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How did you feel at your first kiss?
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 窓が窓の形に繰り返し繰り返し光る。
 外からの一瞬ごとの強い閃光に、宍戸が目線を向けると、ゆるく絡みあっていた舌を相手からきつく吸われた。
 小さく喉を詰まらせて、宍戸はうっすらと眉根を寄せる。
 キスはすぐにやわらかくほどけた。
「お前なぁ……」
「雷なんかに気をとられるからですよ」
 吐息が混ざり合うような至近距離。
 宍戸が咎めるように言葉を漏らすと、鳳は端正な顔に判りやすい不満をたたえて負けじと返してくる。
 そういうあからさまな表情は珍しい。
 宍戸が軽く首を傾けて、じっと鳳を見つめると、鳳は複雑そうに溜息をつく。
 宍戸の両頬は鳳の掌の中だ。
「……そんな顔しないで下さいよ」
「顔なんかそうそう変わるかよ」
 何言ってんのお前と宍戸は呆れながら、再度窓の外が光り、あまり間を置かずに轟くような音が聞こえてくるのに意識を向ける。
「すげえな、雷」
「またそうやって……」
 鳳の肩越しに先へと向ける宍戸の視線が鳳は嫌らしかった。
 腰を抱き込まれるようにされて、身体が反転させられ、宍戸は窓辺に背中を押しあてられた。
 鳳が長身を屈めるようにして宍戸の唇をふさいでくる。
「………、…ン…」
 唇でおされて顎が僅かに上がる。
 大きな掌が宍戸の片頬からすべってきて、仰のいた首を包んでくる。
 かたい掌だったが、さらさらと温かくもある。
 宍戸の首など片手で軽く包み込むようにしながら、キスが深まる間も、雷の鳴る音が響き、窓の外の空は光り続けているのだろう。
 直視出来なくとも目の開いてしまう宍戸の双瞳に映る鳳は、しかし雷などほんの一時も見ることはしなかった。
「………………」
 濃く長い睫が引き上げられて、あまいやさしい眼差しをする鳳が見据えているのは宍戸の事だけだ。
 撫でられるように見つめられると宍戸の足元は覚束なくなっていく。
 キスされて立っていられなくなるなんて真似は心底避けたい宍戸だったが、鳳はそういうキスを繰り返すのだ。
 宍戸の背後で窓ガラスに打ち付けるように降る雨音が激しくなる。
 暴れるような雨音よりも、胸の中から打ってくる心音のほうがよほど酷い。
 ますます足元はぐらついて、咄嗟に縋ろうにも身体の両脇に下ろした宍戸の両腕はうまく持ち上がらなかった。
 座り込むよりはましかと思って、宍戸は両手を鳳の腰の裏に絡める。
 その所作が鳳の何かを煽ったらしく、キスがもっと深くなる。
 身体が密着して、宍戸もなんとなく自身の手の在り方が危ないかなとは思ったが後の祭りだ。
 鳳の腰を自ら抱き寄せているのか、そこに縋っているのか、宍戸が判らなくなるほどに執拗に鳳はキスをしかけた。
 息苦しさより先に、ぐらりとめまいのようなものを宍戸が感じた時、ようやく濡れたキスは互いの唇に口液を細く撓ませて解けた。
 熱っぽい溜息をついたのはお互いにだ。
「長太郎……」
 痺れるような唇で宍戸が鳳の名前を呼ぶと、鳳が額と額とを合わせるように顔を近づけてきた。
 色素の薄いやわらかな光彩を放つ瞳を間近に見ながら宍戸は言った。
「…飢えさせてねえだろ」
「……はい?」
「お前に、そんな飢えてるみたいな目、させるようなこと俺してるかよ?」
 心外だと憮然と睨みつけた宍戸を、鳳は面食らったような顔で見下ろしていた。
 宍戸は鳳の腰をゆるく抱きよせて、合わせた額の感触を感じ入るように一瞬目を閉ざす。
「全部、やってるだろ」
 何が足りないんだと宍戸が囁くと、鳳はなんだかほっとしたような吐息を零した。
「長太郎」
「………判ってくれてるんだなあと思って」
「判ってなんかねえよ。何が足りないで、そういう目で俺を見るんだ、お前は」
 鳳は微笑んでいた。
 宍戸は怒っているのにだ。
 決して喧嘩になりようもない言い合いだけれど。
「宍戸さんは呆れるだろうけど、ずっと宍戸さんと会いたかったから、会えるとこうなっちゃうんですよ。俺」
「あのな……昨日も普通に会っただろうが」
「半日も時間があけば、俺にとったら、それはずっとです」
 額と額を重ねて、囁き合うように言葉を交わす。
 鳳の両手は宍戸の頭を支えるようにしていて、会話の合間に時折唇を啄ばまれる。
 小さく浅いキスなのに、それがまた鳳の飢えを宍戸に気付かせる。
「雷…気になるの?」
「………拗ねた言い方すんな。アホ」
 でけえ図体して、と宍戸は呆れながらも、宍戸の方からも軽いキスを送り返す。
 激しい閃光、雷鳴、もちろん気になるけれども。
 鳳と比べる対象ではないだろう。
 それくらい判っていそうなものだと宍戸は思うけれど、鳳は雷相手に宍戸の意識が向くことに対して張り合ってくる。
 しょうがねえなと思いながらも宍戸は鳳へとキスを繰り返す。
 いつの間にかそれらのキスは宍戸から鳳に与えるようなものになっていて、全て丁寧に受けている鳳が宍戸を抱き寄せたまま低く囁く。
「宍戸さん」
「…ん、?」
「宍戸さん……宍戸さん…」
 濃密なキスより余程腰砕けになりそうな甘い掠れ声で名前を繰り返される。
 宍戸は返事も出来なくなる。
 キスの合間の鳳の声なのか、声の合間のキスなのか、判らなくなる。
「足りてないんじゃないんです…」
「……、……ぇ……?」
「宍戸さんがくれるもので、俺の中の足りていない部分はきちんと足りるようになって」
 首筋に唇を埋められる。
 かすかに癖のある鳳の髪が喉元に触れ、耐えかねたように肌を吸われる。
 痕がつけられていく過程が随分と長い時間のように感じた。
「………っ…、は…、……」
 肌の上から鳳の唇が離れる。
 そこに何かいけないものを植え付けられでもしたかのように、宍戸は熱っぽく吐息した。
 無意識に、痕をつけられたであろう右の首筋に左手の指先を宛がって鳳を見上げると、やみくもな力で抱きすくめられる。
「長太郎…?……」
「飢えるって、もっとって事ですよ……」
「……なん…、……っぁ…」
 抱きしめ覆い被さる様にしてきた鳳に、宍戸は首の裏側にも口づけられた。
 背骨に繋がる骨の上にもまた痕が残るほどのキスをされる。
「宍戸さんが足りてない場所が最初っからあるんじゃなくて。全部足りてる上で、俺はまだ欲しくなる」
「………長太郎…」
「宍戸さんが俺にくれているものは、全部貰ってます」
 でももっと欲しい。
 鳳にきつく抱き竦められたまま告げられた言葉は、雷の比ではなく宍戸の神経を貫いて焼いた。
 そちらかといえば遠慮がちなほど思慮深い鳳が、すべてかなぐり捨てるようにして欲してくるから。
 宍戸は、ぜんぶ、ぜんぶ、鳳の好きにさせてやりたくなるのだ。
「……早く……どうにでもしてくれ」
「………宍戸さん…?」
「これ以上お前の声聞いてるとどうにかなりそうだ」
 泣き言というような全面降伏ではない、
 唆すような余裕もない。
 ありのままを告げた宍戸の言葉は、しかし鳳の事もどうにかしてしまったようだ。



 雷は、まだ激しい。
 雨も、強く降った。
 恋はそれを上回る。
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