How did you feel at your first kiss?
大変な事に気づいてしまった。
「跡部! 悪いけど、俺、今日もう帰る!」
学校からの帰り道、直行で向かった跡部の部屋に入るなり、神尾はそう叫んだ。
大変な事に気づいてしまった。
くるりと振り返って、ごめんな!と叫びながら一気に走り出そうとしていた神尾は、猫の子よろしく首根っこをつかまれる。
正確にはコートの襟ぐりに跡部の指がひっかけられたのだ。
「………っ…」
瞬時喉を詰まらせた神尾だったが、すぐに跡部の指は襟刳りから離れて、代わりに跡部の両腕が神尾の胸の前で交差する。
背後から、神尾は身包み跡部に抱き締められていた。
「……跡、部?」
「何で帰る」
怒ったようでもないし、かといって機嫌がいい訳でもなさそうな、跡部の物言いは平坦で抑揚がない。
首の裏側に跡部の唇が触れそうで触れない気配があって、神尾は少しうろたえた。
「や、あの、さ……」
「抱かれんのが嫌か」
「え、あの、…え?」
何をそんないきなり言い出すんだと、神尾は真っ赤になっているだろう自分の顔に片手を宛て、もう片方の手では胸元にある跡部の腕をつかんだ。
先に氷帝からこの彼の自宅へと帰ってきていた跡部は、すでに制服から着替えていて、胸元の大きくあいたVネックのニットをさらりと一枚素肌に着ているだけのようだった。
正直なところ、神尾は自分を出迎えに出てきた跡部のこの出で立ちを最初に見た時、しみじみと、いやになるくらいいい男だよなと思ったのだ。
跡部には吸引力がある。
テニスをしていても、していなくても、黙っていても、笑っていても、怒っていても。
女は色めき立つし、浮かれるし。
男はそれを納得してしまう。
意地悪で優しくて、綺麗で怖くて甘ったるい。
跡部の部屋に来れば、キスと、その先が必ず。
そんな風になってまだ一月も経たなくて、抱かれるとか跡部に言われてしまうのは神尾には相当な羞恥心を煽られる出来事だ。
「するばっかが不満なら今日は我慢してやるから…帰るな」
「………跡部?」
別にそんなつもりで神尾は帰ると言った訳ではないのだ。
だから余計に言われた言葉が恥ずかしくてならなくなる。
跡部は普段は辛辣だったり揶揄うような言葉を平気で口にしてくるのに、神尾を抱く時は口数が減る。
あまり喋らなくなる中で、神尾の髪を撫でたり寄せるキスの仕草が濃密に優しい。
時折呻くような掠れ声でくれる言葉が、神尾の涙腺を簡単に壊した。
跡部に抱かれるのは好きなのだ。
言った事は勿論ないが、神尾はそう思っている。
してくれるのが嬉しい。
そんなことだって思っているのだ。
「跡部、あの…俺な…」
「逃げるな。バカ」
身じろいで背後を視線で流し見た神尾の間近に、不機嫌そうに眉根を寄せながらも微苦笑を浮かべた跡部の顔があった。
これまで見た事のない、こんな顔ばかり最近の跡部は神尾に晒してくるのだ。
好きに終わりがなくて怖い。
好きにさせるのがこんなにうまい男だったなんて神尾は知らなかった。
「神尾」
伏せた目元は余裕があるのに、自分を抱きこむ腕の力はやけに強い。
跡部が判らなくて、跡部が好きで、跡部がずるくて、跡部が愛しい。
頭の中、全部この男の事で埋まる、と神尾はとても吐露出来ないような事を考えた。
「だって……跡部」
「……なんだ?」
「今日は、13日の金曜日なんだぜ…?」
神尾は胸元にある跡部の腕を、ぎゅっとつかんで小さな声で言った。
気づいてしまった、大変な事。
「それが何だ」
「不吉な日だろ…」
何かもう恥ずかしくてどうしようもないけれど。
跡部があんなこと言ってまで自分を引きとめようとするから、自分はこんなこと言ってしまうんだと神尾は八つ当たりめいた口調で告げた。
「跡部と一緒にいて、なんかあったら困るだろ…っ」
「ああ?」
「だから! 13日の金曜日だから…! 喧嘩とかしたり、それが原因で別れるとかなったら俺困るから! 今日は帰る…!」
跡部と一緒にいられる筈が無い。
よりにもよってこんな日に。
「…………、…お前」
薄着の跡部の体温が、急に高くなった気がする。
それはひょっとしたら自分の体温かもしれないけれど。
神尾は、ふいに背後から、まさぐってくるような跡部の手のひらに顔を触れられ、斜め後ろに捩じり上げられるような窮屈な姿勢で深く唇を塞がれた。
「……、…っ……ン、……」
舌を痛いくらい。
いやらしくいじられて。
跡部の舌に。
くらくらする。
喉に零れる唾液の感触に神尾は肩を喘がせて、嵐にまかれるようにそのまま組み敷かれる。
抱かないんじゃなかったっけと考えたのは一瞬で。
抱かれたくなかった訳ではないんだったと神尾はすぐに思いなおす。
「跡部……」
「……13日の金曜日が終わるまで、お前ちょっと黙ってろ」
不吉というならそれはお前の煽りだと。
跡部の甘苦しく詰るような言葉と、卑猥な眼差しと、歪めた笑みと。
そうして口数の少なくなる跡部、熱を帯びた優しい手。
いつもと同じ事と、いつもとは違う事。
全部が跡部から降ってくる。
神尾は両腕を高く差し伸べ、降り頻る全てを抱き締めた。
「跡部! 悪いけど、俺、今日もう帰る!」
学校からの帰り道、直行で向かった跡部の部屋に入るなり、神尾はそう叫んだ。
大変な事に気づいてしまった。
くるりと振り返って、ごめんな!と叫びながら一気に走り出そうとしていた神尾は、猫の子よろしく首根っこをつかまれる。
正確にはコートの襟ぐりに跡部の指がひっかけられたのだ。
「………っ…」
瞬時喉を詰まらせた神尾だったが、すぐに跡部の指は襟刳りから離れて、代わりに跡部の両腕が神尾の胸の前で交差する。
背後から、神尾は身包み跡部に抱き締められていた。
「……跡、部?」
「何で帰る」
怒ったようでもないし、かといって機嫌がいい訳でもなさそうな、跡部の物言いは平坦で抑揚がない。
首の裏側に跡部の唇が触れそうで触れない気配があって、神尾は少しうろたえた。
「や、あの、さ……」
「抱かれんのが嫌か」
「え、あの、…え?」
何をそんないきなり言い出すんだと、神尾は真っ赤になっているだろう自分の顔に片手を宛て、もう片方の手では胸元にある跡部の腕をつかんだ。
先に氷帝からこの彼の自宅へと帰ってきていた跡部は、すでに制服から着替えていて、胸元の大きくあいたVネックのニットをさらりと一枚素肌に着ているだけのようだった。
正直なところ、神尾は自分を出迎えに出てきた跡部のこの出で立ちを最初に見た時、しみじみと、いやになるくらいいい男だよなと思ったのだ。
跡部には吸引力がある。
テニスをしていても、していなくても、黙っていても、笑っていても、怒っていても。
女は色めき立つし、浮かれるし。
男はそれを納得してしまう。
意地悪で優しくて、綺麗で怖くて甘ったるい。
跡部の部屋に来れば、キスと、その先が必ず。
そんな風になってまだ一月も経たなくて、抱かれるとか跡部に言われてしまうのは神尾には相当な羞恥心を煽られる出来事だ。
「するばっかが不満なら今日は我慢してやるから…帰るな」
「………跡部?」
別にそんなつもりで神尾は帰ると言った訳ではないのだ。
だから余計に言われた言葉が恥ずかしくてならなくなる。
跡部は普段は辛辣だったり揶揄うような言葉を平気で口にしてくるのに、神尾を抱く時は口数が減る。
あまり喋らなくなる中で、神尾の髪を撫でたり寄せるキスの仕草が濃密に優しい。
時折呻くような掠れ声でくれる言葉が、神尾の涙腺を簡単に壊した。
跡部に抱かれるのは好きなのだ。
言った事は勿論ないが、神尾はそう思っている。
してくれるのが嬉しい。
そんなことだって思っているのだ。
「跡部、あの…俺な…」
「逃げるな。バカ」
身じろいで背後を視線で流し見た神尾の間近に、不機嫌そうに眉根を寄せながらも微苦笑を浮かべた跡部の顔があった。
これまで見た事のない、こんな顔ばかり最近の跡部は神尾に晒してくるのだ。
好きに終わりがなくて怖い。
好きにさせるのがこんなにうまい男だったなんて神尾は知らなかった。
「神尾」
伏せた目元は余裕があるのに、自分を抱きこむ腕の力はやけに強い。
跡部が判らなくて、跡部が好きで、跡部がずるくて、跡部が愛しい。
頭の中、全部この男の事で埋まる、と神尾はとても吐露出来ないような事を考えた。
「だって……跡部」
「……なんだ?」
「今日は、13日の金曜日なんだぜ…?」
神尾は胸元にある跡部の腕を、ぎゅっとつかんで小さな声で言った。
気づいてしまった、大変な事。
「それが何だ」
「不吉な日だろ…」
何かもう恥ずかしくてどうしようもないけれど。
跡部があんなこと言ってまで自分を引きとめようとするから、自分はこんなこと言ってしまうんだと神尾は八つ当たりめいた口調で告げた。
「跡部と一緒にいて、なんかあったら困るだろ…っ」
「ああ?」
「だから! 13日の金曜日だから…! 喧嘩とかしたり、それが原因で別れるとかなったら俺困るから! 今日は帰る…!」
跡部と一緒にいられる筈が無い。
よりにもよってこんな日に。
「…………、…お前」
薄着の跡部の体温が、急に高くなった気がする。
それはひょっとしたら自分の体温かもしれないけれど。
神尾は、ふいに背後から、まさぐってくるような跡部の手のひらに顔を触れられ、斜め後ろに捩じり上げられるような窮屈な姿勢で深く唇を塞がれた。
「……、…っ……ン、……」
舌を痛いくらい。
いやらしくいじられて。
跡部の舌に。
くらくらする。
喉に零れる唾液の感触に神尾は肩を喘がせて、嵐にまかれるようにそのまま組み敷かれる。
抱かないんじゃなかったっけと考えたのは一瞬で。
抱かれたくなかった訳ではないんだったと神尾はすぐに思いなおす。
「跡部……」
「……13日の金曜日が終わるまで、お前ちょっと黙ってろ」
不吉というならそれはお前の煽りだと。
跡部の甘苦しく詰るような言葉と、卑猥な眼差しと、歪めた笑みと。
そうして口数の少なくなる跡部、熱を帯びた優しい手。
いつもと同じ事と、いつもとは違う事。
全部が跡部から降ってくる。
神尾は両腕を高く差し伸べ、降り頻る全てを抱き締めた。
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