How did you feel at your first kiss?
ほんの少しも不自然さを、例えば後ろ暗いような思いだとか、違和感だとかを、観月にまるで感じさせずに赤澤は観月の身体に触れる。
それはいつも魔法じみた赤澤の手腕だ。
人と接触を持つことは観月にとって実はひどく難しい事だった。
イニシアチブが自分にあるのならば幾らでも手段と方法が選べるのだが、自分では躱せない相手からの接触には身動きがとれなくなる。
人づきあいに不慣れなのだ。
そう見せない為に虚勢を張っている自覚もある。
それなのに何故か赤澤相手にはそれを感じない。
どこか戸惑うことはあっても、赤澤に見られることや言われることや触れられることを、嫌悪した事は一度たりともなかった。
自分を抱く男を観月はいつも不思議に思うけれど。
それが嫌だった事はない。
抱きしめられて、抱きつくされて。
肌を直接辿られ、体内まで深々と暴かれて。
そんなことをされても、苦しいのは羞恥心の酷さだけで、あとは何も苦痛でなかった。
もちろん事後しばらくは赤澤と面と向かえない観月だったが、ひとしきり後始末と身繕いをされ、丁寧に扱われた後寝かされたベッドで髪など撫でられたりすればもう、今更張るような意地もなかった。
毎回、本当に思い返せばとんでもないようなことをされているのだが、観月の混乱は悉く赤澤に粉砕されて、すべて終わった後はただぐったりとなるだけだ。
痛みではなく、余韻でもなく、例えようのない色濃い甘い赤澤の存在感は、観月の身体の内部や肌の表面にちかちかと瞬く欠片のように存在している。
強かったり切なかったり濃かったり優しかったり。
そのせいで観月はこんな風に、いつまでもぐったりと脱力する羽目になるのだ、きっと。
「観月」
低く落ち着いた声は柔らかくて、うっかりうっとりしかける自分に観月が気づくのも、こんな時にはよくある事だった。
観月を抱いた後の赤澤の声は、いつもよりも更に深くて優しい。
呼ばれて、観月は数回震わせるようにして瞬かせた睫毛をゆっくりと引き上げて目をあける。
寮のベッドはさして高さがない。
床に片膝を立てて座り込んだ赤澤と、ベッドに横たわる観月の眼差しとは、そう大差ない。
「………………」
目と目が合うと、赤澤は顔を近づけてきて、一瞬観月の唇を掠ってまた離れていく。
軽い接触だ。
観月の目前で、赤澤は。
笑みの気配に目元や唇が緩んで尚、顔つきは男っぽいまま再度観月の唇を静かに塞ぐ。
最中は気づけないような唇のやわらかさと、観月は幾度となく瞬くのにいつ見つめても観月を見つめている赤澤の目と。
観月は繰り返される浅いキスの合間に掠れ声を零す。
「……何で、毎回、そう…」
「………うん?」
「嬉しくて、…たまらない、みたいな顔…」
してるんですか、と。
呆れと羞恥がないまぜになったまま観月が口にすると、赤澤はその笑みを衒いなく深めてきた。
言葉よりよほど雄弁な表情を赤澤は持っている。。
「なあ、観月」
「…なんですか」
額と額が触れ合う。
またキスに唇が掠られる。
「お前体温低いだろ?」
「……あなたが高すぎるんですよ」
いきなりの赤澤からの問いかけに、力なく返した観月は、伸びてきた赤澤の手に前髪をいじられながら顔を覗きこまれる。
髪の毛一本一本にまで神経が通っているようだと、観月はありもしない事を思った。
赤澤が触れる。
そこに熱がともる。
抱かれるたびに身体も脳裏も焼き尽くされると切に思う。
それほどまでに赤澤の熱は凄まじかった。
そんな赤澤にしてみれば、観月の体温や放熱などぬるいくらいだろうとも思う。
そんな事を考える観月に、赤澤は曲げた指の関節で観月の頬を撫でるようにしながら言う。
「お前さ、いつでも体温低くて、肌なんざ、四六時中ひんやりしてんのに」
「………………」
「セックスの後は、足先まで熱くなってるからさ」
そういうのが判って、嬉しいんだよ、と赤澤は続けて囁いた。
なっ、と咄嗟に言葉を詰まらせた観月に構わず、赤澤はまた軽くキスを送ってきた。
「……お前も、よくなってんだなあとか思って、喜んでるわけ」
そういうのが嬉しいからしまりのない顔になるわけ、とはっきりいって、観月は絶対言わないけれど、色っぽいだけの顔で言うのだ。
「赤澤、…貴方ね…ぇ…!」
赤くなる自分をごまかすように観月が叫びかければ、ふいに観月は手を握られる。
赤澤にしっかりと握りこまれた指先。
熱い手。
ベッドに横たわったまま、いったい何なのだと観月は身構えた。
ぎゅっと赤澤の手に力が入り、赤澤はひそめた低い声をあまく煮詰めて囁いてくる。
うっかり観月が俯いてしまったせいなのか。
何度も繰り返し告げてくる。
「いつもは冷たい指の先まで、高い熱詰め込んで、お前がよくなってんのが嬉しいんだよ」
「……、…っ……」
「首元とかも赤くてな…」
身体中震えているのも、身体中濡れているのも、全部いい、と赤澤は随分な事を言ってきた。
観月はどんな顔をしていればいいのか判らなくなって絶句した。
「終わった後のお前の身体、やばいんだって、ほんと」
すげえやられんの、見とれてんの、と臆面もなく言葉は紡がれ、握りこまれた指ごと観月の右手を赤澤の口元へと引っ張られる。
手に口づけられる。
怯えではなかったけれど、観月はびくりと身体を竦ませた。
「俺がどんな顔してんのか、そんなわけでだいたいの予想はつくけどな」
なにかいけないものがとろけているような声で赤澤は観月の指先に口づけながら話し続ける。
観月はどんどん喋れなくなる。
何も言えなくなる。
でも自分たちは今確かに二人きりで会話をしているのだ。
口づけを受けていた観月の手は運ばれて、赤澤の片頬を包むよう導かれる。
「お前に惚れ直して」
「………………」
「お前にまた…はまっていく顔って訳だ」
どうしようもなく恥ずかしい事を言っているのに、ほんのすこしもだらしなくならず、精悍なままいやらしさの濃密さだけ増してくるような相手に、いったいどういう顔で対峙すればいいのか観月にはまるで判らなかった。
横たわっているのにくらくらと眩暈がする。
激しく、色濃く、どうしたらいいのだ。
手に触れている赤澤の頬。
感触。
「綺麗な顔、するよな…観月は」
しているのではなく、する、と赤澤は言った。
熱の籠った嘆息と共に囁かれ、首を反らし、伸ばし、近づいてきた赤澤の唇が観月の唇に重ねられる。
手と手は握り合って。
でも二人、ベッドの上と、床の上。
行為は済んでいて、身体を繋げているわけでもないのに、今日一番の甘ったるさで向き合っている。
これは、これこそ、いつ終わるともしれない。
もし今の自分の顔が、赤澤の言うように綺麗なものだったとしたら。
観月は震えるような身体を持て余して唇をひらく。
すぐさま絡んできた赤澤の舌は、入っていたのか与えられたのか。
どちらにしろ、赤澤がいて、赤澤を見つめるから、この顔なのだ。
この顔をするのだ、自分は。
「……貴方の、好みですか」
「好みが服着て歩いてるようなもんだ」
「服、かれこれ数時間着てませんけど」
観月自身は自嘲してしまうような憎まれ口なのに。
赤澤ときたら蕩けそうな顔で笑いだすのだ。
「観月」
「……なんですか」
「もう一回」
「無理です……、…って、…ちょ…っと、無理!……無理だって言って、…っ」
じゃれつくようにのしかかってきた赤澤の手はきわどいラインを辿ってくるけれど。
結局はその広い胸元であやすように抱きしめられる結末を観月は確信していた。
それはいつも魔法じみた赤澤の手腕だ。
人と接触を持つことは観月にとって実はひどく難しい事だった。
イニシアチブが自分にあるのならば幾らでも手段と方法が選べるのだが、自分では躱せない相手からの接触には身動きがとれなくなる。
人づきあいに不慣れなのだ。
そう見せない為に虚勢を張っている自覚もある。
それなのに何故か赤澤相手にはそれを感じない。
どこか戸惑うことはあっても、赤澤に見られることや言われることや触れられることを、嫌悪した事は一度たりともなかった。
自分を抱く男を観月はいつも不思議に思うけれど。
それが嫌だった事はない。
抱きしめられて、抱きつくされて。
肌を直接辿られ、体内まで深々と暴かれて。
そんなことをされても、苦しいのは羞恥心の酷さだけで、あとは何も苦痛でなかった。
もちろん事後しばらくは赤澤と面と向かえない観月だったが、ひとしきり後始末と身繕いをされ、丁寧に扱われた後寝かされたベッドで髪など撫でられたりすればもう、今更張るような意地もなかった。
毎回、本当に思い返せばとんでもないようなことをされているのだが、観月の混乱は悉く赤澤に粉砕されて、すべて終わった後はただぐったりとなるだけだ。
痛みではなく、余韻でもなく、例えようのない色濃い甘い赤澤の存在感は、観月の身体の内部や肌の表面にちかちかと瞬く欠片のように存在している。
強かったり切なかったり濃かったり優しかったり。
そのせいで観月はこんな風に、いつまでもぐったりと脱力する羽目になるのだ、きっと。
「観月」
低く落ち着いた声は柔らかくて、うっかりうっとりしかける自分に観月が気づくのも、こんな時にはよくある事だった。
観月を抱いた後の赤澤の声は、いつもよりも更に深くて優しい。
呼ばれて、観月は数回震わせるようにして瞬かせた睫毛をゆっくりと引き上げて目をあける。
寮のベッドはさして高さがない。
床に片膝を立てて座り込んだ赤澤と、ベッドに横たわる観月の眼差しとは、そう大差ない。
「………………」
目と目が合うと、赤澤は顔を近づけてきて、一瞬観月の唇を掠ってまた離れていく。
軽い接触だ。
観月の目前で、赤澤は。
笑みの気配に目元や唇が緩んで尚、顔つきは男っぽいまま再度観月の唇を静かに塞ぐ。
最中は気づけないような唇のやわらかさと、観月は幾度となく瞬くのにいつ見つめても観月を見つめている赤澤の目と。
観月は繰り返される浅いキスの合間に掠れ声を零す。
「……何で、毎回、そう…」
「………うん?」
「嬉しくて、…たまらない、みたいな顔…」
してるんですか、と。
呆れと羞恥がないまぜになったまま観月が口にすると、赤澤はその笑みを衒いなく深めてきた。
言葉よりよほど雄弁な表情を赤澤は持っている。。
「なあ、観月」
「…なんですか」
額と額が触れ合う。
またキスに唇が掠られる。
「お前体温低いだろ?」
「……あなたが高すぎるんですよ」
いきなりの赤澤からの問いかけに、力なく返した観月は、伸びてきた赤澤の手に前髪をいじられながら顔を覗きこまれる。
髪の毛一本一本にまで神経が通っているようだと、観月はありもしない事を思った。
赤澤が触れる。
そこに熱がともる。
抱かれるたびに身体も脳裏も焼き尽くされると切に思う。
それほどまでに赤澤の熱は凄まじかった。
そんな赤澤にしてみれば、観月の体温や放熱などぬるいくらいだろうとも思う。
そんな事を考える観月に、赤澤は曲げた指の関節で観月の頬を撫でるようにしながら言う。
「お前さ、いつでも体温低くて、肌なんざ、四六時中ひんやりしてんのに」
「………………」
「セックスの後は、足先まで熱くなってるからさ」
そういうのが判って、嬉しいんだよ、と赤澤は続けて囁いた。
なっ、と咄嗟に言葉を詰まらせた観月に構わず、赤澤はまた軽くキスを送ってきた。
「……お前も、よくなってんだなあとか思って、喜んでるわけ」
そういうのが嬉しいからしまりのない顔になるわけ、とはっきりいって、観月は絶対言わないけれど、色っぽいだけの顔で言うのだ。
「赤澤、…貴方ね…ぇ…!」
赤くなる自分をごまかすように観月が叫びかければ、ふいに観月は手を握られる。
赤澤にしっかりと握りこまれた指先。
熱い手。
ベッドに横たわったまま、いったい何なのだと観月は身構えた。
ぎゅっと赤澤の手に力が入り、赤澤はひそめた低い声をあまく煮詰めて囁いてくる。
うっかり観月が俯いてしまったせいなのか。
何度も繰り返し告げてくる。
「いつもは冷たい指の先まで、高い熱詰め込んで、お前がよくなってんのが嬉しいんだよ」
「……、…っ……」
「首元とかも赤くてな…」
身体中震えているのも、身体中濡れているのも、全部いい、と赤澤は随分な事を言ってきた。
観月はどんな顔をしていればいいのか判らなくなって絶句した。
「終わった後のお前の身体、やばいんだって、ほんと」
すげえやられんの、見とれてんの、と臆面もなく言葉は紡がれ、握りこまれた指ごと観月の右手を赤澤の口元へと引っ張られる。
手に口づけられる。
怯えではなかったけれど、観月はびくりと身体を竦ませた。
「俺がどんな顔してんのか、そんなわけでだいたいの予想はつくけどな」
なにかいけないものがとろけているような声で赤澤は観月の指先に口づけながら話し続ける。
観月はどんどん喋れなくなる。
何も言えなくなる。
でも自分たちは今確かに二人きりで会話をしているのだ。
口づけを受けていた観月の手は運ばれて、赤澤の片頬を包むよう導かれる。
「お前に惚れ直して」
「………………」
「お前にまた…はまっていく顔って訳だ」
どうしようもなく恥ずかしい事を言っているのに、ほんのすこしもだらしなくならず、精悍なままいやらしさの濃密さだけ増してくるような相手に、いったいどういう顔で対峙すればいいのか観月にはまるで判らなかった。
横たわっているのにくらくらと眩暈がする。
激しく、色濃く、どうしたらいいのだ。
手に触れている赤澤の頬。
感触。
「綺麗な顔、するよな…観月は」
しているのではなく、する、と赤澤は言った。
熱の籠った嘆息と共に囁かれ、首を反らし、伸ばし、近づいてきた赤澤の唇が観月の唇に重ねられる。
手と手は握り合って。
でも二人、ベッドの上と、床の上。
行為は済んでいて、身体を繋げているわけでもないのに、今日一番の甘ったるさで向き合っている。
これは、これこそ、いつ終わるともしれない。
もし今の自分の顔が、赤澤の言うように綺麗なものだったとしたら。
観月は震えるような身体を持て余して唇をひらく。
すぐさま絡んできた赤澤の舌は、入っていたのか与えられたのか。
どちらにしろ、赤澤がいて、赤澤を見つめるから、この顔なのだ。
この顔をするのだ、自分は。
「……貴方の、好みですか」
「好みが服着て歩いてるようなもんだ」
「服、かれこれ数時間着てませんけど」
観月自身は自嘲してしまうような憎まれ口なのに。
赤澤ときたら蕩けそうな顔で笑いだすのだ。
「観月」
「……なんですか」
「もう一回」
「無理です……、…って、…ちょ…っと、無理!……無理だって言って、…っ」
じゃれつくようにのしかかってきた赤澤の手はきわどいラインを辿ってくるけれど。
結局はその広い胸元であやすように抱きしめられる結末を観月は確信していた。
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