How did you feel at your first kiss?
跡部の家に来るようになって、神尾には幾つか気づいた事がある。
たとえば。
「なあ、跡部。跡部の家ってさ、普通に家中に花とかあるのな」
それも毎回違う種類の生花だ。
庭にも多種多様に咲いているし、温室の中もかなりすごいことになっている事は、神尾も知っている。
その上、家の中も、いつ来ても華美な花々で色とりどりの状態だ。
「家の中に花があるのは当然だろうが」
神尾を連れて家の中を先を歩く跡部は前を向いたままそう言った。
その口調は、食事にデザートがつくのは当然だという跡部の主張とそっくり同じだった。
花は跡部によく似合う。
だから家中花だらけの跡部の家も、神尾は跡部らしいなと納得している。
それより実は兼ねてから神尾が不思議だったのは、甘いものなど食べなさそうな跡部が、食事で必ずケーキの類を口にすることだ。
それは早い段階で、神尾も跡部に言ったことがある。
今、花の事を告げたみたいにだ。
それで返されたのが件の言葉だ。
花も菓子も豊富にある跡部の家。
部屋に連れて行かれ、閉じこもる様にして時間を過ごす回数も日増しに増えていく日々だ。
「そこ座っとけ」
部屋に入るなり、跡部に顎で指し示された赤いソファ。
横柄だなと神尾は若干膨れるが、すわり心地の良いそのソファは気に入りの場所でもある。
神尾が置いてあったクッションを抱え込むようにしてそこに座ると、跡部はクリスタルみたいにきらきらとよく光る硝子テーブルから何かを持って神尾の前に立った。
「跡部?」
無造作な仕草で跡部は瓶の蓋を捻って開けた。
瓶をつかんでいる方の指の間には柄の長いシルバーのスプーンが挟まっている。
跡部は薬品でも掬い出すようにして、瓶の中にスプーンを入れた。
「口あけろ」
「は?………ん、…っ…」
聞き返している途中でスプーンが口の中に入ってくる。
長い柄の先端を親指と人差し指で挟むようにして、跡部は瓶の中からすくいあげたものを餌付けさながらに神尾の口に運ぶのだ。
どうだ、と尊大に見下ろしてくる跡部の視線に、えらそうだなと思わなくもないが、神尾は素直に笑顔をみせた。
「うまい!」
口の中に広がる甘味にゆるんだ表情を、眼差しで見下ろした跡部がいきなり屈んでくる。
深い角度のついたキスだった。
「なっ…」
「ご褒美だ」
「………はぁ…っ、…?」
「てめえは頭は悪いが、味覚は悪くねえ」
「何、笑って…!……」
果たして今したキスをか、それとも神尾が口に入れられた赤いジャムをか。
跡部は何かを味わうように覗かせた舌で唇を舐める。
舐め方がいやらしいんだよと神尾はどっと赤くなった。
跡部がスプーンでもう一匙。
ジャムをすくって神尾の唇に運んでくる。
「オペラ座の屋根でとれた蜂蜜が入ってんだよ」
「何それ…」
「うまけりゃ何でもいいがな」
跡部がまた腰から屈んで神尾の唇を舐めとる。
ジャムを食べたいなら自分だって直接食べればいいだろと神尾は思うのに。
跡部は何故だか神尾の唇経由でいちいちジャムを食べている。
ソファに座ったままもがく神尾など簡単に封じて、跡部は立ったままひとしきりジャムと神尾に戯れて。
何が楽しいのか終始笑みを浮かべている。
最近、跡部はよくこういう顔するよな、と神尾も気づいている。
あからさまに神尾をからかってくる物言いはたちが悪いと思いながらも、実際の所それで神尾が不快になったことは一度もないのだ。
へんだよな、と思わなくもないが事実だ。
仕方がない。
「おい、これは?」
「は?」
ジャムに飽きたのか、跡部は今度は部屋の中にあった花器から濃い色の花を一輪引き抜いた。
それを神尾の顔にかざす。
やはりソファに座る神尾の前に立ったままで、剣でも差し向けるかのような無駄に優美な立ち姿に、神尾は溜息を零した反動のように息を吸い込み、目を瞠る。
「え、…なんで?」
じっと、目前の花を見据えてから神尾は跡部を見上げた。
「この花、チョコレートの匂いがする…」
跡部は軽く笑ってからかうような目でまた神尾を見下ろした。
「嗅覚も悪くねえんだよな。頭は悪いけど」
「お前、それ言いたいだけだろ…っ」
さっきから、というか、いつも。
口癖のように跡部は神尾の頭が悪いと繰り返しては笑っている。
「シャーリーベイビー」
「……なに……花の名前…?」
「オンジウムな」
どちらかが花本来の名前で、どちらかがその種類なのだろう。
神尾にはさっぱり判らなかった。
どうせまたすぐに馬鹿にしてくるのだろうと神尾は思ったが、跡部はそれ以上特に何を言うでもなく神尾の片頬を手のひらで包んだ。
頬を撫でられると、びくりと身体が震える。
神尾は跡部でそれを知った。
そのままゆっくりと屈んでくる跡部は、今度はもう笑っていなかった。
今日何度目かのキスで唇を塞がれる間際、神尾は小さな声で跡部を呼んだ。
「………跡部…」
「…………なんだ」
ぴたりと動きを止めた跡部が憮然としているのが少しおかしかった。
それで神尾は初めてキスの寸前に笑ってしまった。
神尾の方のそのリアクションに跡部は不機嫌に眼差しをきつくして。
どこか焦れたように神尾の唇に噛みつくようなキスをした。
頭が悪いという、お決まりの台詞は、放たれることはなく。
たとえば。
「なあ、跡部。跡部の家ってさ、普通に家中に花とかあるのな」
それも毎回違う種類の生花だ。
庭にも多種多様に咲いているし、温室の中もかなりすごいことになっている事は、神尾も知っている。
その上、家の中も、いつ来ても華美な花々で色とりどりの状態だ。
「家の中に花があるのは当然だろうが」
神尾を連れて家の中を先を歩く跡部は前を向いたままそう言った。
その口調は、食事にデザートがつくのは当然だという跡部の主張とそっくり同じだった。
花は跡部によく似合う。
だから家中花だらけの跡部の家も、神尾は跡部らしいなと納得している。
それより実は兼ねてから神尾が不思議だったのは、甘いものなど食べなさそうな跡部が、食事で必ずケーキの類を口にすることだ。
それは早い段階で、神尾も跡部に言ったことがある。
今、花の事を告げたみたいにだ。
それで返されたのが件の言葉だ。
花も菓子も豊富にある跡部の家。
部屋に連れて行かれ、閉じこもる様にして時間を過ごす回数も日増しに増えていく日々だ。
「そこ座っとけ」
部屋に入るなり、跡部に顎で指し示された赤いソファ。
横柄だなと神尾は若干膨れるが、すわり心地の良いそのソファは気に入りの場所でもある。
神尾が置いてあったクッションを抱え込むようにしてそこに座ると、跡部はクリスタルみたいにきらきらとよく光る硝子テーブルから何かを持って神尾の前に立った。
「跡部?」
無造作な仕草で跡部は瓶の蓋を捻って開けた。
瓶をつかんでいる方の指の間には柄の長いシルバーのスプーンが挟まっている。
跡部は薬品でも掬い出すようにして、瓶の中にスプーンを入れた。
「口あけろ」
「は?………ん、…っ…」
聞き返している途中でスプーンが口の中に入ってくる。
長い柄の先端を親指と人差し指で挟むようにして、跡部は瓶の中からすくいあげたものを餌付けさながらに神尾の口に運ぶのだ。
どうだ、と尊大に見下ろしてくる跡部の視線に、えらそうだなと思わなくもないが、神尾は素直に笑顔をみせた。
「うまい!」
口の中に広がる甘味にゆるんだ表情を、眼差しで見下ろした跡部がいきなり屈んでくる。
深い角度のついたキスだった。
「なっ…」
「ご褒美だ」
「………はぁ…っ、…?」
「てめえは頭は悪いが、味覚は悪くねえ」
「何、笑って…!……」
果たして今したキスをか、それとも神尾が口に入れられた赤いジャムをか。
跡部は何かを味わうように覗かせた舌で唇を舐める。
舐め方がいやらしいんだよと神尾はどっと赤くなった。
跡部がスプーンでもう一匙。
ジャムをすくって神尾の唇に運んでくる。
「オペラ座の屋根でとれた蜂蜜が入ってんだよ」
「何それ…」
「うまけりゃ何でもいいがな」
跡部がまた腰から屈んで神尾の唇を舐めとる。
ジャムを食べたいなら自分だって直接食べればいいだろと神尾は思うのに。
跡部は何故だか神尾の唇経由でいちいちジャムを食べている。
ソファに座ったままもがく神尾など簡単に封じて、跡部は立ったままひとしきりジャムと神尾に戯れて。
何が楽しいのか終始笑みを浮かべている。
最近、跡部はよくこういう顔するよな、と神尾も気づいている。
あからさまに神尾をからかってくる物言いはたちが悪いと思いながらも、実際の所それで神尾が不快になったことは一度もないのだ。
へんだよな、と思わなくもないが事実だ。
仕方がない。
「おい、これは?」
「は?」
ジャムに飽きたのか、跡部は今度は部屋の中にあった花器から濃い色の花を一輪引き抜いた。
それを神尾の顔にかざす。
やはりソファに座る神尾の前に立ったままで、剣でも差し向けるかのような無駄に優美な立ち姿に、神尾は溜息を零した反動のように息を吸い込み、目を瞠る。
「え、…なんで?」
じっと、目前の花を見据えてから神尾は跡部を見上げた。
「この花、チョコレートの匂いがする…」
跡部は軽く笑ってからかうような目でまた神尾を見下ろした。
「嗅覚も悪くねえんだよな。頭は悪いけど」
「お前、それ言いたいだけだろ…っ」
さっきから、というか、いつも。
口癖のように跡部は神尾の頭が悪いと繰り返しては笑っている。
「シャーリーベイビー」
「……なに……花の名前…?」
「オンジウムな」
どちらかが花本来の名前で、どちらかがその種類なのだろう。
神尾にはさっぱり判らなかった。
どうせまたすぐに馬鹿にしてくるのだろうと神尾は思ったが、跡部はそれ以上特に何を言うでもなく神尾の片頬を手のひらで包んだ。
頬を撫でられると、びくりと身体が震える。
神尾は跡部でそれを知った。
そのままゆっくりと屈んでくる跡部は、今度はもう笑っていなかった。
今日何度目かのキスで唇を塞がれる間際、神尾は小さな声で跡部を呼んだ。
「………跡部…」
「…………なんだ」
ぴたりと動きを止めた跡部が憮然としているのが少しおかしかった。
それで神尾は初めてキスの寸前に笑ってしまった。
神尾の方のそのリアクションに跡部は不機嫌に眼差しをきつくして。
どこか焦れたように神尾の唇に噛みつくようなキスをした。
頭が悪いという、お決まりの台詞は、放たれることはなく。
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