How did you feel at your first kiss?
今日の最後のキスのつもりだったのだ。
ごく軽い、触れる程度のつもりで、重ねた筈のキスだったのに。
やっぱり駄目だった。
すぐにそれを自覚して。
鳳は胸の内に、苦笑交じりの思いを宿す。
やっぱり駄目だった。
判ってはいた事だったけれども。
宍戸の唇は、触れればいつも、清涼感のあるミントの匂いがする。
優しく冷えている吐息と唇のやわらかさには、幾度口づけても思い知らされる事がある。
キスをした瞬間に。
湿りがちな、滞りがちな、鬱々としたものは全て清められる。
隠しもっている、押さえ込んでいる、密やかに静めている筈の欲望は全て引き摺り出される。
宍戸に口づけるたびに。
必ずそうなる。
これがいくら、もう何度目かも判らないくらいに繰り返した接触であっても、一種眩暈じみた衝動で、鳳は宍戸をかき抱かずにはいられなくなった。
「…………、…ん…」
「………………」
もうほんの数ミリも背後には行けないくらい。
部室の壁へ背を押し当てている宍戸に、覆い被さるようにして。
鳳はその唇をキスで深く塞いだ。
部活後、一番最後に部室に戻ってきた鳳と宍戸が、着替えを済ませたのも、やはり一番最後のこと。
チームメイトの姿は、もう誰一人としてここにはない。
制服に着替えて、それじゃあ帰るかと言って部室を出ようとした宍戸の腕を引いたのは鳳だ。
そして最初は確かに軽く重ねるだけのつもりだったキスが、次第に熱を帯びていってしまった。
「ふ…………ぁ」
「………………」
小さな喉声が宍戸の唇から零れると、宍戸がいつも口にいている飴やガムのミントの香りが、キスに溶けて甘みを濃くする。
それを飲み込むように、少しだけあからさまに鳳が宍戸の舌を貪れば、宍戸の指先が鳳の肩を掴んできた。
引き剥がしたい素振りではなかった。
むしろ、小さく取り縋る所作で。
鳳の肩口を掴む手の動きがどこか幼くさえあって鳳は余計に煽られた。
「宍戸さん」
「………、ぁ、」
執拗に絡めた舌を、殊更ゆっくりと、ほどく側から鳳が囁くと。
濡れた息も声も全部そのままふりこぼして、宍戸が眼差しを仰のかせてきた。
睫毛の震えも見て取れるくらいの至近距離。
鳳は宍戸の頬を、そっと掠るくらいのキスをして、腕の中にその痩身を抱き込んだ。
「………………」
鳳の腕の中、宍戸の肢体からは。
やはりあの、仄かに甘い気配の、爽やかな匂いがする。
「長太郎、…」
「……もう少しだけ」
「………………」
ここまできてしまえばもう。
ねだるのもあまえるのも何も隠さずに。
鳳は洗い浚い晒して、そう口にした。
宍戸を抱き締めながら、ほっそりとした首筋に横ざま唇を寄せる。
鳳の唇に、宍戸の首の脈が直に響いた。
「お願いします。……あと、もう少しだけ、こうしてて…?」
「…………お願いなんかされなくたって…別にやめろとか言ってねえだろ…」
少し怒ったような声で、しかし宍戸の指先は甘い仕草で鳳の髪にうずめられた。
宍戸の手に抱き返される。
鳳は宍戸から、澄んだ香りの涼やかさと、密着した身体の温かみとを同時に感じる。
厳しくて優しい人。
鋭くて柔らかな人。
渇望する気持ちは募るばかりだった。
「………………ミントには温冷作用があるっていうけど、本当ですね」
「……、…は…?」
「寒い時に温めて、暑い時には冷ましてくれる効果があるっていうから」
鳳の腕の中にいる宍戸が、まさにそうだった。
いつもそうやって、あまりバランスのよくない鳳のメンタルを、宥めたり切り替えたり、時には煽ったり唆したりしてくるのだ。
「……何だ? ガムの話か…?」
本人は何も判っていないらしいのだけれど。
全くもって無意識の事らしいのだけれど。
「…………違います。宍戸さんの話ですよ」
鳳は、小さく笑って言った。
「ミントの匂いのする、宍戸さんの話です」
冷静になるきっかけも、気を紛らわせることも。
気がかりの緩和にも、気持ちの切り替えにも。
もっと欲しい、まだ欲しい、口に出来ないと落ち着かない。
欲しくて、好きで、必要なのだ。
大切なのだ。
この人が。
鳳は、今度こそ今日最後の心積もりで。
ミントの匂いのする宍戸の唇を塞いだ。
ごく軽い、触れる程度のつもりで、重ねた筈のキスだったのに。
やっぱり駄目だった。
すぐにそれを自覚して。
鳳は胸の内に、苦笑交じりの思いを宿す。
やっぱり駄目だった。
判ってはいた事だったけれども。
宍戸の唇は、触れればいつも、清涼感のあるミントの匂いがする。
優しく冷えている吐息と唇のやわらかさには、幾度口づけても思い知らされる事がある。
キスをした瞬間に。
湿りがちな、滞りがちな、鬱々としたものは全て清められる。
隠しもっている、押さえ込んでいる、密やかに静めている筈の欲望は全て引き摺り出される。
宍戸に口づけるたびに。
必ずそうなる。
これがいくら、もう何度目かも判らないくらいに繰り返した接触であっても、一種眩暈じみた衝動で、鳳は宍戸をかき抱かずにはいられなくなった。
「…………、…ん…」
「………………」
もうほんの数ミリも背後には行けないくらい。
部室の壁へ背を押し当てている宍戸に、覆い被さるようにして。
鳳はその唇をキスで深く塞いだ。
部活後、一番最後に部室に戻ってきた鳳と宍戸が、着替えを済ませたのも、やはり一番最後のこと。
チームメイトの姿は、もう誰一人としてここにはない。
制服に着替えて、それじゃあ帰るかと言って部室を出ようとした宍戸の腕を引いたのは鳳だ。
そして最初は確かに軽く重ねるだけのつもりだったキスが、次第に熱を帯びていってしまった。
「ふ…………ぁ」
「………………」
小さな喉声が宍戸の唇から零れると、宍戸がいつも口にいている飴やガムのミントの香りが、キスに溶けて甘みを濃くする。
それを飲み込むように、少しだけあからさまに鳳が宍戸の舌を貪れば、宍戸の指先が鳳の肩を掴んできた。
引き剥がしたい素振りではなかった。
むしろ、小さく取り縋る所作で。
鳳の肩口を掴む手の動きがどこか幼くさえあって鳳は余計に煽られた。
「宍戸さん」
「………、ぁ、」
執拗に絡めた舌を、殊更ゆっくりと、ほどく側から鳳が囁くと。
濡れた息も声も全部そのままふりこぼして、宍戸が眼差しを仰のかせてきた。
睫毛の震えも見て取れるくらいの至近距離。
鳳は宍戸の頬を、そっと掠るくらいのキスをして、腕の中にその痩身を抱き込んだ。
「………………」
鳳の腕の中、宍戸の肢体からは。
やはりあの、仄かに甘い気配の、爽やかな匂いがする。
「長太郎、…」
「……もう少しだけ」
「………………」
ここまできてしまえばもう。
ねだるのもあまえるのも何も隠さずに。
鳳は洗い浚い晒して、そう口にした。
宍戸を抱き締めながら、ほっそりとした首筋に横ざま唇を寄せる。
鳳の唇に、宍戸の首の脈が直に響いた。
「お願いします。……あと、もう少しだけ、こうしてて…?」
「…………お願いなんかされなくたって…別にやめろとか言ってねえだろ…」
少し怒ったような声で、しかし宍戸の指先は甘い仕草で鳳の髪にうずめられた。
宍戸の手に抱き返される。
鳳は宍戸から、澄んだ香りの涼やかさと、密着した身体の温かみとを同時に感じる。
厳しくて優しい人。
鋭くて柔らかな人。
渇望する気持ちは募るばかりだった。
「………………ミントには温冷作用があるっていうけど、本当ですね」
「……、…は…?」
「寒い時に温めて、暑い時には冷ましてくれる効果があるっていうから」
鳳の腕の中にいる宍戸が、まさにそうだった。
いつもそうやって、あまりバランスのよくない鳳のメンタルを、宥めたり切り替えたり、時には煽ったり唆したりしてくるのだ。
「……何だ? ガムの話か…?」
本人は何も判っていないらしいのだけれど。
全くもって無意識の事らしいのだけれど。
「…………違います。宍戸さんの話ですよ」
鳳は、小さく笑って言った。
「ミントの匂いのする、宍戸さんの話です」
冷静になるきっかけも、気を紛らわせることも。
気がかりの緩和にも、気持ちの切り替えにも。
もっと欲しい、まだ欲しい、口に出来ないと落ち着かない。
欲しくて、好きで、必要なのだ。
大切なのだ。
この人が。
鳳は、今度こそ今日最後の心積もりで。
ミントの匂いのする宍戸の唇を塞いだ。
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