How did you feel at your first kiss?
図書室のソファで本を読んでいる柳生の肩に、仁王が寄りかかっている。
柳生は随分長い時間本を読んでいて、その間に何回か自分の肩口の仁王を見やった。
彼は大抵目を閉じていて、時々は開いていた目が合って。
終始おとなしくしているものの、この場所でこの距離の近さはどうだろうかと柳生は思う。
言ったところで聞く相手でもないし、寧ろ第三者の人目があるときは必要以上近づいてこない仁王なので、こういう時はつい柳生も大目にみてしまう。
膝下の長い足を持て余すように膝を立てて大きく開いている格好は行儀が悪いと思うが、それも注意しそびれたまま図書室は徐々に夕暮れに侵食されていく。
「仁王君」
随分と読み終えるのに時間がかかったのう、と仁王は目を閉じたまま柳生の肩に一層懐いてくる。
「まだですよ。静かにしていてくれるのは有難いですが、そんなにべったりされるとどうも…」
「嫌か?」
語尾に被せるように思いのほか強い声で問われ、そうでなく、と柳生は首を左右に振った。
「時間が経てば経つほど本よりも仁王君のことが気になってくるじゃないですか」
「そりゃぁええ」
もうけもんじゃ、と仁王が両目を開け、唇を引き上げる。
含みのある笑い方にも慣れている。
しかし、ずるりと背中がソファの背もたれから滑った事には辟易と、柳生は眉根を寄せた。
本を落とさないよう手近のテーブルに置いてから、中途半端な体勢でのしかかってきた仁王を下から睨みつける。
「仁王君」
「柳生は怒ると色気が増すのう」
「そんな腐った事言うのは仁王君だけです」
「当たり前じゃ。他の奴らにはこんな事は言わせんよ」
零れるように笑うと毒を振りまくような独特な男。
窘めるように、柳生は片手で仁王の胸元を押しやった。
「いい加減離れて下さい。ここは図書室ですよ」
「柳生」
「……仁王君。拗ねても可愛くない」
わざとらしく膨らませた白い頬を指先を揃えた右手で軽く叩き、でもそのまま仁王が顔を近づけてくるので、結局柳生の右手は受けるキスを支えるためのものになる。
「柳生はかわいか」
「………そういう事は言わなくていいです」
小さく音がして唇と唇が離れてすぐ。
至近距離でそう言われ、囁きと一緒に熱っぽい吐息が触れてくる。
体温の低い仁王の息とは思えないその熱はうつされる。
「柳生」
「………………」
頬と、目尻と。
唇で掠られて。
「色気のあるとこも、可愛いとこもあるけん、柳生は完璧じゃの…」
「何度でも言いますが、そんな事を考えるのは仁王君くらいですよ」
色気とか、可愛いとか。
柳生にしてみれば、仁王の方だと思う。
飄々とした風情といい、怜悧な顔つきといい、くどい気配などどこにもないのに、近づくと彼はいつも濃密な色気を振りまいてくる。
ペテン師などと言われるだけに、本気も冗談も真剣に言う男だけれど。
柳生は、何故か自分に向けられる仁王の言葉に軽薄さを感じたことはなかった。
「柳生の一番エロイところは、舌触りのええとこかのう…」
「……、ん」
これまでの戯れるようなキスではなく、ぐっと息まで塞ぐような深い角度で唇が塞がれる。
仁王は本格的にのしかかってきて、柳生はソファに完全に組み敷かれた。
「…っ………ふ、…ぁ…」
「柳生…」
唇が離れるなり、とろりと濡れている口腔を自覚させられ、寸前まで潤んで絡んでいた舌と舌が熱を持つ。
舌を味わうような仁王のやり方こそが、卑猥でなくて何であるのかと柳生は眼鏡越しに目を細める。
「……外さんの?」
眼鏡に手を伸ばしてこられ、柳生はかぶりを振った。
眼鏡を外すと完全に仁王はする気になるとと判っているから、柳生は仁王の身体の下から逃げる。
つれないだとか冷たいだとか仁王は言っていたが、無理矢理柳生を押さえつけたりはしなかった。
「……家に行ってもまだその気のままならば…構いませんよ」
それでつい、譲歩案のようなことを柳生は言ってしまうのだ。
乱れた髪に手ぐしを入れている柳生を、仁王はしげしげと見やっていて。
ソファに仰向けに寝そべるようにしながら肘で上半身を起き上がらせた体勢のまま、爆笑した。
失礼なと柳生が睨みつけると、仁王は突如飛び起きるように立ち上がって、柳生の肩を抱いた。
軽く唇を合わせてから。
「……っ……なんで走るんですかっ」
急な加速に引っ張られて、図書室を飛び出す。
柳生はあまり見た事のない走る仁王の背中に面食らいながらも後につく。
急がなければ落ち着いてしまうような欲求ならば、何も無理してまでしたがることはないだろうと柳生は思い、仁王に告げもしたのだけれど。
機嫌のいい仁王は一言、柳生に言った。
「お前さんは、ほんとに頭が悪いのう」
「誰に言ってるんですか!」
「柳生は大馬鹿じゃ」
足止めた場所ですぐに始めるなんて脅しのような宣言で駄目押しだ。
迂闊に足も止められない。
全力疾走していくしかない。
やると言ったら絶対にやるのだ、仁王は。
柳生は仁王に腕を引かれたまま走り、一方的なのは癪だから、ラストスパートは自分がこの腕を引いて走りきってやろうと考えた。
柳生は随分長い時間本を読んでいて、その間に何回か自分の肩口の仁王を見やった。
彼は大抵目を閉じていて、時々は開いていた目が合って。
終始おとなしくしているものの、この場所でこの距離の近さはどうだろうかと柳生は思う。
言ったところで聞く相手でもないし、寧ろ第三者の人目があるときは必要以上近づいてこない仁王なので、こういう時はつい柳生も大目にみてしまう。
膝下の長い足を持て余すように膝を立てて大きく開いている格好は行儀が悪いと思うが、それも注意しそびれたまま図書室は徐々に夕暮れに侵食されていく。
「仁王君」
随分と読み終えるのに時間がかかったのう、と仁王は目を閉じたまま柳生の肩に一層懐いてくる。
「まだですよ。静かにしていてくれるのは有難いですが、そんなにべったりされるとどうも…」
「嫌か?」
語尾に被せるように思いのほか強い声で問われ、そうでなく、と柳生は首を左右に振った。
「時間が経てば経つほど本よりも仁王君のことが気になってくるじゃないですか」
「そりゃぁええ」
もうけもんじゃ、と仁王が両目を開け、唇を引き上げる。
含みのある笑い方にも慣れている。
しかし、ずるりと背中がソファの背もたれから滑った事には辟易と、柳生は眉根を寄せた。
本を落とさないよう手近のテーブルに置いてから、中途半端な体勢でのしかかってきた仁王を下から睨みつける。
「仁王君」
「柳生は怒ると色気が増すのう」
「そんな腐った事言うのは仁王君だけです」
「当たり前じゃ。他の奴らにはこんな事は言わせんよ」
零れるように笑うと毒を振りまくような独特な男。
窘めるように、柳生は片手で仁王の胸元を押しやった。
「いい加減離れて下さい。ここは図書室ですよ」
「柳生」
「……仁王君。拗ねても可愛くない」
わざとらしく膨らませた白い頬を指先を揃えた右手で軽く叩き、でもそのまま仁王が顔を近づけてくるので、結局柳生の右手は受けるキスを支えるためのものになる。
「柳生はかわいか」
「………そういう事は言わなくていいです」
小さく音がして唇と唇が離れてすぐ。
至近距離でそう言われ、囁きと一緒に熱っぽい吐息が触れてくる。
体温の低い仁王の息とは思えないその熱はうつされる。
「柳生」
「………………」
頬と、目尻と。
唇で掠られて。
「色気のあるとこも、可愛いとこもあるけん、柳生は完璧じゃの…」
「何度でも言いますが、そんな事を考えるのは仁王君くらいですよ」
色気とか、可愛いとか。
柳生にしてみれば、仁王の方だと思う。
飄々とした風情といい、怜悧な顔つきといい、くどい気配などどこにもないのに、近づくと彼はいつも濃密な色気を振りまいてくる。
ペテン師などと言われるだけに、本気も冗談も真剣に言う男だけれど。
柳生は、何故か自分に向けられる仁王の言葉に軽薄さを感じたことはなかった。
「柳生の一番エロイところは、舌触りのええとこかのう…」
「……、ん」
これまでの戯れるようなキスではなく、ぐっと息まで塞ぐような深い角度で唇が塞がれる。
仁王は本格的にのしかかってきて、柳生はソファに完全に組み敷かれた。
「…っ………ふ、…ぁ…」
「柳生…」
唇が離れるなり、とろりと濡れている口腔を自覚させられ、寸前まで潤んで絡んでいた舌と舌が熱を持つ。
舌を味わうような仁王のやり方こそが、卑猥でなくて何であるのかと柳生は眼鏡越しに目を細める。
「……外さんの?」
眼鏡に手を伸ばしてこられ、柳生はかぶりを振った。
眼鏡を外すと完全に仁王はする気になるとと判っているから、柳生は仁王の身体の下から逃げる。
つれないだとか冷たいだとか仁王は言っていたが、無理矢理柳生を押さえつけたりはしなかった。
「……家に行ってもまだその気のままならば…構いませんよ」
それでつい、譲歩案のようなことを柳生は言ってしまうのだ。
乱れた髪に手ぐしを入れている柳生を、仁王はしげしげと見やっていて。
ソファに仰向けに寝そべるようにしながら肘で上半身を起き上がらせた体勢のまま、爆笑した。
失礼なと柳生が睨みつけると、仁王は突如飛び起きるように立ち上がって、柳生の肩を抱いた。
軽く唇を合わせてから。
「……っ……なんで走るんですかっ」
急な加速に引っ張られて、図書室を飛び出す。
柳生はあまり見た事のない走る仁王の背中に面食らいながらも後につく。
急がなければ落ち着いてしまうような欲求ならば、何も無理してまでしたがることはないだろうと柳生は思い、仁王に告げもしたのだけれど。
機嫌のいい仁王は一言、柳生に言った。
「お前さんは、ほんとに頭が悪いのう」
「誰に言ってるんですか!」
「柳生は大馬鹿じゃ」
足止めた場所ですぐに始めるなんて脅しのような宣言で駄目押しだ。
迂闊に足も止められない。
全力疾走していくしかない。
やると言ったら絶対にやるのだ、仁王は。
柳生は仁王に腕を引かれたまま走り、一方的なのは癪だから、ラストスパートは自分がこの腕を引いて走りきってやろうと考えた。
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