How did you feel at your first kiss?
彼を見つめる事には慣れている。
いつも、いつも見てきたからだ。
宍戸が、鳳よりも、もっとずっと先に、高みに、いた時も。
手も触れられない処に宍戸がいた時からずっと鳳は彼を見ていた。
宍戸がそこから堕ちて来た時も。
見ていた。
いっそ何も汚れずに強いままでいるから痛々しかった。
宍戸が在るべき場所に戻してやりたいと鳳は思った。
彼が、強く、明るく、笑っていられる場所に。
戻して、そして、自分も其処にいくのだと鳳は決めたのだ。
綺麗な黒い色の長い髪はなくなったけれど。
宍戸は息のしやすい様子で笑い、鳳は彼の隣に並んで立てている。
レギュラー用の部室に最後に戻ってきたのは宍戸だった。
一人残っていた鳳を見とめて、宍戸は微かに唇の端を引き上げた。
ユニフォームを脱いで制服へと着替える、しなる背中を鳳は直視する。
華奢な骨格はその上にある薄い筋肉や肌の質感を繊細にうごめかせる。
「長太郎」
ふいに宍戸に呼ばれて、鳳がそれに応えるよりも先に。
「ただ見られてても俺は判んねえぞ」
ただ見られているという事は判っている宍戸が、振り返りもせずにそう言った。
「………………」
鳳はそれだけで大概の事は許されているような気になって一歩を進む。
宍戸の背後に立って、その後ろ髪に唇を寄せる。
「………………」
「………どうせ甘ったれんなら一気にやれっての」
ロッカーに向いたまま宍戸が後ろ手に左手を鳳に向けて伸ばしてくる。
過たずその指先は鳳の髪に埋められ軽くかきまぜられた。
間近に見下ろす宍戸のうなじはいつものように清潔に露で、今度はそこに唇を寄せながら鳳は両手で宍戸の身体を深く抱きこんだ。
強く力を入れても宍戸は身じろがなかった。
「………お前、また伸びただろ。背」
「……そうですか? よく判んないですけど」
宍戸の背と鳳の胸元が、ぴったりと密着している。
鳳が宍戸を抱き寄せている手にもう少し力を入れると、宍戸の唇から苦笑交じりの吐息が零れた。
「……………へこみすぎだ」
「宍戸さん」
「そう簡単に後輩のお前に負ける訳ねえだろ」
極軽く、宍戸の手が鳳の腕も叩いた。
部活の時間、最後に二人でシングルスの試合をした。
勝ったのは宍戸だ。
「四ゲームもとられてへこみたいのは俺の方だっての」
しかもサーブだけで一ゲームとられちまうしと嘆くように呟いている宍戸が。
甘ったれるのなら一気にやれと、鳳に言ったのだ。
だからもう、恥も何もないと鳳は思って。
背後から宍戸を抱き締めたまま、その耳元に囁いた。
「……宍戸さんに、飽きられたくないじゃないですか」
「は?」
「俺は年下だし。知っている事とか見ているものとか、永遠に宍戸さんより三百六十五日分少ないから」
だから、と鳳は低く続けた。
「勉強しようと思うし、優しくなりたいと思うし、力が欲しいとも思うんです」
宍戸が相手だからこそ、テニスだって勝ちたい。
負けてへこむ理由は、勝敗という結果への落胆だけではなく、そういう心積もりが叶わない事への消失感も含まれているのだ。
好きで、好きで、どうしようもなくなるたった一人のひとだから。
そういう鳳の言葉を聞き入れた宍戸は、小さな声で呟いてくる。
「………それで俺は、そうやって物を知ってて優しくて強いお前を他の奴らにとられないように必死になる訳だ」
「誰がとるんですか…」
「お前の言う三百六十五日分ってところで俺には判んだよ」
ずるいなあと鳳は苦く笑った。
そんな風に言われたら、鳳に出来るのは三百六十五日分を知らないという事を認める上で、我儘めいた態度を見せ付けるしか出来なくなる。
「俺のことをとるのは宍戸さんだけです。宍戸さんがいらないって言っても押し付けるけど」
「一生言わねえよ」
気配が緩んで宍戸が微笑んだのが判る。
僅かに鳳の胸元に宍戸の方からもたれてきた感触が鳳の手に甘くしみこんでくる。
抱き締めたい。
抱き締めている時でも絶えず沸き起こる、これは鳳の衝動めいた思いだ。
「………………」
こんなにも抱き締めている。
こんなにも近くにいる。
それでもこの、窮屈な体勢からのキスは。
手探りめいてたどたどしく、甘苦しく互いの気持ちを知らせあう。
互いのそれと、からめた舌は。
互いの恋情で、濡れていく。
いつも、いつも見てきたからだ。
宍戸が、鳳よりも、もっとずっと先に、高みに、いた時も。
手も触れられない処に宍戸がいた時からずっと鳳は彼を見ていた。
宍戸がそこから堕ちて来た時も。
見ていた。
いっそ何も汚れずに強いままでいるから痛々しかった。
宍戸が在るべき場所に戻してやりたいと鳳は思った。
彼が、強く、明るく、笑っていられる場所に。
戻して、そして、自分も其処にいくのだと鳳は決めたのだ。
綺麗な黒い色の長い髪はなくなったけれど。
宍戸は息のしやすい様子で笑い、鳳は彼の隣に並んで立てている。
レギュラー用の部室に最後に戻ってきたのは宍戸だった。
一人残っていた鳳を見とめて、宍戸は微かに唇の端を引き上げた。
ユニフォームを脱いで制服へと着替える、しなる背中を鳳は直視する。
華奢な骨格はその上にある薄い筋肉や肌の質感を繊細にうごめかせる。
「長太郎」
ふいに宍戸に呼ばれて、鳳がそれに応えるよりも先に。
「ただ見られてても俺は判んねえぞ」
ただ見られているという事は判っている宍戸が、振り返りもせずにそう言った。
「………………」
鳳はそれだけで大概の事は許されているような気になって一歩を進む。
宍戸の背後に立って、その後ろ髪に唇を寄せる。
「………………」
「………どうせ甘ったれんなら一気にやれっての」
ロッカーに向いたまま宍戸が後ろ手に左手を鳳に向けて伸ばしてくる。
過たずその指先は鳳の髪に埋められ軽くかきまぜられた。
間近に見下ろす宍戸のうなじはいつものように清潔に露で、今度はそこに唇を寄せながら鳳は両手で宍戸の身体を深く抱きこんだ。
強く力を入れても宍戸は身じろがなかった。
「………お前、また伸びただろ。背」
「……そうですか? よく判んないですけど」
宍戸の背と鳳の胸元が、ぴったりと密着している。
鳳が宍戸を抱き寄せている手にもう少し力を入れると、宍戸の唇から苦笑交じりの吐息が零れた。
「……………へこみすぎだ」
「宍戸さん」
「そう簡単に後輩のお前に負ける訳ねえだろ」
極軽く、宍戸の手が鳳の腕も叩いた。
部活の時間、最後に二人でシングルスの試合をした。
勝ったのは宍戸だ。
「四ゲームもとられてへこみたいのは俺の方だっての」
しかもサーブだけで一ゲームとられちまうしと嘆くように呟いている宍戸が。
甘ったれるのなら一気にやれと、鳳に言ったのだ。
だからもう、恥も何もないと鳳は思って。
背後から宍戸を抱き締めたまま、その耳元に囁いた。
「……宍戸さんに、飽きられたくないじゃないですか」
「は?」
「俺は年下だし。知っている事とか見ているものとか、永遠に宍戸さんより三百六十五日分少ないから」
だから、と鳳は低く続けた。
「勉強しようと思うし、優しくなりたいと思うし、力が欲しいとも思うんです」
宍戸が相手だからこそ、テニスだって勝ちたい。
負けてへこむ理由は、勝敗という結果への落胆だけではなく、そういう心積もりが叶わない事への消失感も含まれているのだ。
好きで、好きで、どうしようもなくなるたった一人のひとだから。
そういう鳳の言葉を聞き入れた宍戸は、小さな声で呟いてくる。
「………それで俺は、そうやって物を知ってて優しくて強いお前を他の奴らにとられないように必死になる訳だ」
「誰がとるんですか…」
「お前の言う三百六十五日分ってところで俺には判んだよ」
ずるいなあと鳳は苦く笑った。
そんな風に言われたら、鳳に出来るのは三百六十五日分を知らないという事を認める上で、我儘めいた態度を見せ付けるしか出来なくなる。
「俺のことをとるのは宍戸さんだけです。宍戸さんがいらないって言っても押し付けるけど」
「一生言わねえよ」
気配が緩んで宍戸が微笑んだのが判る。
僅かに鳳の胸元に宍戸の方からもたれてきた感触が鳳の手に甘くしみこんでくる。
抱き締めたい。
抱き締めている時でも絶えず沸き起こる、これは鳳の衝動めいた思いだ。
「………………」
こんなにも抱き締めている。
こんなにも近くにいる。
それでもこの、窮屈な体勢からのキスは。
手探りめいてたどたどしく、甘苦しく互いの気持ちを知らせあう。
互いのそれと、からめた舌は。
互いの恋情で、濡れていく。
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