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How did you feel at your first kiss?
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 唇が触れる寸前に、もうそのイメージが頭に浮かんで、唇同士が触れあえばもう、咀嚼されているかのように口腔でつかまるキスのその先を察して足元が危うくなる。
 キスは、自分は、苦手なのかもしれないと海堂は思った。
「…………ン…、」
 乾は両手で、必ず海堂の頭なり肩なりを包むように支え、熱っぽくはあっても身勝手では決してない、優しいキスをくれるのだけれど。
 無理強いされた事も勿論ないのだけれど。
 重ね合わせた唇の狭間から、やんわりと獲られた舌が、奪われ呑まれる気がしてならない。
 質感や、動き方。
 そういう生々しい舌を海堂は普段知らないし、たっぷりと舌先を這わされどこもかしこもくまなく辿られると、乾から逃れたいのか逃れられなくなるのか、どちらにしろ怖いような衝動に突き動かされる。
「……っ…ん…」
「海堂……」
「………、…は……」
 自分自身の息の乱れが生々しく海堂の耳につき、乾は彼自身がキスがしたいというよりもはや、一方的に海堂を愛撫する為の口付けを施しているのではいかと海堂は思った。
 自分ばかりが、もう、率直に心中を吐露すれば、ただ気持ちよくて。
 唇が、そんな器官だなんて、海堂は知らなかった。
「……海堂?」
「…………ぅ……」
 俯いて震える海堂に、乾の低い呼びかけがかかる。
 頬に指先を宛がわれ、海堂の震えはますますひどくなった。
 顔を上げさせたいのか、乾の固く滑らかな指は海堂の頬から顎へと、顔の表面を滑っていく。
「……っ……、……く…」
「頭が良い人間ほど、こういう事に過敏なんだよ…」
「…………、っ…」
 感覚を考えるから、と言った乾の指先はあくまで優しく海堂の顔のラインを撫でている。
「……、…先輩…、は…」
 それなら乾はどうなのかと。
 頭が良いなんて、自分より乾の方が余程そうなのにと。
 海堂は詰りたい気で口にした言葉は、海堂が自分でぎょっとするほど掠れた震え声だ。
「………ん?……」
「……………へ……ー…きな、くせ…しやが…って…、」
「……海堂」
 本気で言ってる?と耳元に囁かれ、海堂は首を竦めた。
「………、ひ……」
「さわる?……」
「……ぇ…?」
「………何で俺が海堂を抱き締められないか、気づかない?」
 顔を俯かせていた海堂に、見えてるだろうにと乾は溜息交じりの呟きを洩らした。
「見え……?」
「…………………」
「…………、…」
 ぼんやりと、潤んだ視界にいた海堂が、乾の言葉に誘導されるように、随分とあからさまな彼の状態に気づく。
「…………ぁ」
 首の裏側まで、かあっと熱くなったのが自分でも判って。
 しかもその首筋に乾からキスまで落とされた海堂は、もう訳の判らない衝動にへたりこみそうになる。
「………いくら皆が帰った後だからって、部室でしたのはまずかったな」
「……………」
 本当に。
 いろいろなことが、まずいと、海堂は乾が言うのと同じ気持ちを胸に抱く。


 キスは、自分達は、苦手なのかもしれない。
 軽く触れ合うだけでおさまらなくて、一度きりで終われなくて、結局引くに引けないところまで暴走してしまう自分達は。
 キスは、きっと苦手だと思う。
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