How did you feel at your first kiss?
案外と家で一人で過ごすのが好きらしい跡部に、神尾はよく呼びつけられた。
神尾にしてみても、最初は相当たじろいだ跡部の家の豪邸ぶりだったのだが。
順応性は高い方と自覚しているだけあって、今ではすっかりと跡部の家に出向く事にも慣れた。
神尾は神尾で寛いで、好きな事をして過ごす。
話しかけるのは専ら神尾の方からだったが、あれでいて跡部も返答だけはきちんと寄こしてくるので、会話もそれなりにしているのだ。
「跡部の好きな色って、なに?」
「聞かなけりゃ判んねーのかよ」
ソファに座って本の誌面を目で追っている跡部は、神尾の方を見もしないで答えるので、神尾は不服そうに眉根を寄せる。
「判んね」
「ゴールドと黒」
「……まあ、確かに部屋の中とか跡部の服とか、その色多いけど」
言われて妙に納得してしまうのが癪だけれど。
跡部の座るソファの真向かいにある5.1チャンネルサラウンドシステムに持参したCDをセットしながら、神尾は、俺は蛍光黄緑が好きなんだけどさー、と言って話を続ける。
「………趣味悪ぃ」
「うるせーよ。いいだろ。好きなんだから」
大のお気に入りである素晴らしく音の良いオーディオ機器の前では不機嫌にもなれず、神尾は跡部の悪態も軽くやりすごした。
「今日学校でさ、好きな色によって診断する占いっていうのを、やってもらったんだ。そうしたら、蛍光黄緑が好きな人って、将来小説家に向いてるんだってさ」
自分でも完璧にキャラじゃないなあと思っておかしかったから、神尾は跡部にもその話をしたのだ。
現に学校でも、周囲にいた友人達は、アキラが小説家かよ?と腹を抱えて笑っていたのだ。
どうせ跡部も歯に衣着せぬ物言いで応えてくるのだろうと思っていた神尾は。
跡部が本を閉じて、目線を上げてきた後、言った言葉に思わず双瞳を見開いてしまった。
「いいんじゃねえの」
「は?」
てっきり馬鹿にされるか、呆れられるかとばかり思っていた神尾は、激しく面食らった。
「なに間の抜けたツラしてやがる」
「………え、…だって…」
「小説家なら一日中家にいるんだろ」
跡部は真面目な顔で、そう口にした。
そんな真っ当な切り返しをされるだなんて思ってもみなかった神尾は、確かに小説家なら家で小説を書くんだろうけれど、と心中で呟く。
跡部は神尾を見据えたまま、伸びかけの長くなった前髪を片手でかきあげる。
「一日中手元においておけるんだろ。お前にしちゃ上出来の選択だ」
「…………え…?…」
なんか。
なんだか。
どうしようもなく恥ずかしい事を言われている気がする。
神尾は、秀麗な跡部の顔にも、至って生真面目な返答にも、うろたえるように赤くなる。
当たり前みたいに言われた。
「神尾?」
いつもみたいに、からかうとかすればいいのに。
口悪くあれこれ言葉を並べればいいのに。
どうしてそんな、怪訝そうに呼びかけてきたりなんかするんだと、神尾は鼓動の早まる胸元に無意識に手をやった。
「おい」
「………て…ゆーか……俺が、家にいたって、跡部が外で働いてたら、別にかわんねーじゃん」
言ってる側から、気恥ずかしさのあまり神尾は死にそうになる。
信じられない。
なんて会話なんだと、思うのに。
「バァカ」
「…………う」
「俺にはいくらだって在宅勤務の手段があるんだよ。お前と違ってな」
何でそんな真剣になって否定してくるんだと神尾は混乱する。
「ディーラーでも何でも幾らだって術はある」
「……ディーラー…?」
「説明は簡単だがお前に理解させるのは難しいから聞くな」
「………っ…、…どういう意味だよ…っ」
「ドイツ語とギリシャ語の翻訳家って手もあるな。何ならお前の小説専属のモデルでもやってやるよ」
「……、…は…?!」
「私生活でも書けばいいだろ」
いざって時は官能小説家にでもなれ。
そんな事まで跡部は言った。
最後の最後まで跡部は真面目で。
真剣みたいで。
からかう素振りもなかったので。
当たり前みたいに未来の話をされるので神尾は恥ずかしいと思ったのだけれど。
当たり前みたいに未来も一緒にいるようなので、それはそれで実は嬉しく思ったのだった。
神尾にしてみても、最初は相当たじろいだ跡部の家の豪邸ぶりだったのだが。
順応性は高い方と自覚しているだけあって、今ではすっかりと跡部の家に出向く事にも慣れた。
神尾は神尾で寛いで、好きな事をして過ごす。
話しかけるのは専ら神尾の方からだったが、あれでいて跡部も返答だけはきちんと寄こしてくるので、会話もそれなりにしているのだ。
「跡部の好きな色って、なに?」
「聞かなけりゃ判んねーのかよ」
ソファに座って本の誌面を目で追っている跡部は、神尾の方を見もしないで答えるので、神尾は不服そうに眉根を寄せる。
「判んね」
「ゴールドと黒」
「……まあ、確かに部屋の中とか跡部の服とか、その色多いけど」
言われて妙に納得してしまうのが癪だけれど。
跡部の座るソファの真向かいにある5.1チャンネルサラウンドシステムに持参したCDをセットしながら、神尾は、俺は蛍光黄緑が好きなんだけどさー、と言って話を続ける。
「………趣味悪ぃ」
「うるせーよ。いいだろ。好きなんだから」
大のお気に入りである素晴らしく音の良いオーディオ機器の前では不機嫌にもなれず、神尾は跡部の悪態も軽くやりすごした。
「今日学校でさ、好きな色によって診断する占いっていうのを、やってもらったんだ。そうしたら、蛍光黄緑が好きな人って、将来小説家に向いてるんだってさ」
自分でも完璧にキャラじゃないなあと思っておかしかったから、神尾は跡部にもその話をしたのだ。
現に学校でも、周囲にいた友人達は、アキラが小説家かよ?と腹を抱えて笑っていたのだ。
どうせ跡部も歯に衣着せぬ物言いで応えてくるのだろうと思っていた神尾は。
跡部が本を閉じて、目線を上げてきた後、言った言葉に思わず双瞳を見開いてしまった。
「いいんじゃねえの」
「は?」
てっきり馬鹿にされるか、呆れられるかとばかり思っていた神尾は、激しく面食らった。
「なに間の抜けたツラしてやがる」
「………え、…だって…」
「小説家なら一日中家にいるんだろ」
跡部は真面目な顔で、そう口にした。
そんな真っ当な切り返しをされるだなんて思ってもみなかった神尾は、確かに小説家なら家で小説を書くんだろうけれど、と心中で呟く。
跡部は神尾を見据えたまま、伸びかけの長くなった前髪を片手でかきあげる。
「一日中手元においておけるんだろ。お前にしちゃ上出来の選択だ」
「…………え…?…」
なんか。
なんだか。
どうしようもなく恥ずかしい事を言われている気がする。
神尾は、秀麗な跡部の顔にも、至って生真面目な返答にも、うろたえるように赤くなる。
当たり前みたいに言われた。
「神尾?」
いつもみたいに、からかうとかすればいいのに。
口悪くあれこれ言葉を並べればいいのに。
どうしてそんな、怪訝そうに呼びかけてきたりなんかするんだと、神尾は鼓動の早まる胸元に無意識に手をやった。
「おい」
「………て…ゆーか……俺が、家にいたって、跡部が外で働いてたら、別にかわんねーじゃん」
言ってる側から、気恥ずかしさのあまり神尾は死にそうになる。
信じられない。
なんて会話なんだと、思うのに。
「バァカ」
「…………う」
「俺にはいくらだって在宅勤務の手段があるんだよ。お前と違ってな」
何でそんな真剣になって否定してくるんだと神尾は混乱する。
「ディーラーでも何でも幾らだって術はある」
「……ディーラー…?」
「説明は簡単だがお前に理解させるのは難しいから聞くな」
「………っ…、…どういう意味だよ…っ」
「ドイツ語とギリシャ語の翻訳家って手もあるな。何ならお前の小説専属のモデルでもやってやるよ」
「……、…は…?!」
「私生活でも書けばいいだろ」
いざって時は官能小説家にでもなれ。
そんな事まで跡部は言った。
最後の最後まで跡部は真面目で。
真剣みたいで。
からかう素振りもなかったので。
当たり前みたいに未来の話をされるので神尾は恥ずかしいと思ったのだけれど。
当たり前みたいに未来も一緒にいるようなので、それはそれで実は嬉しく思ったのだった。
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