How did you feel at your first kiss?
今から出て来られますか?と電話での穏やかな声で誘われて。
宍戸は鳳のその言葉に聞きながら部屋を出た。
「どこ行きゃいいんだ?」
携帯を片手に話をしながら玄関を出ると、暗い屋外、玄関横に鳳がいる。
「………お前」
面食らった後、宍戸は笑い出した。
「おい、長太郎。お前じゃなけりゃ相当ヤバイ奴だぜ。その行動は」
「……まあ…我ながらヤバイかなあとは思っているんですが……」
恐縮と自嘲の入り混じる複雑な表情をしている鳳は。
自分の真意を判っていないと宍戸は思った。
長身でありながら人に威圧感を与えない鳳の佇まいだとか、端整な面立ちの穏やかさだとか。
笑みを浮かべるととことんやわらかくなる雰囲気や、優しい声と話し方。
誘う前から家の前で待っているなんていう行動も、鳳がすると、ふと和んでしまう。
宍戸が言いたかったのはそういう事なのだが、鳳は律儀にも頭を下げた。
「すみません」
「アホ」
普段は自分よりも高い所にある鳳の髪に、宍戸は今は難なく手を伸ばし、ゆるい癖のある後ろ髪を荒くかきまぜた。
頭を下げたまま視線だけを持ち上げてきた鳳の表情に宍戸は笑みを深める。
「どうした?」
うち来るか?と親指で背後の自宅を指した宍戸に、鳳は漸くまっすぐに背を伸ばした。
「いえ。もう遅いですから」
「遅いって、まだ八時だぜ?」
「お家の方にご迷惑ですから…また今度に」
「お前桁外れにうちの親に評判いいから、迷惑どころか帰して貰えないかもしれねえな」
笑う宍戸を優しく撫でるような目で鳳が見つめてくる。
宍戸が慣れる程。
その眼差しの甘さは日々鳳から与えられるものだけれど。
鳳が、宍戸へと向ける微笑や視線が。
どれも全て特別なものなのだということを忘れる事はないだろうと宍戸は思っている。
「五月の満月の光を浴びると、偉大な力を授かるっていう話、知ってますか?」
「………………」
民間伝承の言伝えです、と鳳が穏やかな声で囁きかけてくる。
鳳を見上げた角度で、宍戸は頭上の満月も見た。
「宍戸さんにはそういうの必要ないかもしれないけど誘いたかったんです」
今日が五月最初の満月なのだという。
そう言われると、今日の月明かりは普段よりも少し強いような気がしてくる。
宍戸は、じっと鳳を見上げた。
「せっかくの満月だから」
「………………」
鳳の手が宍戸の頭に、そっとのせられる。
先ほど宍戸が鳳の髪をかきませたのに比べて、あまりにも丁寧な仕草で。
鳳は宍戸の髪を撫でつける。
「………………」
ひどくいとおしいというような、鳳の感情が。
宍戸へと伝えられてくる仕草だった。
月明かりも感じ取れるような気分になる。
宍戸は鳳に髪を撫でられながら言った。
「……一人で浴びせられてたら、後で知ってきっと腹立っただろうな」
「宍戸さん…?」
「お前と一緒にやる事なら、必要ない事なんか何もないだろ」
五月の満月を浴びて授かる力。
出来ない事が出来るようになるというならば、例えばこんな事でもいいのだろうと宍戸は思い、目を閉じた。
「………………」
自分でしかけるのとは違う、自分からうながす故の落ち着きの無さは宍戸の鼓動を乱したが。
鳳に唇を塞がれてそれもゆるやかに治まっていく。
「……宍戸さん………」
「………………」
囁く声が唇に触れ、宍戸が目を閉じたまま緩めた唇に鳳が深く舌を含ませ、キスが強くなる。
甘く撫でられていた後ろ髪が、後頭部を包むような鳳の手のひらに乱される。
キスは、長いものではなかった。
でも、お互いの奥深くまで気持ちが沈んできて、離れた。
「………ある意味…偉大な力…授かったようなもんか」
「え?…」
「……普通ここでしねえだろ…」
自宅前の往来だ。
気恥ずかしさも交えて呟いた宍戸に、鳳は珍しく、すみませんとは言わなかった。
月明かりの下で、鳳は、何だか幸せそうに笑っていた。
月明かりの下で、宍戸は、何だか指の先まで甘い感情を詰め込まれたような気分にさせられた。
宍戸は鳳のその言葉に聞きながら部屋を出た。
「どこ行きゃいいんだ?」
携帯を片手に話をしながら玄関を出ると、暗い屋外、玄関横に鳳がいる。
「………お前」
面食らった後、宍戸は笑い出した。
「おい、長太郎。お前じゃなけりゃ相当ヤバイ奴だぜ。その行動は」
「……まあ…我ながらヤバイかなあとは思っているんですが……」
恐縮と自嘲の入り混じる複雑な表情をしている鳳は。
自分の真意を判っていないと宍戸は思った。
長身でありながら人に威圧感を与えない鳳の佇まいだとか、端整な面立ちの穏やかさだとか。
笑みを浮かべるととことんやわらかくなる雰囲気や、優しい声と話し方。
誘う前から家の前で待っているなんていう行動も、鳳がすると、ふと和んでしまう。
宍戸が言いたかったのはそういう事なのだが、鳳は律儀にも頭を下げた。
「すみません」
「アホ」
普段は自分よりも高い所にある鳳の髪に、宍戸は今は難なく手を伸ばし、ゆるい癖のある後ろ髪を荒くかきまぜた。
頭を下げたまま視線だけを持ち上げてきた鳳の表情に宍戸は笑みを深める。
「どうした?」
うち来るか?と親指で背後の自宅を指した宍戸に、鳳は漸くまっすぐに背を伸ばした。
「いえ。もう遅いですから」
「遅いって、まだ八時だぜ?」
「お家の方にご迷惑ですから…また今度に」
「お前桁外れにうちの親に評判いいから、迷惑どころか帰して貰えないかもしれねえな」
笑う宍戸を優しく撫でるような目で鳳が見つめてくる。
宍戸が慣れる程。
その眼差しの甘さは日々鳳から与えられるものだけれど。
鳳が、宍戸へと向ける微笑や視線が。
どれも全て特別なものなのだということを忘れる事はないだろうと宍戸は思っている。
「五月の満月の光を浴びると、偉大な力を授かるっていう話、知ってますか?」
「………………」
民間伝承の言伝えです、と鳳が穏やかな声で囁きかけてくる。
鳳を見上げた角度で、宍戸は頭上の満月も見た。
「宍戸さんにはそういうの必要ないかもしれないけど誘いたかったんです」
今日が五月最初の満月なのだという。
そう言われると、今日の月明かりは普段よりも少し強いような気がしてくる。
宍戸は、じっと鳳を見上げた。
「せっかくの満月だから」
「………………」
鳳の手が宍戸の頭に、そっとのせられる。
先ほど宍戸が鳳の髪をかきませたのに比べて、あまりにも丁寧な仕草で。
鳳は宍戸の髪を撫でつける。
「………………」
ひどくいとおしいというような、鳳の感情が。
宍戸へと伝えられてくる仕草だった。
月明かりも感じ取れるような気分になる。
宍戸は鳳に髪を撫でられながら言った。
「……一人で浴びせられてたら、後で知ってきっと腹立っただろうな」
「宍戸さん…?」
「お前と一緒にやる事なら、必要ない事なんか何もないだろ」
五月の満月を浴びて授かる力。
出来ない事が出来るようになるというならば、例えばこんな事でもいいのだろうと宍戸は思い、目を閉じた。
「………………」
自分でしかけるのとは違う、自分からうながす故の落ち着きの無さは宍戸の鼓動を乱したが。
鳳に唇を塞がれてそれもゆるやかに治まっていく。
「……宍戸さん………」
「………………」
囁く声が唇に触れ、宍戸が目を閉じたまま緩めた唇に鳳が深く舌を含ませ、キスが強くなる。
甘く撫でられていた後ろ髪が、後頭部を包むような鳳の手のひらに乱される。
キスは、長いものではなかった。
でも、お互いの奥深くまで気持ちが沈んできて、離れた。
「………ある意味…偉大な力…授かったようなもんか」
「え?…」
「……普通ここでしねえだろ…」
自宅前の往来だ。
気恥ずかしさも交えて呟いた宍戸に、鳳は珍しく、すみませんとは言わなかった。
月明かりの下で、鳳は、何だか幸せそうに笑っていた。
月明かりの下で、宍戸は、何だか指の先まで甘い感情を詰め込まれたような気分にさせられた。
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