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How did you feel at your first kiss?
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 個別の練習メニューについてを語る乾の説明を、逐一の頷きと相槌を入れて生真面目に聞いていた河村は、最後まで聞き終えてから言った。
「うん。よく判ったよ。乾」
「そうか。それはよかった」
 ぱたん、と様々なグラフやイラストを書き綴ったデータ帳を閉じて、乾は河村の横にいる不二へと目線を向けた。
「不二は何かあるか?」
「ないよ。僕もよく判った」
 微笑む不二には頷きで返して、乾は、これでレギュラー全員終了、と呟いた。
「個人差があるにしても、みんながいるところで一斉に説明した方が、乾は楽なんじゃないのかい?」
 朴訥とした河村の物言いには気遣いが滲んでいる。
 心配無用、と乾は生真面目に首を左右に振った。
「義務的なトレーニングメニューの話じゃないからな。感性で理解して貰うには、個々のタイプ別によって説明した方が、却って効率がいい」
「……ということはつまり、僕とタカさんの感性が似通ってるから、今こうして一緒に乾の話を聞いたってこと?」
 不二の問いかけに乾はその通りと大きく頷いた。
 中指で眼鏡のブリッジを押し上げて、低い声は淀みなく言葉を紡ぐ。
「不二とタカさんは視覚派構成タイプだと俺は思ってるんだ」
「……なんだいそれ?」
「先の事を常に考えて、自分のイメージで構成する。こういうタイプには口頭重視よりも視覚で捉えてもらった方が疎通がしやすい」
「…………なんだか……ちょっとした心理学者みたいだな。乾」
 思わずといった風に河村が呟くと、不二が小さく笑い声をあげた。
「本当だね。タカさん」
「根拠はあるぞ」
「へえ…どんな?」
 二人がかりに興味深く乗り出され、乾の口調が滑らかになる。
「簡単な質問をされた際に、答えを考えている時の視線がどこにあるかで感性タイプが予想出来る。ちなみに何事かを考えている時のお前達の視線は、だいたい左上を見てる」
「そうなのか?」
「……僕も?」
「ほらな」
 乾の促しに、あ、と河村と不二の声が重なって、確かに彼らは同じ方向を見上げている。
 満足気に乾が唇の端を引き上げると、すごいなあと素直に河村が感嘆した。
「ひょっとして他の皆もそれぞれタイプで分かれてるのか?」
「右上を見る大石は視覚派想起タイプ。今までの記憶の中からイメージを思い浮かべるタイプだな。右下を見る菊丸は聴覚タイプで音に敏感なテンポ重視。左横を見る海堂は身体感覚派。これは触感を優先的に使って物事を認識するタイプだ」
 しかし全てが当てはまる訳じゃないけどな、と言って乾が流し見たのは、手塚と桃城と越前だ。
「手塚と越前は考え事をしていても視線が外れない。桃城は曲者。案外とこういう括りに当てはめられない」
 どことなく無念そうに見える乾の様子に、河村と不二は顔を見合わせ声にせずに笑った。
「何だ?」
「いや…つくづく乾のデータはすごいと思って。ね、タカさん」
「うん。本当にすごいよ、乾。乾のデータ収集って、もう趣味の域を完全に超えてるよな」
「うん? データは趣味というより俺の生活行動だからな」
「じゃあ…乾の趣味って何?」
 テニス以外でだよ、と不二が聞くのに。
 乾は顎の辺りに大きな手を宛がって即答した。
「俺の趣味は海堂」
 潔くも深みある美声でそんなことを断言されて。
 河村と不二の視線は静かに、そしてただちに、左上へと向けられた。
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