How did you feel at your first kiss?
神尾が落ち着かない。
何か言いたいのだという事は、跡部にはすぐに判ったけれど面白いから放っておいた。
「な、…跡部」
「あ?」
「……なあ」
「何だよ」
わざと億劫そうに振り返って見てやると、それまで跡部の自室のソファに寄りかかるようにして床に座っていた神尾が居ずまいを正した。
自分の部屋で正座をする神尾、というものを跡部は初めて見た。
「ちょっと聞きたい、んだけど」
「だから何だ」
さっさと言え、と素っ気無く促すと。
神尾は腿の上に乗せた手を、ぎゅっと握りこんだ。
「前から聞こう聞こうって思ってたんだけど」
跡部はもう先を促すのにも飽きて、革張りのデスクチェアに寄りかかったまま、くるりとチェアを回転させ神尾と向き合った。
足を組み、腕を組み、尊台に眺め下ろしやると。
神尾は不審さに戸惑うような上目遣いで跡部を見返してきた。
「何で、跡部は、橘さんを、敵視、するんだよう」
「………てめえ」
一言一言、何もそんなに強調して言う事があるのだろうか。
跡部は不機嫌極まりなく神尾を睨みつけた。
そもそも、そんなの、何でも何もない。
そんな馬鹿な事を聞いてくるのはお前だけだと嘲りめいて神尾を見下ろすと、神尾は怯むどころか深々と溜息を吐き出した。
「も、俺、頭痛い」
「………………」
「深司も跡部みたく跡部のこと敵視してるし…」
「ああ?」
跡部にとって余計な名前がまた出てきた。
順番をつける気にもならない。
その二人の名前は跡部にとって最大の鬼門だ。
神尾の言葉遣いは時々おかしいが、跡部の頭では正しくそれも読み取ってしまう。
跡部が伊武を気に入らないように、伊武も跡部が気に入らないのだ。
理由は同じだろう。
「神尾。お前判ってんじゃねえのか? 伊武が何で俺をそこまで嫌うか」
「え?……や、別に深司、そんなに跡部のこと嫌いなわけじゃね…よ?」
「ここであいつの肩持つな。……ったく、つくづく腹たつ野郎だな、お前は」
跡部は不機嫌極まりなく神尾を見下ろして。
「あいつは気に食わないんだろうよ。俺がお前を俺のもんにしたからな」
「な……なな……なに言ってんだよ跡部っ…」
何を今更そこまで盛大に慌てる必要があるのか。
跡部には理解しがたい。
そもそも何故こんな事まで説明してやらなければいけないのか。
「あいつからお前をとっていった俺が、気に食わないのは当然だ」
だから、と跡部は畳み掛けた。
「俺もそういう事だって言ってんだよ」
「え?……」
「橘も気に食わねえって言ってんだよ」
「な…んで…?……、っ…た……ッ!」
あまりにも間の抜けた問いかけに跡部は遠慮なく神尾の片耳を引っ張ってやった。
「痛いってば…!…ちょ……跡部…っ…」
「何を聞いてたんだお前。どこまで馬鹿だ。アア?」
凄んだくらいでは怯まない神尾は、本気で判んねえよと言い返してくる。
どこまで、ではなく。
どこまでも、馬鹿だ。
跡部は諦めにも似た境地で、混乱している神尾にはっきりと言ってやった。
「お前が橘に傾倒しきってんのが俺様は気に入らねえんだよ」
「けいとう?」
「心酔してるのがだ」
「………しん…すい。……?」
この小さな丸い頭の中での漢字変換は絶対に、継投で、浸水だ。
そうに違いないと跡部はますます不機嫌を募らせて神尾を睨みつける。
神尾は少しの間なにかを考える顔をしていたが、ふいに跡部の目をじっと見上げてきて。
至極不思議そうに言った。
「深司は跡部に、俺を取られたりなんかしてないし。跡部だって橘さんに俺をとられたりなんかしてないだろ?」
「………………」
気に入らないのおかしいだろ?と神尾は稚く跡部を見上げて首を傾げている。
まるで判っていない神尾は、何故か時折すべてを判っているような事を言う。
それこそ、跡部よりも正しく。
「深司といても、橘さんといても、跡部といても、俺は結局俺だよ?」
「……判ってんだよ、そんなことは」
「俺、跡部を」
好きだよ、と神尾は言った。
いつものように恥ずかしがるのではなく、嬉しそうに、幸せそうに、神尾は笑う。
「跡部」
好き、と繰り返すので抱き寄せた。
言葉に詰まるなんて信じがたい。
跡部は憮然と、そして愕然と、神尾を胸の内に抱き込んだ。
跡部が気に食わない橘や、伊武も、神尾は好きだろう。
けれど、今跡部に言っている言葉にきちんとひとつだけの意味があることも判るから。
跡部は神尾を抱き締めている。
「………………」
小さい。
肩が。
細い。
首が。
熱い。
身体。
「………あと…べ?」
もぞもぞと動くのが子供っぽい。
でも、その肢体に縋るように抱き締める腕に力を込めたのは跡部の方だ。
一生。
神尾にその言葉を言わせ続けるには、何をすればいいか。
どう生きていけばいいか。
そんな事を目まぐるしく真剣に考える自分が跡部には信じがたく、それでいて暢気な声が腕の中からすればつられて笑ってしまうのだ。
「ち、……っそく、しそ、…なん、だけどっ」
いっそしてしまえと跡部は結構本気で考えた。
息が詰まると感じるくらいに、自分に溺れてしまえばいい。
「あとべー…っ……、」
それでも、じたばたもがく必死さに少し腕を緩めてやる。
跡部が見下ろすと、神尾は顔を赤くして、髪をくしゃくしゃにして。
少しばかり恨めしそうな視線を投げかけてくる。
「もー、お前、さぁ…、っ」
顎を救って言いかける言葉を遮り唇を重ねると。
ひどくびっくりしたように神尾は身体を震わせた。
跡部の二の腕辺りのシャツを咄嗟に掴んでくる仕草が子供っぽいのに、キスを受け入れる口腔は甘く優しかった。
存分に舌を絡めてから、唇を離して。
「俺が…何だ?」
跡部は笑って、低く神尾に囁きかける。
唇の端を啄ばむようにしてやると、すっかり涙目になった神尾は噛み付く気力もなくなったようで、跡部の首筋に唇を埋めておとなしくなった。
何か言いたいのだという事は、跡部にはすぐに判ったけれど面白いから放っておいた。
「な、…跡部」
「あ?」
「……なあ」
「何だよ」
わざと億劫そうに振り返って見てやると、それまで跡部の自室のソファに寄りかかるようにして床に座っていた神尾が居ずまいを正した。
自分の部屋で正座をする神尾、というものを跡部は初めて見た。
「ちょっと聞きたい、んだけど」
「だから何だ」
さっさと言え、と素っ気無く促すと。
神尾は腿の上に乗せた手を、ぎゅっと握りこんだ。
「前から聞こう聞こうって思ってたんだけど」
跡部はもう先を促すのにも飽きて、革張りのデスクチェアに寄りかかったまま、くるりとチェアを回転させ神尾と向き合った。
足を組み、腕を組み、尊台に眺め下ろしやると。
神尾は不審さに戸惑うような上目遣いで跡部を見返してきた。
「何で、跡部は、橘さんを、敵視、するんだよう」
「………てめえ」
一言一言、何もそんなに強調して言う事があるのだろうか。
跡部は不機嫌極まりなく神尾を睨みつけた。
そもそも、そんなの、何でも何もない。
そんな馬鹿な事を聞いてくるのはお前だけだと嘲りめいて神尾を見下ろすと、神尾は怯むどころか深々と溜息を吐き出した。
「も、俺、頭痛い」
「………………」
「深司も跡部みたく跡部のこと敵視してるし…」
「ああ?」
跡部にとって余計な名前がまた出てきた。
順番をつける気にもならない。
その二人の名前は跡部にとって最大の鬼門だ。
神尾の言葉遣いは時々おかしいが、跡部の頭では正しくそれも読み取ってしまう。
跡部が伊武を気に入らないように、伊武も跡部が気に入らないのだ。
理由は同じだろう。
「神尾。お前判ってんじゃねえのか? 伊武が何で俺をそこまで嫌うか」
「え?……や、別に深司、そんなに跡部のこと嫌いなわけじゃね…よ?」
「ここであいつの肩持つな。……ったく、つくづく腹たつ野郎だな、お前は」
跡部は不機嫌極まりなく神尾を見下ろして。
「あいつは気に食わないんだろうよ。俺がお前を俺のもんにしたからな」
「な……なな……なに言ってんだよ跡部っ…」
何を今更そこまで盛大に慌てる必要があるのか。
跡部には理解しがたい。
そもそも何故こんな事まで説明してやらなければいけないのか。
「あいつからお前をとっていった俺が、気に食わないのは当然だ」
だから、と跡部は畳み掛けた。
「俺もそういう事だって言ってんだよ」
「え?……」
「橘も気に食わねえって言ってんだよ」
「な…んで…?……、っ…た……ッ!」
あまりにも間の抜けた問いかけに跡部は遠慮なく神尾の片耳を引っ張ってやった。
「痛いってば…!…ちょ……跡部…っ…」
「何を聞いてたんだお前。どこまで馬鹿だ。アア?」
凄んだくらいでは怯まない神尾は、本気で判んねえよと言い返してくる。
どこまで、ではなく。
どこまでも、馬鹿だ。
跡部は諦めにも似た境地で、混乱している神尾にはっきりと言ってやった。
「お前が橘に傾倒しきってんのが俺様は気に入らねえんだよ」
「けいとう?」
「心酔してるのがだ」
「………しん…すい。……?」
この小さな丸い頭の中での漢字変換は絶対に、継投で、浸水だ。
そうに違いないと跡部はますます不機嫌を募らせて神尾を睨みつける。
神尾は少しの間なにかを考える顔をしていたが、ふいに跡部の目をじっと見上げてきて。
至極不思議そうに言った。
「深司は跡部に、俺を取られたりなんかしてないし。跡部だって橘さんに俺をとられたりなんかしてないだろ?」
「………………」
気に入らないのおかしいだろ?と神尾は稚く跡部を見上げて首を傾げている。
まるで判っていない神尾は、何故か時折すべてを判っているような事を言う。
それこそ、跡部よりも正しく。
「深司といても、橘さんといても、跡部といても、俺は結局俺だよ?」
「……判ってんだよ、そんなことは」
「俺、跡部を」
好きだよ、と神尾は言った。
いつものように恥ずかしがるのではなく、嬉しそうに、幸せそうに、神尾は笑う。
「跡部」
好き、と繰り返すので抱き寄せた。
言葉に詰まるなんて信じがたい。
跡部は憮然と、そして愕然と、神尾を胸の内に抱き込んだ。
跡部が気に食わない橘や、伊武も、神尾は好きだろう。
けれど、今跡部に言っている言葉にきちんとひとつだけの意味があることも判るから。
跡部は神尾を抱き締めている。
「………………」
小さい。
肩が。
細い。
首が。
熱い。
身体。
「………あと…べ?」
もぞもぞと動くのが子供っぽい。
でも、その肢体に縋るように抱き締める腕に力を込めたのは跡部の方だ。
一生。
神尾にその言葉を言わせ続けるには、何をすればいいか。
どう生きていけばいいか。
そんな事を目まぐるしく真剣に考える自分が跡部には信じがたく、それでいて暢気な声が腕の中からすればつられて笑ってしまうのだ。
「ち、……っそく、しそ、…なん、だけどっ」
いっそしてしまえと跡部は結構本気で考えた。
息が詰まると感じるくらいに、自分に溺れてしまえばいい。
「あとべー…っ……、」
それでも、じたばたもがく必死さに少し腕を緩めてやる。
跡部が見下ろすと、神尾は顔を赤くして、髪をくしゃくしゃにして。
少しばかり恨めしそうな視線を投げかけてくる。
「もー、お前、さぁ…、っ」
顎を救って言いかける言葉を遮り唇を重ねると。
ひどくびっくりしたように神尾は身体を震わせた。
跡部の二の腕辺りのシャツを咄嗟に掴んでくる仕草が子供っぽいのに、キスを受け入れる口腔は甘く優しかった。
存分に舌を絡めてから、唇を離して。
「俺が…何だ?」
跡部は笑って、低く神尾に囁きかける。
唇の端を啄ばむようにしてやると、すっかり涙目になった神尾は噛み付く気力もなくなったようで、跡部の首筋に唇を埋めておとなしくなった。
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