How did you feel at your first kiss?
鳳が宍戸から逃げている。
宍戸がちょっとでも近寄ろうものならば鳳は断固としてそれを拒否をする。
これはいったい何事かと氷帝のテニス部内は騒然となった。
逆ならばまだしもと。
公然と言われてしまっている辺り、当事者である鳳と宍戸にも複雑な思いがあったのだが、とりあえずもっかのところ彼らに外野に構っている余裕はなかった。
「柔軟」
「別の人として下さい。宍戸さん」
眼光鋭く宍戸が鳳の前に立つ。
鳳は鳳で溜息交じりに頭を下げる。
お願いしますとまで鳳に言われて、宍戸の表情はますます厳しくなった。
「嫌だ」
「……嫌だじゃなくて。……ほんとお願いですから。宍戸さん」
「知らねえよ。いいから柔軟だっつってんだよ。俺は」
「だから、俺は宍戸さんとはしませんって言ってるじゃないですか」
ダブルスは一応どうにか出来ますからと鳳が疲れたように言って。
宍戸が一層機嫌を悪くしていく。
険悪ともいえる雰囲気は、少なくとも鳳と宍戸が醸し出すという事など、通常ならば有り得ない程の険悪さだ。
氷帝テニス部員達はこぞって顔を引きつらせていた。
さすがに普段ならば大抵のことには動じないレギュラー陣でさえも、あまりの雲行きの悪さに彼らの様子が気になって仕方ないようだった。
「………侑士ー…! どうしたんだよあいつら!」
向日の体当たりを平然と受け止めた忍足は、なんやろなあ?とこちらも不審気に首を傾げている。
「えー、あれって鳳がきれてんの? えー、なんで鳳が宍戸にあんなこと言うの? なあ日吉? なんだあれー?」
「……………知りません。ユニフォームが伸びます。手を離して下さい」
うんざりとした風情で、しかし日吉は背後を流し見るようにして鳳と宍戸を伺ってもいる。
ジローは日吉に軽くあしらわれると気にした風もなく、今度は樺地へとかけよって、同じ質問をぶつけていた。
レギュラー陣がこんな調子なのだ。
二百名はいるテニス部員達が浮つくのも無理はない。
しかし、そこに一人、容赦のない男もいるわけで。
「てめえらいい加減にしとけよ」
なまじおそろしく顔立ちの整っている男なので。
跡部がそう低く言って凄むと、凄まじい迫力になる。
無表情でいる故に跡部の怒りは赤裸々でもあり、部員たちは慌てて柔軟に勤しむべく散らばっていった。
跡部は鳳と宍戸の元へと近寄って行く。
「何考えてんだお前ら」
呆れて吐き捨てるように言えば、恨みがましい視線が跡部に注がれる。
「静電気ごときで何をぐだぐだ言ってやがるんだ。鬱陶しい」
「うるせえ! 俺は静電気なんかどうでもいいんだよ! 長太郎の奴が、」
「どうでもいい訳ないです! 俺、今年本当に静電気酷いんですよ?! 宍戸さんに怪我でもさせたら……!」
「するかっ。静電気ごときで!」
「暗がりなら火花見えるんですよ! 宍戸さんの指に傷でもつけたらどうするんですか……っ!」
「だからしねえよ! いいから柔軟!」
「だから柔軟はしませんってば…!」
「……………馬鹿だろ貴様らっ」
跡部が呪詛でも吐くように言い捨てる。
鳳と宍戸はそんな跡部にお構い無しに、堂々巡りの言い争いを繰り返していた。
「………………どうしようもねえ……」
呻いた跡部だけが知っている。
別に喧嘩や諍いがあって、鳳が宍戸を遠ざけているわけではない。
鳳らしからぬ言動は全て。
いっそ過保護なまでに鳳が宍戸を特別視する表れだ。
「おい! 二人ともグラウンド十周走って来いッ。戻ってきてから別々に柔軟だ」
足で蹴り出す勢いで。
跡部は、鳳と宍戸を。
コートの外へと追い払ったのだった。
鳳自身が言うように、今年の鳳は何に触れても。
音がたつほどの強い静電気を起こしてしまっている。
尋常でない程に、頻繁で。
人と人との指先の接触であっても、静電気は音を上げ、鳳の指の先を痛ませた。
そのうち指先だけでなく、二の腕でも胸元でも、接触した箇所から強い静電気が起きるようになって、鳳は何はさておき、帯電しているらしい自分から宍戸を遠ざけようとするようになった。
「……たかだか静電気くらいで」
「………たかだかって何ですか」
憮然と言葉を交わしながらも、鳳と宍戸は並走してグラウンドを走る。
「本当にすごいんですって……」
鳳自身、いい加減持て余している。
あまりにも強い静電気は、何度体験しても小さく不快なのだ。
そんなものを鳳は宍戸には絶対に与えたくない。
「俺はお前に痛い真似なんかされたこと一度もねえよ」
「……何言ってるんですか…宍戸さん」
痛い事ばかりだったでしょうと鳳は走りながら視線を逸らし曖昧に告げる。
「………濡らしてやりゃいいのかな」
「宍戸さん……ほんとに勘弁して下さいって……」
聞こえるか聞こえないかの声で、些か不機嫌そうに呟いている宍戸の言葉一つ一つに鳳は狼狽えた。
「濡れてりゃ静電気も起きないだろ」
「宍戸さん」
「十周、気合入れて走れよ。長太郎」
言うなり宍戸のスピードが増した。
「………………」
華奢で、しなやかで、強靭な背中。
走る速さを増した宍戸を、鳳は一瞬目を細めて見つめて。
それからゆっくり笑みを浮かべた。
「………………」
もっと速く、速く走って。
汗で濡れて、そうすれば。
傷つけないで触れられるかもしれない宍戸を、彼だけを見つめて、鳳は強く地面を蹴り上げた。
宍戸がちょっとでも近寄ろうものならば鳳は断固としてそれを拒否をする。
これはいったい何事かと氷帝のテニス部内は騒然となった。
逆ならばまだしもと。
公然と言われてしまっている辺り、当事者である鳳と宍戸にも複雑な思いがあったのだが、とりあえずもっかのところ彼らに外野に構っている余裕はなかった。
「柔軟」
「別の人として下さい。宍戸さん」
眼光鋭く宍戸が鳳の前に立つ。
鳳は鳳で溜息交じりに頭を下げる。
お願いしますとまで鳳に言われて、宍戸の表情はますます厳しくなった。
「嫌だ」
「……嫌だじゃなくて。……ほんとお願いですから。宍戸さん」
「知らねえよ。いいから柔軟だっつってんだよ。俺は」
「だから、俺は宍戸さんとはしませんって言ってるじゃないですか」
ダブルスは一応どうにか出来ますからと鳳が疲れたように言って。
宍戸が一層機嫌を悪くしていく。
険悪ともいえる雰囲気は、少なくとも鳳と宍戸が醸し出すという事など、通常ならば有り得ない程の険悪さだ。
氷帝テニス部員達はこぞって顔を引きつらせていた。
さすがに普段ならば大抵のことには動じないレギュラー陣でさえも、あまりの雲行きの悪さに彼らの様子が気になって仕方ないようだった。
「………侑士ー…! どうしたんだよあいつら!」
向日の体当たりを平然と受け止めた忍足は、なんやろなあ?とこちらも不審気に首を傾げている。
「えー、あれって鳳がきれてんの? えー、なんで鳳が宍戸にあんなこと言うの? なあ日吉? なんだあれー?」
「……………知りません。ユニフォームが伸びます。手を離して下さい」
うんざりとした風情で、しかし日吉は背後を流し見るようにして鳳と宍戸を伺ってもいる。
ジローは日吉に軽くあしらわれると気にした風もなく、今度は樺地へとかけよって、同じ質問をぶつけていた。
レギュラー陣がこんな調子なのだ。
二百名はいるテニス部員達が浮つくのも無理はない。
しかし、そこに一人、容赦のない男もいるわけで。
「てめえらいい加減にしとけよ」
なまじおそろしく顔立ちの整っている男なので。
跡部がそう低く言って凄むと、凄まじい迫力になる。
無表情でいる故に跡部の怒りは赤裸々でもあり、部員たちは慌てて柔軟に勤しむべく散らばっていった。
跡部は鳳と宍戸の元へと近寄って行く。
「何考えてんだお前ら」
呆れて吐き捨てるように言えば、恨みがましい視線が跡部に注がれる。
「静電気ごときで何をぐだぐだ言ってやがるんだ。鬱陶しい」
「うるせえ! 俺は静電気なんかどうでもいいんだよ! 長太郎の奴が、」
「どうでもいい訳ないです! 俺、今年本当に静電気酷いんですよ?! 宍戸さんに怪我でもさせたら……!」
「するかっ。静電気ごときで!」
「暗がりなら火花見えるんですよ! 宍戸さんの指に傷でもつけたらどうするんですか……っ!」
「だからしねえよ! いいから柔軟!」
「だから柔軟はしませんってば…!」
「……………馬鹿だろ貴様らっ」
跡部が呪詛でも吐くように言い捨てる。
鳳と宍戸はそんな跡部にお構い無しに、堂々巡りの言い争いを繰り返していた。
「………………どうしようもねえ……」
呻いた跡部だけが知っている。
別に喧嘩や諍いがあって、鳳が宍戸を遠ざけているわけではない。
鳳らしからぬ言動は全て。
いっそ過保護なまでに鳳が宍戸を特別視する表れだ。
「おい! 二人ともグラウンド十周走って来いッ。戻ってきてから別々に柔軟だ」
足で蹴り出す勢いで。
跡部は、鳳と宍戸を。
コートの外へと追い払ったのだった。
鳳自身が言うように、今年の鳳は何に触れても。
音がたつほどの強い静電気を起こしてしまっている。
尋常でない程に、頻繁で。
人と人との指先の接触であっても、静電気は音を上げ、鳳の指の先を痛ませた。
そのうち指先だけでなく、二の腕でも胸元でも、接触した箇所から強い静電気が起きるようになって、鳳は何はさておき、帯電しているらしい自分から宍戸を遠ざけようとするようになった。
「……たかだか静電気くらいで」
「………たかだかって何ですか」
憮然と言葉を交わしながらも、鳳と宍戸は並走してグラウンドを走る。
「本当にすごいんですって……」
鳳自身、いい加減持て余している。
あまりにも強い静電気は、何度体験しても小さく不快なのだ。
そんなものを鳳は宍戸には絶対に与えたくない。
「俺はお前に痛い真似なんかされたこと一度もねえよ」
「……何言ってるんですか…宍戸さん」
痛い事ばかりだったでしょうと鳳は走りながら視線を逸らし曖昧に告げる。
「………濡らしてやりゃいいのかな」
「宍戸さん……ほんとに勘弁して下さいって……」
聞こえるか聞こえないかの声で、些か不機嫌そうに呟いている宍戸の言葉一つ一つに鳳は狼狽えた。
「濡れてりゃ静電気も起きないだろ」
「宍戸さん」
「十周、気合入れて走れよ。長太郎」
言うなり宍戸のスピードが増した。
「………………」
華奢で、しなやかで、強靭な背中。
走る速さを増した宍戸を、鳳は一瞬目を細めて見つめて。
それからゆっくり笑みを浮かべた。
「………………」
もっと速く、速く走って。
汗で濡れて、そうすれば。
傷つけないで触れられるかもしれない宍戸を、彼だけを見つめて、鳳は強く地面を蹴り上げた。
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