How did you feel at your first kiss?
焦れったい。
他人事ながら、他人事だからこそか、とにかく焦れったい。
折り合いの悪そうな微妙な言い合いの後、連れ立って姿を消した二人のチームメイトを見送った宍戸は、テニスコートの脇で溜息をついた。
「心配…ですか?」
宍戸の傍らにいつの間にかやってきていた鳳が、そっと問いかけてくる。
宍戸がちらりと視線をやると、少し苦笑いを浮かべて鳳は宍戸を見つめている。
「心配っつーか……」
焦れったいんだよ。
図らずとも心の声を吐き出せば、鳳も頷いて、溜息をつき同級生の名前を口にする。
「日吉、結構複雑な所ありますからねえ……滝先輩はそういう所機微に組んでくれる人ですけど……」
「……好きな相手にああいう言い方されるのはきついよなぁ」
そんな事を言ってから、鳳と宍戸は、お互い同時にふと黙り込む。
「………何ですか、宍戸さん」
「お前こそ何だよ。長太郎」
牽制しあうように目線だけを合わせる二人は、今度もまた同時に顔を少し反らしてひとりごちる。
「宍戸さん、相変わらず日吉のこと気にかけてますよね」
「お前も滝の事よく判ってるよな」
相手を責めると言うよりは、少しばかり悔しいような羨ましいような、そういう不平だ。
何を言い合っているのかと思わなくもないが、隠し立てするよりは口に出した方がすっきりする。
「………………」
「………………」
そうやって溜息と共に吐き出した後、またそろりと互いの視線を合わせてみれば、結局笑いで払拭出来るのだから、二人は言いたい事は言ってしまう主義だ。
「すみません。いつもいろんなところで、嫉妬ばっかりで」
「お前が言うなよな」
「だって全然俺ほどじゃないですよ、宍戸さんは」
「だってとか言うな、阿呆」
上背のある年下の男に呆れた溜息をついた宍戸だったが、やんわりとした鳳の物言いは、無闇に構ってやりたくて堪らなくなる。
整った顔に穏やかな笑みを浮かべるのが常の鳳が、宍戸相手に時折剥きだしの感情をさらしてくるのが正直宍戸には心地良い。
改めていつも自分の一番近くに居る鳳を見据えながら宍戸は唇を緩めた。
「滝ってのは…すごいと思うぜ、本当に」
「宍戸さん?」
「誰に対してもさ。あいつみたいにいられるかって考えたら、多分俺には無理だ」
滝は人との距離感がいつも絶妙だ。
強烈な個性ではないが決して揺るがない自己を持っていて、だからレギュラー落ちする事になった宍戸とも、元ダブルスのパートナーだった鳳とも、苛ついて感情をぶつけてくるような日吉とも、最も適した距離で彼らしくあるまま接してくるし、受け止めてもくる。
それは重鎮のような穏やかさだ。
あの厳しい跡部もまた滝を重く置いているのが判る。
「俺も滝先輩のことすごいと思ってます」
でも宍戸さん、と少し声音の変わった鳳の呼びかけに気づいて宍戸は首を傾ける。
「長太郎?」
「嫉妬の対象どんどん増やされて、俺は少々…」
そんな目しないでくださいよと鳳に泣きつかれて宍戸は面食らった。
しっかりとした骨格、長い手足の体躯で、しょげている鳳の佇まいに笑いが込み上げてくる。
俯いて肩を震わせている宍戸の横で鳳は判りやすく不貞腐れた。
「ほら、やっぱり俺の方が分が悪いじゃないですか……」
「……分がどうこうって話じゃねえだろ」
「いいんですけどね。それは。俺の分が悪いのは元から判ってますから」
「長太郎、お前、それ威張る所じゃ、なくねえ?」
「威張りますよ。もう」
俺は宍戸さんが好きすぎる、と生真面目に嘆かれて。
鳳という男は、こんな事を簡単に言ってくるから、たちが悪いと宍戸は思った。
「………悪いのかよ。好きすぎると」
「うんざりされてしまうかもしれないでしょう?」
宍戸さんに、と鳳が真剣に眉根を寄せるので。
その複雑に危惧しているかのような面立ちに宍戸は嘆息した。
何でも判っているようで、何にも判っていない。
大人びているようで、やはり年下故かと思いながら。
「するかよ。こんなんで」
うんざりなど。
出来るような自分ではないのだ。
どれだけ貪欲なんだと、自分にそれを気づかせた後輩を。
宍戸は軽く睨みやった。
うんざりなんかしない。
もっと欲しいくらいだ。
判っていないようだから、この際きっちり判らせておこうと宍戸は言い切った。
「足りねえくらいだけど?」
別段挑発でも何でもなく本音で告げれば、目を瞠った鳳は、片手を後ろ首に当ててがっくりと肩を落とした。
「宍戸さんー……」
「何だよ」
「苛めですよ…それ…」
「知るか」
「知るかって……」
もう、宍戸さんは、と鳳は嘆くような声を出したけれど。
いつの間にか笑ってもいた。
甘い笑みと、それだけではない目で、宍戸を見下ろしてきていた。
「日吉みたいに複雑なのと、宍戸さんみたいに明白なのと。翻弄される側は、同じかもしれないです」
俺も滝先輩も、と鳳は言った。
「お前や滝みたいにやたらと物分りのいいヤツには、絡みたくなんだよ」
俺も若も、と宍戸は言った。
「………………」
相手に挑むように嘆き合う自分達。
負ける気は無い。
勝とうと言うよりは、負けるつもりはないといった心情で。
他人事ながら、他人事だからこそか、とにかく焦れったい。
折り合いの悪そうな微妙な言い合いの後、連れ立って姿を消した二人のチームメイトを見送った宍戸は、テニスコートの脇で溜息をついた。
「心配…ですか?」
宍戸の傍らにいつの間にかやってきていた鳳が、そっと問いかけてくる。
宍戸がちらりと視線をやると、少し苦笑いを浮かべて鳳は宍戸を見つめている。
「心配っつーか……」
焦れったいんだよ。
図らずとも心の声を吐き出せば、鳳も頷いて、溜息をつき同級生の名前を口にする。
「日吉、結構複雑な所ありますからねえ……滝先輩はそういう所機微に組んでくれる人ですけど……」
「……好きな相手にああいう言い方されるのはきついよなぁ」
そんな事を言ってから、鳳と宍戸は、お互い同時にふと黙り込む。
「………何ですか、宍戸さん」
「お前こそ何だよ。長太郎」
牽制しあうように目線だけを合わせる二人は、今度もまた同時に顔を少し反らしてひとりごちる。
「宍戸さん、相変わらず日吉のこと気にかけてますよね」
「お前も滝の事よく判ってるよな」
相手を責めると言うよりは、少しばかり悔しいような羨ましいような、そういう不平だ。
何を言い合っているのかと思わなくもないが、隠し立てするよりは口に出した方がすっきりする。
「………………」
「………………」
そうやって溜息と共に吐き出した後、またそろりと互いの視線を合わせてみれば、結局笑いで払拭出来るのだから、二人は言いたい事は言ってしまう主義だ。
「すみません。いつもいろんなところで、嫉妬ばっかりで」
「お前が言うなよな」
「だって全然俺ほどじゃないですよ、宍戸さんは」
「だってとか言うな、阿呆」
上背のある年下の男に呆れた溜息をついた宍戸だったが、やんわりとした鳳の物言いは、無闇に構ってやりたくて堪らなくなる。
整った顔に穏やかな笑みを浮かべるのが常の鳳が、宍戸相手に時折剥きだしの感情をさらしてくるのが正直宍戸には心地良い。
改めていつも自分の一番近くに居る鳳を見据えながら宍戸は唇を緩めた。
「滝ってのは…すごいと思うぜ、本当に」
「宍戸さん?」
「誰に対してもさ。あいつみたいにいられるかって考えたら、多分俺には無理だ」
滝は人との距離感がいつも絶妙だ。
強烈な個性ではないが決して揺るがない自己を持っていて、だからレギュラー落ちする事になった宍戸とも、元ダブルスのパートナーだった鳳とも、苛ついて感情をぶつけてくるような日吉とも、最も適した距離で彼らしくあるまま接してくるし、受け止めてもくる。
それは重鎮のような穏やかさだ。
あの厳しい跡部もまた滝を重く置いているのが判る。
「俺も滝先輩のことすごいと思ってます」
でも宍戸さん、と少し声音の変わった鳳の呼びかけに気づいて宍戸は首を傾ける。
「長太郎?」
「嫉妬の対象どんどん増やされて、俺は少々…」
そんな目しないでくださいよと鳳に泣きつかれて宍戸は面食らった。
しっかりとした骨格、長い手足の体躯で、しょげている鳳の佇まいに笑いが込み上げてくる。
俯いて肩を震わせている宍戸の横で鳳は判りやすく不貞腐れた。
「ほら、やっぱり俺の方が分が悪いじゃないですか……」
「……分がどうこうって話じゃねえだろ」
「いいんですけどね。それは。俺の分が悪いのは元から判ってますから」
「長太郎、お前、それ威張る所じゃ、なくねえ?」
「威張りますよ。もう」
俺は宍戸さんが好きすぎる、と生真面目に嘆かれて。
鳳という男は、こんな事を簡単に言ってくるから、たちが悪いと宍戸は思った。
「………悪いのかよ。好きすぎると」
「うんざりされてしまうかもしれないでしょう?」
宍戸さんに、と鳳が真剣に眉根を寄せるので。
その複雑に危惧しているかのような面立ちに宍戸は嘆息した。
何でも判っているようで、何にも判っていない。
大人びているようで、やはり年下故かと思いながら。
「するかよ。こんなんで」
うんざりなど。
出来るような自分ではないのだ。
どれだけ貪欲なんだと、自分にそれを気づかせた後輩を。
宍戸は軽く睨みやった。
うんざりなんかしない。
もっと欲しいくらいだ。
判っていないようだから、この際きっちり判らせておこうと宍戸は言い切った。
「足りねえくらいだけど?」
別段挑発でも何でもなく本音で告げれば、目を瞠った鳳は、片手を後ろ首に当ててがっくりと肩を落とした。
「宍戸さんー……」
「何だよ」
「苛めですよ…それ…」
「知るか」
「知るかって……」
もう、宍戸さんは、と鳳は嘆くような声を出したけれど。
いつの間にか笑ってもいた。
甘い笑みと、それだけではない目で、宍戸を見下ろしてきていた。
「日吉みたいに複雑なのと、宍戸さんみたいに明白なのと。翻弄される側は、同じかもしれないです」
俺も滝先輩も、と鳳は言った。
「お前や滝みたいにやたらと物分りのいいヤツには、絡みたくなんだよ」
俺も若も、と宍戸は言った。
「………………」
相手に挑むように嘆き合う自分達。
負ける気は無い。
勝とうと言うよりは、負けるつもりはないといった心情で。
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