How did you feel at your first kiss?
海堂はお兄ちゃん気質だねえと言ったのは、海堂より一学年上の不二だった。
その時海堂は、背中に菊丸をぶら下げていた。
無論進んでしていた事ではなく、一方的に受身でだ。
菊丸もまた海堂よりも一つ年上なのだが、典型的な末っ子体質で、加えて邪気なく人懐っこい。
海堂も、菊丸からのこういう接触に最初はとてつもなく驚いたのだが、度重なる強襲に今や大分慣らされた。
「そだねー。海堂は、何かこう懐きたくなる感じする」
「は…?」
「おチビにも、さりげなーく優しいしね!」
「はあ?」
「お兄ちゃんだよな!」
「そうだね」
「………………」
にこにこと微笑む上級生二人を、海堂は唖然と見やった。
正気とはとても思えないような言い様だ。
有り得ないだろうそんな現実。
海堂本人が、何より誰よりそう思うのに、上級生達はそこに一層の追い討ちを放ってくる。
「乾とか手加減なしに海堂に甘えたおしてるよな!」
「ああ、乾ね。確かに。海堂も、たまには厳しく突き放したっていいんだよ?」
「そうそう! 困った事あったら俺らにちゃんと言いに来いよなー!」
「………………」
不二と菊丸の言い様に、海堂は衝撃すら覚えて硬直した。
彼らが立ち去った後も、暫くその場から動けない。
本当に今話題にされていたのは自分達の話なのだろうかと。
思い返そうにも、碌に思考が働かないのだ。
「あれ、海堂」
「………………」
「どうした。ぼうっとして」
しかもそこに姿を見せてきたのが乾で、海堂はまじまじと長身の彼を見上げた。
この男が、自分に甘えたおす?
そして自分はそれを殆ど突き放す事もしない?
有り得ねえ。
そう呻くか叫ぶかしてしまいそうになる自分をどうにか抑えて、海堂は乾に問いかけた。
「……あんたは何してるんですか」
「俺か? 海堂を探して、見つけたところ」
「何か用っすか」
「うん。疲れてくると、甘いものが欲しくなるだろ」
「……は?」
「俺は海堂が欲しくなる」
笑って言うので。
乾の口調は軽いのだが。
その低くてよく響く声の効力は強い。
「………、…な…」
「ちょっと構ってよ。海堂」
適当にあしらうんでもいいからと。
尚もやわらかく笑んで言ってくる乾に、海堂は憮然とした。
怒りも交えて、乾を見つめて、言い放つ。
「あんたは片手間に構えるような相手じゃねえよ」
「海堂?」
「適当にとか、出来る訳ねえ」
「………………」
何を考えてそんな馬鹿な事を言うのかと、海堂は乾を強く見据える。
そうやって、海堂が睨みつけた先で、乾が。
何だか虚をつかれたような顔をして、そして。
「……元気、出た」
「…………は?」
「や、……めちゃめちゃ元気出た」
「………訳判んね」
「ここでキスとかしたら海堂は怒るかな」
「……ッ…、…ふ…ざけたこと、マジなツラして聞いてくるな……っ!」
どういうからかい方だと海堂は尚も憤慨するが、何故か乾は真顔で悩んでいるような顔をしている。
しかも嬉しそうな。
顔もしている。
「海堂」
「…、…耳元で……、!」
喋るな、と怒鳴ろうとした海堂の唇を、乾が恐ろしく上手く、一瞬だけ掠った。
「…………っ」
「……元気出た」
「……………」
囁くような声に。
微笑む顔に。
そんな乾に。
「……………」
結局海堂は怒りきれなくなる。
それどころか寧ろ、多分二人の上級生に言われた通り。
乾を突き放すなんて事、海堂には到底出来ないのだ。
海堂は、ただ人を甘やかす事はしないし、出来もしないけれど。
不思議と乾相手には、甘やかすような幾つかの方法があるらしい。
我が事ながら、まるで他人事のように海堂が思うのは。
未だに何の自覚もないからだ。
海堂が判る事は、ただ。
和んだり嬉しそうだったりする乾から、熱っぽくも甘く、伝わってくるものの気配だけだ。
その時海堂は、背中に菊丸をぶら下げていた。
無論進んでしていた事ではなく、一方的に受身でだ。
菊丸もまた海堂よりも一つ年上なのだが、典型的な末っ子体質で、加えて邪気なく人懐っこい。
海堂も、菊丸からのこういう接触に最初はとてつもなく驚いたのだが、度重なる強襲に今や大分慣らされた。
「そだねー。海堂は、何かこう懐きたくなる感じする」
「は…?」
「おチビにも、さりげなーく優しいしね!」
「はあ?」
「お兄ちゃんだよな!」
「そうだね」
「………………」
にこにこと微笑む上級生二人を、海堂は唖然と見やった。
正気とはとても思えないような言い様だ。
有り得ないだろうそんな現実。
海堂本人が、何より誰よりそう思うのに、上級生達はそこに一層の追い討ちを放ってくる。
「乾とか手加減なしに海堂に甘えたおしてるよな!」
「ああ、乾ね。確かに。海堂も、たまには厳しく突き放したっていいんだよ?」
「そうそう! 困った事あったら俺らにちゃんと言いに来いよなー!」
「………………」
不二と菊丸の言い様に、海堂は衝撃すら覚えて硬直した。
彼らが立ち去った後も、暫くその場から動けない。
本当に今話題にされていたのは自分達の話なのだろうかと。
思い返そうにも、碌に思考が働かないのだ。
「あれ、海堂」
「………………」
「どうした。ぼうっとして」
しかもそこに姿を見せてきたのが乾で、海堂はまじまじと長身の彼を見上げた。
この男が、自分に甘えたおす?
そして自分はそれを殆ど突き放す事もしない?
有り得ねえ。
そう呻くか叫ぶかしてしまいそうになる自分をどうにか抑えて、海堂は乾に問いかけた。
「……あんたは何してるんですか」
「俺か? 海堂を探して、見つけたところ」
「何か用っすか」
「うん。疲れてくると、甘いものが欲しくなるだろ」
「……は?」
「俺は海堂が欲しくなる」
笑って言うので。
乾の口調は軽いのだが。
その低くてよく響く声の効力は強い。
「………、…な…」
「ちょっと構ってよ。海堂」
適当にあしらうんでもいいからと。
尚もやわらかく笑んで言ってくる乾に、海堂は憮然とした。
怒りも交えて、乾を見つめて、言い放つ。
「あんたは片手間に構えるような相手じゃねえよ」
「海堂?」
「適当にとか、出来る訳ねえ」
「………………」
何を考えてそんな馬鹿な事を言うのかと、海堂は乾を強く見据える。
そうやって、海堂が睨みつけた先で、乾が。
何だか虚をつかれたような顔をして、そして。
「……元気、出た」
「…………は?」
「や、……めちゃめちゃ元気出た」
「………訳判んね」
「ここでキスとかしたら海堂は怒るかな」
「……ッ…、…ふ…ざけたこと、マジなツラして聞いてくるな……っ!」
どういうからかい方だと海堂は尚も憤慨するが、何故か乾は真顔で悩んでいるような顔をしている。
しかも嬉しそうな。
顔もしている。
「海堂」
「…、…耳元で……、!」
喋るな、と怒鳴ろうとした海堂の唇を、乾が恐ろしく上手く、一瞬だけ掠った。
「…………っ」
「……元気出た」
「……………」
囁くような声に。
微笑む顔に。
そんな乾に。
「……………」
結局海堂は怒りきれなくなる。
それどころか寧ろ、多分二人の上級生に言われた通り。
乾を突き放すなんて事、海堂には到底出来ないのだ。
海堂は、ただ人を甘やかす事はしないし、出来もしないけれど。
不思議と乾相手には、甘やかすような幾つかの方法があるらしい。
我が事ながら、まるで他人事のように海堂が思うのは。
未だに何の自覚もないからだ。
海堂が判る事は、ただ。
和んだり嬉しそうだったりする乾から、熱っぽくも甘く、伝わってくるものの気配だけだ。
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