How did you feel at your first kiss?
放課後、部室前で海堂と目が合った途端、乾は表情を変えた。
そうと判る人間は限られるだろうが、少なくとも判る人間の中では、それはあからさますぎると言われているレベルの表情で。
海堂にも、それはよく判った。
「海堂ー……」
乾の低音の声が持つ艶っぽさが、遺憾なく発揮された声音。
海堂は生真面目に見つめ返す。
先に来ていたのは海堂の方で、乾は足早に歩み寄ってくるなり海堂の肩を両手で包んだ。
「海堂が足りなくて死にそう」
「……………」
小さな溜息に込められている思いは深そうで、真顔で辛そうに嘆息する乾を、海堂は黙って見上げた。
痛くない程度に鷲掴みにされている両肩の力加減が、あんたはいったい何をふざけているのかと言いたくなる言葉を海堂に飲み込ませてしまう。
「……………」
それっきり乾が何も言わなくなったので。
海堂も黙ったまま、じっと乾を見上げるだけでいた。
「………海堂」
見目も声も一際大人びているくせに。
自分の名前だけをそんな、無闇に甘やかしてやりたくなるような顔をして、声でもって、口にするなと海堂は思う。
「ちょっとだけ抱き締めていい?」
何でちょっとなんだか判らない。
どうしてたくさんじゃ駄目なんだ。
「……ほっそいなあ…」
乾の手に抱き込まれた腰。
あんたの手がでかいんだろうがと思う。
だいたい今更。
何でたった今知ったみたいに言うのか理解不能だ。
海堂は乾の胸元に閉じ込められる。
長い腕で縛り付けられる。
乾のしたい事が海堂のされたい事だと、まさか乾は知らないでいるのだろうか。
「………逃げたい時は本気で逃げるようにね」
自嘲めいた言葉の意味。
そんなことは海堂は知らない。
でもその言葉の道理を使うのならば、つかまえたい時は本気でつかまえればいいのだという事だろう。
言葉の数を知らない自分だけれど、そうと決めて翻さない気持ちは持っている。
あれこれと難しくいろいろ考えて、時折頭も身体も疲労困憊させている男を呼ぶための言葉は知っている。
「先輩」
強く口にして。
強く見つめれば。
疲れて強張ったような表情を浮かべていた乾が、ひどく生々しく戸惑った気配を見せるので、海堂の気持ちも穏やかに凪いでいく。
抱き締めたいのなら好きなだけ。
好きなだけ抱き締めたらいい。
足りないのなら欲しいだけ。
欲しいだけ持っていけばいい。
あと他に、望むものがあるのなら、言ってみろよと思って願って見つめ続ければ。
「………降参」
珍しく少し赤い顔をして、乾は海堂の肩口に顔を伏せた。
無口といよりも。
言葉足らずな自分を海堂は自覚しているけれど。
そんな海棠の性質を加速させたのは、判ってしまいすぎる乾が原因の一端だと思う。
「そうやって、あんまりにも見境なくお前のことを好きにさせていったら、俺は面倒で大変だぞ。海堂」
乾はそう言った。
乾の危惧が海堂の願望だと、まさか乾は知らないでいるのだろうか。
そうと判る人間は限られるだろうが、少なくとも判る人間の中では、それはあからさますぎると言われているレベルの表情で。
海堂にも、それはよく判った。
「海堂ー……」
乾の低音の声が持つ艶っぽさが、遺憾なく発揮された声音。
海堂は生真面目に見つめ返す。
先に来ていたのは海堂の方で、乾は足早に歩み寄ってくるなり海堂の肩を両手で包んだ。
「海堂が足りなくて死にそう」
「……………」
小さな溜息に込められている思いは深そうで、真顔で辛そうに嘆息する乾を、海堂は黙って見上げた。
痛くない程度に鷲掴みにされている両肩の力加減が、あんたはいったい何をふざけているのかと言いたくなる言葉を海堂に飲み込ませてしまう。
「……………」
それっきり乾が何も言わなくなったので。
海堂も黙ったまま、じっと乾を見上げるだけでいた。
「………海堂」
見目も声も一際大人びているくせに。
自分の名前だけをそんな、無闇に甘やかしてやりたくなるような顔をして、声でもって、口にするなと海堂は思う。
「ちょっとだけ抱き締めていい?」
何でちょっとなんだか判らない。
どうしてたくさんじゃ駄目なんだ。
「……ほっそいなあ…」
乾の手に抱き込まれた腰。
あんたの手がでかいんだろうがと思う。
だいたい今更。
何でたった今知ったみたいに言うのか理解不能だ。
海堂は乾の胸元に閉じ込められる。
長い腕で縛り付けられる。
乾のしたい事が海堂のされたい事だと、まさか乾は知らないでいるのだろうか。
「………逃げたい時は本気で逃げるようにね」
自嘲めいた言葉の意味。
そんなことは海堂は知らない。
でもその言葉の道理を使うのならば、つかまえたい時は本気でつかまえればいいのだという事だろう。
言葉の数を知らない自分だけれど、そうと決めて翻さない気持ちは持っている。
あれこれと難しくいろいろ考えて、時折頭も身体も疲労困憊させている男を呼ぶための言葉は知っている。
「先輩」
強く口にして。
強く見つめれば。
疲れて強張ったような表情を浮かべていた乾が、ひどく生々しく戸惑った気配を見せるので、海堂の気持ちも穏やかに凪いでいく。
抱き締めたいのなら好きなだけ。
好きなだけ抱き締めたらいい。
足りないのなら欲しいだけ。
欲しいだけ持っていけばいい。
あと他に、望むものがあるのなら、言ってみろよと思って願って見つめ続ければ。
「………降参」
珍しく少し赤い顔をして、乾は海堂の肩口に顔を伏せた。
無口といよりも。
言葉足らずな自分を海堂は自覚しているけれど。
そんな海棠の性質を加速させたのは、判ってしまいすぎる乾が原因の一端だと思う。
「そうやって、あんまりにも見境なくお前のことを好きにさせていったら、俺は面倒で大変だぞ。海堂」
乾はそう言った。
乾の危惧が海堂の願望だと、まさか乾は知らないでいるのだろうか。
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