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How did you feel at your first kiss?
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 宍戸がひっきりなしにガムを食べている事に特に意味はない。
 ガムを噛むとリラックスした状態になるという事で、スポーツ選手などが意識して競技前に食べているのと同じ理由かと聞かれた事もあったが、そう意識した事もない。
 また、ミントの味は常習性があるから止められなくなってるんだろうと言われた事もあるが、そこまで執着している訳でもない。 
 クセには確かになっているけどなと思いながら、宍戸は包み紙を剥いたガムを口に入れた。
「何だよ。欲しいのか?」
 宍戸の隣を歩く鳳の視線に気づき、宍戸はそう声をかける。
 長身の後輩は目を伏せるようにして、じっと宍戸を見つめてきていた。
 しかし、宍戸が聞いた問いかけにはやんわりと首を振った。
「……いえ、ガムでなくて」
「あ?」
「ガムよりキスがいいです」
 宍戸さんの、と鳳は言った。
「………………」
 大抵の時はその端整な表情に浮かべている柔和な笑みは、今はひっそりと隠されていて、代わりに請い願うような顔になっている。
 宍戸は、ぐっと言葉を詰まらせた。
「………………」
 宍戸がガムを食べ始めると、鳳が物言いたげに見つめてくる事が度々繰り返されて、それでとうとう先日、何だよと問いかけた宍戸に鳳は真顔で言ったのだ。
 ガムに宍戸さんの唇を独占されてるみたいで寂しい。
 そう言った。
 はっきりいって、こんな事を言って。
 宍戸を怒らせるのではなく、恥ずかしがらせる事が出来る人間は鳳くらいなものである。
 一見大人びた風体で、その実ひどく人懐っこく甘えたがりという鳳の持つギャップに、弱かったり甘かったりする輩は少なくない。
 宍戸も、あまり表にはそういう態度を出さないものの、結局の所はそんな鳳に滅法弱くて甘いのだ。
 それで、鳳といる時は極力ガムを食べる事は止めていたのだが、如何せん癖になっていて、時々無意識に口に入れてしまうのだ。
 今日のように。
「………あのよ。俺が言うのも何だけどよ、しょっちゅう食べつけたらクセになるんだぜ…?」
 ガムがそうであるように、つまりはキスも、きっと。
「もうなってます」
「………………」
 真面目な顔で鳳にそう断言され、キスの回数が極端に増えているここ最近を思いながら宍戸は脱力した。
 だいたい、鳳がこんな往来でキスを欲しがったり、そんな顔をして自分を直視してくる事なんて、少し前まではなかった筈だ。
 最近鳳のキスは回数を増やし、やり方を深くし、宍戸を少しだけ不安にさせる。
「……俺なんか、コレ癖になってから、なくなったり食えない時とか結構大変なんだけど」
「俺も今大変なんです」
 あくまでもキスで話をすすめる鳳に、宍戸は観念した。
 そういう苦しそうな。
 切なそうな表情を。
 隠してみせられたら。
「………………」
 人目のつかなさそうな道の死角。
 そんな場所を都合よく通りかかってしまったら。
「………………」
 鳳に両肩を掴まれ、外壁に押さえつけられる。
 ノーブルな顔立ちの、通常の礼儀正しい後輩とは思えない事に。
 鳳は中指を宍戸の唇に忍ばせてガムを奪っていった。
 咥えされられた指は関節の太い長い指で、口にあるのがひどく生々しく思えた。
 退いた後すぐに塞がれた唇へのキスは、丁寧で優しい。
「…………宍戸さん」
「………………」
 我儘言ってすみませんと耳元に囁かれた宍戸は、こんな事くらいが我儘かよと思ってしまう自分自身に呆れながら。
 少しずつ、少しずつ。
 鳳が胸に住まわせる欲望を。
 回数の増やされてきたキスで、口移しされているように思う。

 少しずつ、少しずつ。
 鳳の抱える欲望が、最近宍戸にも判ってきたように思う。

 唇から、理解した。
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