく思う。
「………………」
苦くて。
癖があって。
馴染めなくて。
美味しくないと思っていたのに。
敬遠していたのに。
でも今は、一日の中で、ふと飲みたくなる時が必ずある。
豆の種類が違う事にもひとくちで気づく。
一瞬の香りとか、味だとかで。
苦味は今でも感じるけれど。
それでも。
「………………」
いつもより少し濃い、苦い味のするコーヒーに、砂糖をひとさじ落とすように。
跡部は神尾の唇にひとつキスをした。
甘くなったか?と笑う目を至近距離に見て、神尾は何だかくらくらした。
コーヒーでも、キスでも。
最初からこんな上等なものを与えられてしまっては、この先もう。
「………俺もう缶コーヒーとか全然飲めないんだぜ」
味覚が馴染んだのは、恐らく最高級品であるだろうコーヒー。
「それがどうした」
神尾の唇に馴染んだのは、そうやって不遜に笑う跡部の唇、それだけだ。
もう、神尾の唇は。
極上のキスだけしか知らない。
跡部は好きらしい。
家でも外でもよくコーヒーを飲む。
最初の頃、そんな跡部を見て、よくあんなの飲めるよなあと神尾は思っていた。
別に飲みたくて見ていた訳じゃないのだが、跡部と目が合ってしまった時、飲みたきゃやると跡部の飲みかけを、半ば強引に渡されてしまった。
いかにも高級なカップを手に、神尾はほとほと参った。
ぼそぼそと、コーヒーは苦手だと言ったら、飲んでから言えと凄まれた。
仕方ないから神尾は渋々それに口をつけた。
味はやはり苦かった。
でも、苦手な要素のもう一つ、酸っぱい味はしなくて。
ひとくち飲んで、それだけ言って。
恐る恐る跡部にカップを返すと。
跡部は僅かに目を見開いて、唇の端を引き上げた。
それから、酸味の強い豆が苦手なだけじゃねえの?と跡部は笑って。
跡部の家に行く度、神尾は必ず、一杯のコーヒーを飲まされるようになった。
ふわふわのスチームミルクが浮いているのとか。
牛乳の方が多いくらいの色味の、甘いフレーバーのカフェオレとか。
香ばしい香りのするさらりとしたのとか。
たっぷりとクリームが乗っているのとか。
最初はそういう、匂いとか甘みだとかで誤魔化されるように。
それから徐々に、少しずつ味の違うコーヒーそのものを。
そうして、いつの間にか神尾はコーヒーが飲めるようになっていた。
「………あれ? これ?」
今日も神尾は跡部の部屋で、コーヒーを飲んでいる。
跡部と出会ったばかりの頃は、ひとくちだって辛かった飲み物を。
「味覚は悪くねえんだよな。お前」
全然味を知らねえけど、と意地悪く笑う跡部は、いつもと味の違うコーヒーに気づいた神尾を、言い方ほどは意地悪くもない目で、見据えてくる。
コーヒーを飲む度、神尾は、この飲み物は跡部のようだとよく思う。
「………………」
苦くて。
癖があって。
馴染めなくて。
美味しくないと思っていたのに。
敬遠していたのに。
でも今は、一日の中で、ふと飲みたくなる時が必ずある。
豆の種類が違う事にもひとくちで気づく。
一瞬の香りとか、味だとかで。
苦味は今でも感じるけれど。
それでも。
「………………」
いつもより少し濃い、苦い味のするコーヒーに、砂糖をひとさじ落とすように。
跡部は神尾の唇にひとつキスをした。
甘くなったか?と笑う目を至近距離に見て、神尾は何だかくらくらした。
コーヒーでも、キスでも。
最初からこんな上等なものを与えられてしまっては、この先もう。
「………俺もう缶コーヒーとか全然飲めないんだぜ」
味覚が馴染んだのは、恐らく最高級品であるだろうコーヒー。
「それがどうした」
神尾の唇に馴染んだのは、そうやって不遜に笑う跡部の唇、それだけだ。
もう、神尾の唇は。
極上のキスだけしか知らない。
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