How did you feel at your first kiss?
今日は一番最初に乾と顔を合わせたら、そこで言う言葉が海堂にはあった。
その筈だったのに。
考えるより先に海堂の口をついて出てたのは、全く関係のない言葉になってしまった。
「顔色悪いっすね……」
陰鬱に近い悲壮な何かを噛み締めているかのような。
そんな乾の表情に海堂は呆気にとられた。
朝っぱらからどういう状態だと海堂は一つ年上の男を一瞬上目に見やった。
通学路で出会ったので、自然と肩を並べて学校までの道のりを歩いていく。
乾は重たい溜息をついて、眼鏡のフレームを指先で押し上げた。
「夢見がすこぶる悪くてね……」
「………………」
夢ぐらいでそこまでなるかと海堂は内心で呆れた。
口にしなかったのは、すぐに乾が話の先を続けたからだ。
「海堂にふられる夢。リアルすぎて死にそう……」
「………それくらいで死ぬなよ」
「それくらいってな。お前」
珍しく乾の口調がさばけて荒い。
強く見つめられて、海堂は、ぐっと息をのんだ。
「……………夢だろうが。たかが」
「夢だよ。でなけりゃこうして学校に行こうとなんかしてないよ」
本物の海堂見るまで不安で、と複雑そうに消沈する乾の、広い肩ががっくりと落ちているのを見て海堂はとうとう乾を睨みつけた。
何を勝手にそんな訳の判らない夢なんか見ているのかと。
いつまでそんな自分でない自分の言葉を引きずっているのかと。
だんだん腹がたってきて、海堂は歩く速度を早くした。
乾を追い越し様に言い捨てる。
「そんなにそっちの俺のが良ければ、ずっと引きずってればいい」
「海堂」
知るか、と海堂は乾を置いて学校へ向かった。
だいたい、どうして、よりにもよって。
今日、そんな馬鹿な夢を見るのかと。
挙句、自分が今日一番に乾に言おうとしていた言葉まで奪って。
全くもって何もかも苛つくばかりだ。
そんな海堂の背後から、足早に駆け寄ってきて、あっという間に追いついてきた男が、困ったような、いとおしそうな声を出してくる。
「海堂」
振り向くのも足を止めるのも癪だ。
海堂はそう思ってひたすら歩き続けた。
文句を言いながら。
ひたすら。
「勝手に夢なんかとシンクロしてんな」
「海堂」
「俺が、あんたを、ふるわけねえだろ」
「海堂ー」
担がれたかって疑うなり、有り得ないって笑い飛ばすなりしろ、と本気で怒って言った海堂に、とうとう乾が笑いながら背後から抱きついてきた。
「な、……っ……」
「何回惚れ直させるんだ? お前」
海堂の耳元で、甘い低い声で囁いて。
そのうえ頬に唇まで寄せて。
海堂は絶句の後、絶叫した。
「……、…っざけんな……!」
「ふざけてない。嬉しいだけ」
どこで、なにを、と錯乱しかける海堂に。
じゃれるように尚も覆い被さってきて。
大丈夫大丈夫と笑う乾は機嫌がよすぎる。
朝の通学路だ。
冗談じゃない。
海堂は心底からそう思うのだが。
「…………………」
でも、あまりにも目の前で、あまりにも幸せそうに、乾が笑っているので。
ああもう今日だから、仕方が無いから、許してやる、と。
甘い気分に巻き込まれたようになって海堂は乾を睨み据えた。
赤い顔では何の迫力もないのは承知の上だ。
「乾先輩」
「ん?」
「……、誕生日」
「ありがとう」
「言ってねえよ! まだ!」
「最後まで聞いたら幸せすぎて死にそう」
「………それくらいで死ぬな…!」
たっぷりと甘えてくるような乾を怒鳴りつけながら、海堂は。
言葉の続きは、別に今日中に言えればいいのかと、ひっそり思ったりもしたのだった。
今晩は、乾がそんな碌でもない夢などみないように。
今日の最後に、告げたい言葉は伝えることにしたのだった。
その筈だったのに。
考えるより先に海堂の口をついて出てたのは、全く関係のない言葉になってしまった。
「顔色悪いっすね……」
陰鬱に近い悲壮な何かを噛み締めているかのような。
そんな乾の表情に海堂は呆気にとられた。
朝っぱらからどういう状態だと海堂は一つ年上の男を一瞬上目に見やった。
通学路で出会ったので、自然と肩を並べて学校までの道のりを歩いていく。
乾は重たい溜息をついて、眼鏡のフレームを指先で押し上げた。
「夢見がすこぶる悪くてね……」
「………………」
夢ぐらいでそこまでなるかと海堂は内心で呆れた。
口にしなかったのは、すぐに乾が話の先を続けたからだ。
「海堂にふられる夢。リアルすぎて死にそう……」
「………それくらいで死ぬなよ」
「それくらいってな。お前」
珍しく乾の口調がさばけて荒い。
強く見つめられて、海堂は、ぐっと息をのんだ。
「……………夢だろうが。たかが」
「夢だよ。でなけりゃこうして学校に行こうとなんかしてないよ」
本物の海堂見るまで不安で、と複雑そうに消沈する乾の、広い肩ががっくりと落ちているのを見て海堂はとうとう乾を睨みつけた。
何を勝手にそんな訳の判らない夢なんか見ているのかと。
いつまでそんな自分でない自分の言葉を引きずっているのかと。
だんだん腹がたってきて、海堂は歩く速度を早くした。
乾を追い越し様に言い捨てる。
「そんなにそっちの俺のが良ければ、ずっと引きずってればいい」
「海堂」
知るか、と海堂は乾を置いて学校へ向かった。
だいたい、どうして、よりにもよって。
今日、そんな馬鹿な夢を見るのかと。
挙句、自分が今日一番に乾に言おうとしていた言葉まで奪って。
全くもって何もかも苛つくばかりだ。
そんな海堂の背後から、足早に駆け寄ってきて、あっという間に追いついてきた男が、困ったような、いとおしそうな声を出してくる。
「海堂」
振り向くのも足を止めるのも癪だ。
海堂はそう思ってひたすら歩き続けた。
文句を言いながら。
ひたすら。
「勝手に夢なんかとシンクロしてんな」
「海堂」
「俺が、あんたを、ふるわけねえだろ」
「海堂ー」
担がれたかって疑うなり、有り得ないって笑い飛ばすなりしろ、と本気で怒って言った海堂に、とうとう乾が笑いながら背後から抱きついてきた。
「な、……っ……」
「何回惚れ直させるんだ? お前」
海堂の耳元で、甘い低い声で囁いて。
そのうえ頬に唇まで寄せて。
海堂は絶句の後、絶叫した。
「……、…っざけんな……!」
「ふざけてない。嬉しいだけ」
どこで、なにを、と錯乱しかける海堂に。
じゃれるように尚も覆い被さってきて。
大丈夫大丈夫と笑う乾は機嫌がよすぎる。
朝の通学路だ。
冗談じゃない。
海堂は心底からそう思うのだが。
「…………………」
でも、あまりにも目の前で、あまりにも幸せそうに、乾が笑っているので。
ああもう今日だから、仕方が無いから、許してやる、と。
甘い気分に巻き込まれたようになって海堂は乾を睨み据えた。
赤い顔では何の迫力もないのは承知の上だ。
「乾先輩」
「ん?」
「……、誕生日」
「ありがとう」
「言ってねえよ! まだ!」
「最後まで聞いたら幸せすぎて死にそう」
「………それくらいで死ぬな…!」
たっぷりと甘えてくるような乾を怒鳴りつけながら、海堂は。
言葉の続きは、別に今日中に言えればいいのかと、ひっそり思ったりもしたのだった。
今晩は、乾がそんな碌でもない夢などみないように。
今日の最後に、告げたい言葉は伝えることにしたのだった。
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