How did you feel at your first kiss?
小さな紙袋を手に持ってドラッグストアから出た所で神尾は跡部に出くわした。
「……何やってんだお前」
跡部は訝しげにドラッグストアの看板と神尾とを代わる代わる見やってくる。
「跡部こそ何でこの道通ってんだ?」
放課後、神尾は跡部の家に行く約束をしていて。
現に神尾は今こうして跡部の家に向かっている所で。
その最中の寄り道で買物をしていた訳なのだが、跡部がこの通りを使う筈はないのだ。
跡部は制服姿だ。
氷帝から跡部が自宅に向かうとしても、この道は普通絶対に通らない。
「迎えにきてやったんだよ。悪いか」
舌打ちして、言葉も荒くて。
でも跡部はそういう風に攻撃的に優しい男なのだと神尾はもう知っている。
「悪くなんかないぜ! 擦れ違わなくてよかったよな」
神尾が笑うと跡部は溜息をついた。
けれど呆れた気配の割に、跡部は慎重な物言いで神尾の手の中のものに視線を落とす。
「何だよそれ」
「これ?」
「お前のか」
「うん」
「……何の薬だ」
眉を顰めた跡部は、多分心配をしているのだ。
何でもないよと応えれば不機嫌になるし、心配してくれんのと交ぜっかえせばもっと不機嫌になるだろうし。
だから神尾は跡部と並んで歩き出しながら、笑って言った。
「跡部んちについてからな。見せてやるよ」
「えらそうに言ってんじゃねえ。バァカ」
雑な言葉を寄こしてきた割に、跡部の左手は神尾の右の手首を掴んできた。
足早に歩を進められる。
別にこれは薬とかじゃないし、跡部が心配するような事も何もないんだけどなあと神尾はひっそりと思いながら。
跡部の手に包まれている手首が温かくて心地良いから、そのままで歩いていく事にした。
そうして跡部の部屋に入るなり跡部の目線に促されて、神尾は苦笑いしながら紙袋を開けた。
手のひらに乗る程度の大きさの赤いチューブボトル。
「透明はらまき」
「……ああ?」
「だからこれ。温感クリームっていうの? 塗るカイロ。杏ちゃんが、冬場のヘソ出しには欠かせないって話しててさ」
「俺の前でそいつの話するなって言ってあんだろ」
「自分はナンパしておいて言うかな。そういう事」
そんな風に文句を言いながらも、神尾は普段は一応気にしているのだ。
本当に、彼女の名前が出ると跡部は憮然とするから。
以前跡部に、杏ちゃんは友達だぜ?とからかうでもなく言った際に、それでも嫌だと珍しくひどく子供じみた言い方で返されてから、なるべく話題には上げないようにしていた。
「とにかく! 腹とか手とか、これ塗るとぽわーっとあったかくなるんだって。なんか今日とかすごい寒いしさ。俺も試してみようと思って、さっき買ったんだ」
本当にあったかくなんのかなあと手元のチューブボトルを見やりながら、神尾は好奇心を募らせているのだが。
「………跡部?」
跡部からのリアクションがない。
まさか彼女の名前をここで出した事くらいで、本格的に機嫌を損ねた訳ではないだろうが、跡部の沈黙に神尾はふと不安になった。
「おーい……跡部…?」
「………………」
うっかり跡部の顔を覗き込みにいってしまった事が、今日の神尾の敗因だ。
「うわ、何すん…、…」
そうは言ったものの、おそろしいまでの手際のよさ。
神尾は跡部のベッドの上に、ごろんと寝転がされた。
神尾は確かにベッドの縁に腰掛てはいたのだが、音も痛みも何も感じさせずに、一瞬で跡部に組み敷かれてしまう。
「……跡部?」
「塗ってやるよ」
「………え?」
「腹だろ。おら、出せよ」
薄く笑みを浮かべる唇から零れた声は低く卑猥ないつものそれで。
でもどかこ面白がってもいるようで。
神尾は跡部の手に無造作に制服をたくし上げられた。
身体を重ねる時とは違う。
でも制服のまま、まさに腹部だけ晒されるのはまた違った意味で気恥ずかしかった。
「跡部…!」
「…ん? いつもより冷たいじゃねえの。何でだ?」
「だ、………」
跡部も制服を着たまま、ベッドに乗り上げてきている。
指の長い跡部の手のひらが、腹部の真上に直に宛がわれて。
神尾は小さく身震いした。
「いつもと同じだって…、」
「同じじゃねえよ。……触った事ねえっての。こんな冷えた腹」
「……だ…から、いつもは……」
「いつもは? 何だよ」
「………そこらへん…触られる前に、いろいろあるから……っ…」
「………………」
跡部にされる時。
性急にされる時でも。
即物的であったりおざなりにされたりした経験は神尾にはなかった。
跡部の接触はその点ひどく濃やかだ。
「……お前、俺がいつも触ってやってれば、こんなもんいらねえんじゃねえ? ん?」
「…………やらしい顔すんな…」
顔を近づけられて、わざと低くひそめた声にくらくらして。
神尾は不貞腐れたが、跡部の言う事はもっともだとも思う。
「試しに塗ってやるから、どっちがいいかてめえで決めな」
「……どっちがいいとかそういう話じゃないだろ、…」
何だかいつの間にか目的がずれていっている。
跡部は神尾から身体を離し、ベッドに座り込む。
手のひらに温感クリームを出して、オレンジの香りのするそれを神尾の腹部にすり込ませ、揉みしだいていく。
粉っぽい感触のクリームは跡部の手のひらの動きに抵抗感を持たせて、やけにじっくりと腹部を絞り込まれるようにされて、神尾にしてみればたまったものではなかった。
温感を体感する以前に、クリームのせいではなく、肌が熱を帯びる。
「指まわるんじゃねえの……」
細ぇなと呟かれて、そんな訳あるかと神尾は呻いた。
そんな言葉をぽつぽつと交わしながら、愛撫とは別の動きでひとしきり腹部を撫で擦られ、徐々にそこだけに熱を感じる。
どれの、なんの、だれのせいかも判らない。
「………とりあえずこんなもんか」
「………………」
跡部にたくしあげられていた上着が引き下ろされ、晒されていた腹部が覆われる。
至極平然とした振る舞いが癪にさわる。
神尾は制服でベッドに仰向けになっているその体制のまま、跡部を見据えた。
多分、恨みがましい目をしているだろうと自分で思う。
そんな状態で目線を合わせたりしたら、跡部は絶対にそのあたりのことをからかってくるのだろうと思いはしたが、自棄気味に意固地になって見据えていると、意外な事に降伏は跡部からだった。
「……見て見ぬ振りって言葉を知らねえのかお前は」
「………は?」
再度跡部に身体の上に乗り上げてこられた。
塞がれた唇は。
一瞬で、身体中のどこの箇所よりも、熱くなった。
「……何やってんだお前」
跡部は訝しげにドラッグストアの看板と神尾とを代わる代わる見やってくる。
「跡部こそ何でこの道通ってんだ?」
放課後、神尾は跡部の家に行く約束をしていて。
現に神尾は今こうして跡部の家に向かっている所で。
その最中の寄り道で買物をしていた訳なのだが、跡部がこの通りを使う筈はないのだ。
跡部は制服姿だ。
氷帝から跡部が自宅に向かうとしても、この道は普通絶対に通らない。
「迎えにきてやったんだよ。悪いか」
舌打ちして、言葉も荒くて。
でも跡部はそういう風に攻撃的に優しい男なのだと神尾はもう知っている。
「悪くなんかないぜ! 擦れ違わなくてよかったよな」
神尾が笑うと跡部は溜息をついた。
けれど呆れた気配の割に、跡部は慎重な物言いで神尾の手の中のものに視線を落とす。
「何だよそれ」
「これ?」
「お前のか」
「うん」
「……何の薬だ」
眉を顰めた跡部は、多分心配をしているのだ。
何でもないよと応えれば不機嫌になるし、心配してくれんのと交ぜっかえせばもっと不機嫌になるだろうし。
だから神尾は跡部と並んで歩き出しながら、笑って言った。
「跡部んちについてからな。見せてやるよ」
「えらそうに言ってんじゃねえ。バァカ」
雑な言葉を寄こしてきた割に、跡部の左手は神尾の右の手首を掴んできた。
足早に歩を進められる。
別にこれは薬とかじゃないし、跡部が心配するような事も何もないんだけどなあと神尾はひっそりと思いながら。
跡部の手に包まれている手首が温かくて心地良いから、そのままで歩いていく事にした。
そうして跡部の部屋に入るなり跡部の目線に促されて、神尾は苦笑いしながら紙袋を開けた。
手のひらに乗る程度の大きさの赤いチューブボトル。
「透明はらまき」
「……ああ?」
「だからこれ。温感クリームっていうの? 塗るカイロ。杏ちゃんが、冬場のヘソ出しには欠かせないって話しててさ」
「俺の前でそいつの話するなって言ってあんだろ」
「自分はナンパしておいて言うかな。そういう事」
そんな風に文句を言いながらも、神尾は普段は一応気にしているのだ。
本当に、彼女の名前が出ると跡部は憮然とするから。
以前跡部に、杏ちゃんは友達だぜ?とからかうでもなく言った際に、それでも嫌だと珍しくひどく子供じみた言い方で返されてから、なるべく話題には上げないようにしていた。
「とにかく! 腹とか手とか、これ塗るとぽわーっとあったかくなるんだって。なんか今日とかすごい寒いしさ。俺も試してみようと思って、さっき買ったんだ」
本当にあったかくなんのかなあと手元のチューブボトルを見やりながら、神尾は好奇心を募らせているのだが。
「………跡部?」
跡部からのリアクションがない。
まさか彼女の名前をここで出した事くらいで、本格的に機嫌を損ねた訳ではないだろうが、跡部の沈黙に神尾はふと不安になった。
「おーい……跡部…?」
「………………」
うっかり跡部の顔を覗き込みにいってしまった事が、今日の神尾の敗因だ。
「うわ、何すん…、…」
そうは言ったものの、おそろしいまでの手際のよさ。
神尾は跡部のベッドの上に、ごろんと寝転がされた。
神尾は確かにベッドの縁に腰掛てはいたのだが、音も痛みも何も感じさせずに、一瞬で跡部に組み敷かれてしまう。
「……跡部?」
「塗ってやるよ」
「………え?」
「腹だろ。おら、出せよ」
薄く笑みを浮かべる唇から零れた声は低く卑猥ないつものそれで。
でもどかこ面白がってもいるようで。
神尾は跡部の手に無造作に制服をたくし上げられた。
身体を重ねる時とは違う。
でも制服のまま、まさに腹部だけ晒されるのはまた違った意味で気恥ずかしかった。
「跡部…!」
「…ん? いつもより冷たいじゃねえの。何でだ?」
「だ、………」
跡部も制服を着たまま、ベッドに乗り上げてきている。
指の長い跡部の手のひらが、腹部の真上に直に宛がわれて。
神尾は小さく身震いした。
「いつもと同じだって…、」
「同じじゃねえよ。……触った事ねえっての。こんな冷えた腹」
「……だ…から、いつもは……」
「いつもは? 何だよ」
「………そこらへん…触られる前に、いろいろあるから……っ…」
「………………」
跡部にされる時。
性急にされる時でも。
即物的であったりおざなりにされたりした経験は神尾にはなかった。
跡部の接触はその点ひどく濃やかだ。
「……お前、俺がいつも触ってやってれば、こんなもんいらねえんじゃねえ? ん?」
「…………やらしい顔すんな…」
顔を近づけられて、わざと低くひそめた声にくらくらして。
神尾は不貞腐れたが、跡部の言う事はもっともだとも思う。
「試しに塗ってやるから、どっちがいいかてめえで決めな」
「……どっちがいいとかそういう話じゃないだろ、…」
何だかいつの間にか目的がずれていっている。
跡部は神尾から身体を離し、ベッドに座り込む。
手のひらに温感クリームを出して、オレンジの香りのするそれを神尾の腹部にすり込ませ、揉みしだいていく。
粉っぽい感触のクリームは跡部の手のひらの動きに抵抗感を持たせて、やけにじっくりと腹部を絞り込まれるようにされて、神尾にしてみればたまったものではなかった。
温感を体感する以前に、クリームのせいではなく、肌が熱を帯びる。
「指まわるんじゃねえの……」
細ぇなと呟かれて、そんな訳あるかと神尾は呻いた。
そんな言葉をぽつぽつと交わしながら、愛撫とは別の動きでひとしきり腹部を撫で擦られ、徐々にそこだけに熱を感じる。
どれの、なんの、だれのせいかも判らない。
「………とりあえずこんなもんか」
「………………」
跡部にたくしあげられていた上着が引き下ろされ、晒されていた腹部が覆われる。
至極平然とした振る舞いが癪にさわる。
神尾は制服でベッドに仰向けになっているその体制のまま、跡部を見据えた。
多分、恨みがましい目をしているだろうと自分で思う。
そんな状態で目線を合わせたりしたら、跡部は絶対にそのあたりのことをからかってくるのだろうと思いはしたが、自棄気味に意固地になって見据えていると、意外な事に降伏は跡部からだった。
「……見て見ぬ振りって言葉を知らねえのかお前は」
「………は?」
再度跡部に身体の上に乗り上げてこられた。
塞がれた唇は。
一瞬で、身体中のどこの箇所よりも、熱くなった。
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