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How did you feel at your first kiss?
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 時々、赤澤との距離がひどく近くなっている。
 校内で話しかけられてきた時に自分に触れる赤澤の髪の先だとか、コートで並び合う時に微かに重なる二の腕だとか。
 でも、そういう時に観月が身構え感じた違和感は、極力小さいものだった。
 恐らく赤澤が観月を気遣って、時間をかけて、縮めた距離だと思われた。
 観月は他人とのそういう近さや気安さに慣れていない。
 しかし赤澤のそういう接触は決して苦痛ではなく、だから観月は、そう気づいた時から更に縮まっていく赤澤との距離に、もうされるがままでいる事にした。
 咎めたりする事はせず、軽く流す事にした。
 赤澤は、派手な見目を裏切る気さくさで、誰に対してもそういう所があったから。
 観月には手にあまるような赤澤からのスキンシップの深さも、いちいち目くじらをたてても仕方ない事なのだろうと諦めて。
 だから観月は、自分とは違う赤澤という人間のする事に、何も口を挟まなかったというのに。
 ある時赤澤が、観月の寮室で、今まで観月が知らなかったやり方で自分を抱き締めてきて。
 好きだと言ってきて。
 その瞬間、観月は自分が感じた暴力的な羞恥心と、そこから湧き上がる認めたくもなかった劣等感とに、烈火の如く怒った。
 好きだなんて。
 簡単に。
 自分に。
 言った赤澤に。
 観月は悔しくてどうしようもなくなった。
 観月が赤澤にぶつけたものがただの怒りだったら、赤澤はそれを単なる拒否として受けいれたのかもしれない。
 しかし滅多に見せないのに、観月の困惑や衝動には誰より敏感な赤澤は。
 好きだという赤澤の言葉をきっかけに激高し出した観月に、まるで宥めて労るような手を伸ばしてきた。
「観月?」
「……ッ…、」
 唇を噛み締めて、観月はその手を叩き落す。
「全部、知ってて、やってるくせに……っ…」
「何がだ。観月」
 激情型のようでいて、その実冷静なのは赤澤だ。
 観月とは正反対で、観月は冷静に見せているだけで激情には逆らえない。
「俺のことなんか……判ってて、余裕で、だから自分の好きな事が出来て」
 振り絞る声の聞き苦しさに観月は眉根を寄せながら、赤澤から顔を背けた。
 悔しくて、悔しくて堪らなかったのだ。
「どうしてそんなあなたと僕が、こんな……っ…」
 観月が感情に任せて叫んで押し退けた男は、派手な顔の造りには繊細すぎるような困惑の表情を浮かべた。
「……観月。悪い。よく判んねえよ」
「嘘ばっかり……!」
 声を尖らせた観月の手首が、赤澤に握りこまれる。
 過剰反応のように、びくりと震えた自分が忌々しいと、観月は今度は意地で赤澤を睨み据えた。
 赤澤は、怖いくらい真剣に見えた。
「嘘はない」
「………………」
「一つも。絶対だ」
「………っ………な、…も……っ…」
 振り解こうとしても、びくともしない赤澤に、観月は苛ついた。
 挙句とうとう抱き締められた。
「……、…ッ…ャ、」
「観月」
 身体に直接染みこんでくる様な囁きに束縛されて、観月は震えた。
「お前には全部見せてる。全部話してる。お前には何一つ敵わないって、俺は知ってるから。今更取り繕う嘘もない」
「それなら……っ…!」
 それならば。
 何故自分の事を好きだなんて言うのかと。
 観月は叫び出したくなった。
 観月が、どれだけ。
 どれだけ、赤澤を好きか。
 好きなのか。
 知っているから告げるのではないのか。
 好きな相手に好きだと告げる、そんな恐ろしいこと観月には絶対に出来ない。
 自分の髪をこんな風に撫でて、抱き締めている男が。
 この男が。
 観月を厭い、去っていったら。
 もうどうしたらいいのか判らない。
「観月」
 いい加減で、適当で。
 そんな風に観月が最初に思っていた男は、懐深い大人びた面も持っていて。
 軽薄で、感情的で、そう決め込んでいたのを裏切って。
 明るく優しい、そんな男だった。
「…赤…澤……」
「……ああ」
 抱き締めてくるのなら、もう、その腕でこのまま抱きつぶしてしまって欲しい。
 何もかもこの腕で、ぐしゃぐしゃに壊して抱え込んでくれたらいい。
「………僕を」
「…お前を……?…」
「どうしようもなく好きで、……好きで、堪らなくなった時以外、好きだなんて言うな」
「観月?」
「抱きたくて頭がおかしくなりそうになった時以外、抱いたりするな」
「好きだ」
「人の話を…っ…、……」
 何度目になるのか、観月が叫びかけたところをさらうようにきつく抱き竦められて言葉を封じられた。
 背筋が反り返って、喉元に噛み付かれるような口付けを受けた。
 聞いてる、と荒いだ呻き声が赤澤の唇から零れて。
 ぞくりと観月は身体を震わせた。
 胸元に抱きこまれたまま手首を痛いくらい掴まれて、持っていかれた先で、掠る程度に一瞬。
 触れた苦しげな熱の生々しさに観月は息を詰めた。
「……っ………」
「悪ぃ……」
 ごめんな、とそれでも耐えかねたように首筋を噛まれて、その感触にも震えながら観月は赤澤の胸元にぶつけるように顔を伏せた。
「………観月…?」
「なんでもいい……っ……」
「………………」
「も……なんでもいいから……」
 指先が痺れたようになっている。
 指の先まで、ねっとりと欲情を詰め込まれてしまったようで、観月に出来る事は観月自身には耐え難い、泣きつくような掠れ声で促す事だけだった。
 赤澤はその声に煽られでもしたかのように抱き締めてくる力が強くなって。
 観月は赤澤の腕の中で溺れたように肩を喘がせた。
 好きにすればいいと自分を投げ出してみれば、強靭な腕はひどく大切そうに観月を受け止めて。
 身体に回された腕の力は強いのに、どこかぎこちなく耐えいるような気配が堪らなかった。
「観月……」
「………………」
 身体をまさぐられて泣き出しそうになるのが、興奮のせいだと判るから。
 観月は赤澤から逃げなかった。
 固い、大きな手のひらのする事を受け入れたまま、震える腕を赤澤へと伸ばし返せば、倍以上の力で赤澤から抱き竦められる。
「……、…っ…」
「観月」
 自分を欲しがる男。
 赤澤を抱き返しながら、観月はもう、赤澤には何をされてもいいと思った。
 何をされてもいいと思うけれど、観月が知りたい事もたくさんある。
「……赤澤。あなた、好きなんですか」
 熱に浮かされたように観月が細い声で言えば、壊されそうに抱き締められて、かき抱かれて、観月が言った数倍もの熱量をはらんだ声に口説かれた。
 繰り返される程にその言葉は、威力を増して観月の胸を焼く。
「好きだ」
「…………、……」
「観月」
 幾ら浴びせかけられても、威力を失わず、安くもならず、何度も言われたら真実味がなくなるなんて疑いようもない声で。
「……好きだ」
「………………」
 観月の事を何も知らないで、見た目だけで声をかけてくる相手は大勢いるけれど。
 観月の事を全部知った上で、そんな風に言ってくる相手なんて世界中探したってこの男だけだ。
「………バカ」
 本当に。
 本当に、本当に、どれだけ馬鹿なんだと観月が心底思う赤澤の方からも同じ言葉が囁かれる。
「馬鹿はお前だ……」
「……失礼な。あなたに言われたくないです……」
「操れよ。うまく」
 お前が好きすぎて何するか判らねえ、とひどく実直に言った赤澤の普段は見せない凶暴さに。
 身体は微かに怯えで戦くけれど、心は甘くなだらかで、観月は淡く笑みを浮かべた。
「言われなくても。僕の最も得意な分野ですから」
「観月」
「…………それで、どうするんですか……それは…」
 赤澤の、自分を請うる声と身体とを間近にして、観月がそれを口にしたのは。
 多分赤澤が、今はそれを抑えようとしているのを感じ取ったからだった。
 どこか悔しく思う気持ちと、どこか安堵している気持ちと。
 自分の中の両極端な感情を認めた上で、敢えて口にして問いかけた観月は。
 赤澤の乱暴な腕に痛いくらい抱き締められながら。
 そういえば過去に珍しく赤澤から、敵情視察はいいが過度の挑発だけは慎めよと言われた事があるのを思い出した。
「………好きだっつった日にいきなり抱くとか…お前の好みじゃねえだろ」
「よくおわかりで」
「……………くそ。じゃ、気づかない振りくらいしろよ」
「無茶な。白々しいです。そんななんですから気づかないわけない」
 熱っぽい抱擁の中。
 不釣合いな程の軽口を叩きながら。
 言葉にはしないけれど。
 本当はふんわりとした安堵感を胸に住まわせて、観月は赤澤に心のうちだけで甘える事にした。
 でも礼儀だけは通しておこうと、観月は赤澤に抱き締められながら、返事だけは言っておく事にする。
「折を見て、時期を選んでなら、何をされてもいいですよ……」
「……観月…、…?」
「そのくらいには、あなたを好きですから」
 告げた途端我が身を襲った骨まで軋ませる物凄い力での抱擁も。
 言葉も無くしたような赤澤の気配も。
 それを幸せと繋げられるくらいに好きな男の背に観月は腕を伸ばした。
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