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How did you feel at your first kiss?
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 跡部のキスがいつもと違う。
 神尾が感じた違和感は不快なものではなかったけれど。
 神尾を不安にはさせた。
 普段なら頭を抱え込まれて貪られる唇に、今日はあくまで軽く。
 通常ならいやらしく音をたてて探られる口腔に、今日は撫でるよりも浅い接触。
 焦らされている時とは異なる、どこか覇気のない、跡部らしくないキスに。
 神尾は唇を合わせたままそっと目を開けた。
「………………」
 跡部は長い睫毛を伏せるようにしているだけで、目は閉じていなかった。
 あからさまに何か別の事を考えている目だ。
 さすがに神尾も、自分にされているキスが適当だとは評したくないのだが、これはどう考えたって。
 心ここにあらずといった状態の跡部がしてくるこのキスは、どう考えたって。
 適当、だ。
「………………」
 神尾の中に妙な敵対心が沸き起こってきた。
 神尾は唇の合わせを自分の方からもう少しゆるめて、舌をさしだした。
 普段であれば、神尾がこんな真似でもすれば。
 痛いくらいに跡部の口腔へと吸い込まれていく筈の神尾の舌を、今日の跡部は素通りした。
「………………」
 そういえば。
 いつもは神尾の身体を縛り付けるようにして回されている筈の跡部の両腕も、だらりと跡部の身体の両脇に下りたままだ。
 跡部の部屋で、二人きりでいて、交わすキスなのに。
 随分と儀礼的な感じがしてくる。
 そうやって、あれこれと、よくよく伺ってみれば本当に。
 今日の跡部の態度はおざなりで、ここにきて神尾は漸く不機嫌に眉根を寄せた。
 全く持って乗り気でないと言わんばかりの適当なキスに腹が立つ。
 別に、適当にならしなくたっていい。
 おざなりにならいらない。
 そう吐き捨てるのは簡単だったけれど、でも本音は神尾だってするならちゃんとしたキスが欲しいだけだ。
「………………」
 なので神尾は自分のの方から。
 下から伸び上がるようにして、跡部の唇に深く密着する。
 いつもは跡部がするように。
 しかし今日は神尾が伸ばした両腕で跡部の頭を抱き寄せて。
 神尾から跡部の胸元におさまるように近づいていって。
 それなのに、跡部の腕は軽く神尾の肩を掴むだけで、その腕も結局キスを離し、神尾の身体を跡部から引き剥がす為に使われた。
「…………なんだ? やりてえの?」
「………………」
 唇と身体が離れると、跡部は少しだけ笑って言った。
 でもその笑みと同じくらい少しだけ。
 跡部の機嫌がよくないのも判って。
 神尾はちょっと傷ついた。
「………………」
 それを押し隠して睨み据えた先で、微かな溜息まで跡部につかれてしまってその心情は余計にだ。
「……ったく。普段こんな真似してみせたこともないくせに」
「………………」
「噛み合わねえ時にばっか誘うんじゃねえよ」
 別に。
 跡部と噛み合わなくて。
 跡部がしたくないならしたくないでいいけれど。
 でもだからってそういう言い草があるか?!と神尾は内心で激しく憤慨した。
 実際は、そんな思いも口に出せないくらい、結構なショックを受けている神尾であるけれど。
 跡部の方こそ、普段ならどうしてそんなにがっついてるんだと神尾が焦るくらいなのに、今日はそんなにも低い熱量で自分を見つめるのかと。
 神尾が言葉を口にする事も出来ずに、跡部をただ睨みすえているだけでいる中。
 床に置いてあった跡部の携帯が無造作に着信音をたてた。
 神尾は緊張感の最中に割って入ってきたその音に驚いて、一瞬身体を竦ませたが、跡部は平然と電話に向かって手を伸ばす。
 あっさりと神尾から離れていって。
 その電話に跡部は出た。
「………………」
 本当にもう、ここまできたら何から何まで腹がたつ。
 何から何まで人の事を傷つける。
 神尾は心底から、むかつくやら悔しいやら哀しいやらで本気で泣きたくなってしまった。
 その間跡部は神尾に背を向けながら電話で誰かと話をしている。
 放ったらかしもいいとこだ。
 さすがに神尾も限界だった。
「………………」
 もうこんな所さっさと出て行ってやると、神尾が無言を貫き通して跡部を追い越し、部屋を出て行こうとした時だ。
 跡部が電話をかけてきた相手に「今から行きます」と返事をして電話をきった。
 適当なキスだとか、噛み合わない欲だとか、その上に自分など置いていって平気で出かけると言うのだから、ほとほと軽んじられてると怒りも最骨頂に達した神尾は、跡部を追い越しかけた所で二の腕をつかまれた。
 物凄い力でだ。
「……、……ッ…な…」
「………………」
 支えもないまま首が仰け反るほど強く深く唇を塞がれた。
 痛いような濃密すぎるこのキスを、神尾はよく知っている。
 身体は慣れないけれど、気持ちは慣れてもいる。
 馴染んだキスだ。
 跡部が必ずするキスだ。
 神尾を抱いている最中に。
「……お前、俺がこの後すぐにお前を抱けないって知った上であんな真似したんじゃねえだろうな」
「…ぇ……?」
 歯噛みするように苦々しく跡部に吐き捨てられて、神尾はくらくらする思考を凝らして、か細い問いかけを跡部に向ける。
 耐えかねたような勢いで跡部に貪られた舌が痺れる。
 跡部は相当凶悪な目をして神尾を睨みつけてきた。
 

 確かに、今日は約束をしていた訳ではなかった。
 確かに、神尾は駄目なら駄目でいいやと思って跡部の家に突然出向いてきた。
 そうして跡部は家にいたのだけれど、いきなりやってきた神尾を見て目を瞠り、些か複雑な顔をしてみせた。
 そういえば。
 確かに。


 跡部が急くようなキスの合間で毒づく言葉に、神尾は徐々に跡部の心中を知る。
 氷帝テニス部の監督である榊から、今日跡部の所に連絡がある事は最初から判っていた事だとか。
 そんな中で神尾が跡部の元を訪れた事だとか。
 でもそれならそれで、最初から都合が悪いとでも言って、帰せば良かっただろと神尾は手加減のないキスをされる仕返しに言ってやったのだが。
 その言葉で、跡部の機嫌は一層悪くなってしまった。
 腹いせのように首筋に軽い痛みと共に痕が残されるのを甘んじて受けながら、神尾は怒っている跡部の頭をそっと抱きこんだ。
 ちょっとでも。
 ちょっとだけでも。
 一緒にいたかったとか、思ってくれたんだろうかと。
 獰猛なキスを喉や首筋に埋められながら神尾は思う。
 神尾がおざなりと感じたキスも。
 踏みとどまれる跡部のボーダーラインだったのかと考えれば、随分と早い段階が跡部の限界地点なんだなと知って気恥ずかしくなる。
「な………行かなくて…い…のか?……」
「………くそったれ…!」
 何だかもう、そんな風に口汚く罵られているのに。
 その跡部の声音にうっかりと幸せになってしまった神尾は、獰猛な気配を放つ跡部の頬に、迂闊にもキスなんかしてしまって。
 激高した跡部に罵声と一緒に突き放されてしまった。
 そのまま跡部は走って出て行った。
 神尾を置いて。
 他人が聞いたら呪詛か悪態かというような、しかし神尾にとっては睦言でしかないような怒鳴り声も一緒に置いて。


 うっかり、迂闊に、それで神尾は幸せだったりするのである。
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