How did you feel at your first kiss?
案の定、鳳は宍戸を見つけるなり言った。
「宍戸さん。平気なんですか?」
「何が?」
「……何がって」
受験勉強ですよと気遣いの滲む真摯な目に顔を覗きこまれるようにされて。
屈んできたその角度に、また鳳の背が伸びている事に宍戸は気づかされる。
待ち合わせた公園への到着はほぼ同時だった。
引き合うようにして足早に近づいて行って、久しぶりに面と向かって交わした言葉は当たりさわりなく、しかし宛がわせた互いへの視線は片時も外せない。
「………………」
毎日当然のように顔を合わせていた頃に比べれば、会えないでいる時間は格段に増えたのだけれど。
優しく丁寧な鳳の口調は何も変わっていなかった。
ここ最近の鳳は、受験の差し迫った宍戸に、短い電話やメールで精一杯の配慮をしてよこす。
白く煙る吐息を零す鳳の口元を見据えながら、宍戸は後もう少しで新しい年の来る冬空の下、同じように白濁した外気に溜息を紛れこませる。
「俺から誘わなきゃ、気使って、お前絶対声なんかかけてこねえだろ」
一年の最後の日だからだとか、一年の最初の日だからだとか、そういう事ではなくて。
ただ会いたい。
宍戸はそれだけだった。
「俺のため?」
そのくせ、聞いた鳳の方が余程感慨深く、ひどく幸せそうな笑みを浮かべてくるので。
「いや。俺のため」
鳳の問いかけに、宍戸がそうして否定の言葉を放っても。
「嬉しいです」
「俺ほどじゃねえだろ…」
鳳の笑みは甘くなっていくばかりで。
宍戸もつられるようにして笑い、手を伸ばす。
鳳の頬に軽く指先で触れた。
「………………」
冷たい頬。
肉の削げた精悍なライン。
会えない時間を目にしているような面持ちで、宍戸はじっと鳳を見上げていた。
直接手の届く距離。
目を見て話せる。
例え短い時間でも。
こうして直接会う方が、やはりどれだけいいかと宍戸は思った。
「……長太郎?」
鳳が、宍戸を強くかたく抱き締めてきた。
いっそ唐突なくらいの勢いで。
腕の力で。
「………………」
随分と簡単に自分が鳳の胸元におさまってしまう事を知らされて、宍戸は些か面食らった。
こんなだっただろうか。
自分は。
そして彼は。
「宍戸さん」
「………………」
深い声。
長い腕に巻き込まれるようにして、かきいだかれた背中。
強い密着。
冷たい身体同士なのに、冷えた服の感触にも温かさはないのに、わけもなく安心した。
「俺に宍戸さんをありがとうございます」
「………………」
一年が終わる間際から、一年が始まるその後にまで、跨って。
鳳は宍戸の耳元で、そう囁いた。
「………なんか変だけどな……まあ、何となく意味は判る」
俺もそうだからと、宍戸は両手を鳳の背に回す。
「好きだぜ。長太郎」
「……宍戸さん…」
「好きだ」
抱き締めあう事で、充分満ちてくるものがある。
違う人間だからこそ、噛み合うように重なる部分がある。
埋められる言葉がある。
触れてやれる部分がある。
抱き締めあったまま、実感して、今年もまた。
「長太郎」
「はい?」
「お前の欲しいだけ俺をやるから…」
「はい。宍戸さんの欲しいだけ俺をあげます」
普段であれば、そっと微笑んで。
貰って下さいと物柔らかに言うのが常である年下の男が、今は笑ってそんな物言いをするから。
宍戸は鳳に抱き締められたまま、いっそ嬉しくて、ひどく安心した。
「だから宍戸さんも、俺にまた、もっと、宍戸さんを下さいね」
「だからやるって最初に言ってんだろ」
でも結局は、やっぱりそんな風に。
お願い、されるのだけれど。
それはそれで宍戸を和ませる。
いつもとは違うこと。
いつもと同じこと。
今年もそれらを、織り成していけばいいだけの話だ。
「宍戸さん。平気なんですか?」
「何が?」
「……何がって」
受験勉強ですよと気遣いの滲む真摯な目に顔を覗きこまれるようにされて。
屈んできたその角度に、また鳳の背が伸びている事に宍戸は気づかされる。
待ち合わせた公園への到着はほぼ同時だった。
引き合うようにして足早に近づいて行って、久しぶりに面と向かって交わした言葉は当たりさわりなく、しかし宛がわせた互いへの視線は片時も外せない。
「………………」
毎日当然のように顔を合わせていた頃に比べれば、会えないでいる時間は格段に増えたのだけれど。
優しく丁寧な鳳の口調は何も変わっていなかった。
ここ最近の鳳は、受験の差し迫った宍戸に、短い電話やメールで精一杯の配慮をしてよこす。
白く煙る吐息を零す鳳の口元を見据えながら、宍戸は後もう少しで新しい年の来る冬空の下、同じように白濁した外気に溜息を紛れこませる。
「俺から誘わなきゃ、気使って、お前絶対声なんかかけてこねえだろ」
一年の最後の日だからだとか、一年の最初の日だからだとか、そういう事ではなくて。
ただ会いたい。
宍戸はそれだけだった。
「俺のため?」
そのくせ、聞いた鳳の方が余程感慨深く、ひどく幸せそうな笑みを浮かべてくるので。
「いや。俺のため」
鳳の問いかけに、宍戸がそうして否定の言葉を放っても。
「嬉しいです」
「俺ほどじゃねえだろ…」
鳳の笑みは甘くなっていくばかりで。
宍戸もつられるようにして笑い、手を伸ばす。
鳳の頬に軽く指先で触れた。
「………………」
冷たい頬。
肉の削げた精悍なライン。
会えない時間を目にしているような面持ちで、宍戸はじっと鳳を見上げていた。
直接手の届く距離。
目を見て話せる。
例え短い時間でも。
こうして直接会う方が、やはりどれだけいいかと宍戸は思った。
「……長太郎?」
鳳が、宍戸を強くかたく抱き締めてきた。
いっそ唐突なくらいの勢いで。
腕の力で。
「………………」
随分と簡単に自分が鳳の胸元におさまってしまう事を知らされて、宍戸は些か面食らった。
こんなだっただろうか。
自分は。
そして彼は。
「宍戸さん」
「………………」
深い声。
長い腕に巻き込まれるようにして、かきいだかれた背中。
強い密着。
冷たい身体同士なのに、冷えた服の感触にも温かさはないのに、わけもなく安心した。
「俺に宍戸さんをありがとうございます」
「………………」
一年が終わる間際から、一年が始まるその後にまで、跨って。
鳳は宍戸の耳元で、そう囁いた。
「………なんか変だけどな……まあ、何となく意味は判る」
俺もそうだからと、宍戸は両手を鳳の背に回す。
「好きだぜ。長太郎」
「……宍戸さん…」
「好きだ」
抱き締めあう事で、充分満ちてくるものがある。
違う人間だからこそ、噛み合うように重なる部分がある。
埋められる言葉がある。
触れてやれる部分がある。
抱き締めあったまま、実感して、今年もまた。
「長太郎」
「はい?」
「お前の欲しいだけ俺をやるから…」
「はい。宍戸さんの欲しいだけ俺をあげます」
普段であれば、そっと微笑んで。
貰って下さいと物柔らかに言うのが常である年下の男が、今は笑ってそんな物言いをするから。
宍戸は鳳に抱き締められたまま、いっそ嬉しくて、ひどく安心した。
「だから宍戸さんも、俺にまた、もっと、宍戸さんを下さいね」
「だからやるって最初に言ってんだろ」
でも結局は、やっぱりそんな風に。
お願い、されるのだけれど。
それはそれで宍戸を和ませる。
いつもとは違うこと。
いつもと同じこと。
今年もそれらを、織り成していけばいいだけの話だ。
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