How did you feel at your first kiss?
決して泣かせたい訳ではないけれど、宍戸の涙を見ると、鳳は、焦るよりもほっとする。
何故かはよく判らなかったけれど。
自分のそんな心境が、随分と身勝手だとも思うのだけれど。
「……辛い?」
鳳は両手で宍戸の頭を抱え込むようにして、宍戸を組み敷いている。
食い入るように見下ろす先で、宍戸は浅く息を継ぎながら涙の絡んだ睫を震わせている。
「宍戸さん」
眦に溜まった、ひとしずく。
宍戸の涙は雫の形がくずれない。
涙も、汗も、綺麗な球体のまま肌の上にあって、それがいつも鳳を堪らない気持ちにさせた。
宍戸が身の内から滲ませるものは、どれもこれも鳳の目に不思議な煌きを放つ。
涙や汗もそうで、その他に、笑みだったり、強さだったり、優しさだったり、無数だ。
「………………」
鳳は宍戸の唇をそっと塞いだ。
声にならずに震えている呼気を吸い取るようにして、口付けながら宍戸の髪を撫で付ける。
熱い息すら目に見えずとも煌いて、すでに押し込んでいるものが煽られるように尚一層宍戸へと沈む。
「……、…っ……ひ、」
衝撃はよほど凄まじかったらしく、宍戸は打たれたように身体を跳ね上がらせ、反動でキスが解けた。
まるい雫で零れた涙は、こめかみに幾筋も流れていく。
鳳は涙に手を伸ばす。
ひっきりなしに溢れる涙に、指と唇とを一緒に寄せると、舌に飢餓感を煽るような宍戸の涙の味が移り、指先は熱く涙が沁みた。
至近距離で宍戸と目が合う。
宍戸は潤みきった黒々とした目で鳳を見ながら、何故だか笑った。
「も、………おまえ…」
「………宍戸さん…?…」
「…人…、が……泣くたび…安心したよう、な……ツラしやがって……」
「え………」
滑舌のとてつもなくあまくなった声で、それでも澄んだ声で。
宍戸が言って、笑った事に、鳳は驚いた。
悪趣味だと思われて当然の事実を、何故宍戸がそんな表情を浮かべて言うのか。
鳳が言葉に詰まるのを泣き濡れた目で見上げてきた宍戸は、片腕を持ち上げて鳳の髪を耳の上あたりで撫でた。
「俺が…安心…してるから……だろ…?……」
「宍戸さん……」
「……だから…泣いてるって…知って、る…から、おまえ…」
そういう顔、するんだよな、と言った掠れた小さな声は優しかった。
宍戸は睫を震わせて、瞬いて、また涙を零しながら乱れた息をして、そして。
目を閉じ、安堵している和らいだ顔を鳳の眼下に晒す。
「………………」
宍戸は辛い時には泣かない。
辛い時には、絶対にだ。
鳳は知っている。
それは、単に宍戸が強いからという事ではなく、宍戸は、辛い時や哀しい時には、泣くより先にする事があると考える事を知っているからだ。
宍戸が泣く。
それは、宍戸が、ただ彼のまま、その瞬間に安らいでいるという事だ。
「宍戸さ……」
だから、なのか、と。
鳳は知ってはいたけれども自分だけでは判らなかった心情を宍戸に教わり、本当に、この腕の中にいる彼がどれほどに大事なのか思い知らされ、抱き締める。
「………っ……ん」
あえかな、か細い声が自分の肩口に当たる。
鳳は宍戸を両腕で抱き締めながら、その身体を揺らした。
「長太郎…、……」
「……はい…」
鳳が、動くと。
宍戸は、息をのむ。
腰を引くと、微かに啼く。
体温を上げる。
かぶりをふる。
宍戸の目に、涙は。
溢れて、零れて、止まらなくて。
それでも鳳と目が合うたび、宍戸は笑んだ。
宍戸が安心している。
鳳は安堵する。
つながって、揺れて、身体の中がなだらかに組み合わさっていくのが判る。
ずっと、ずっと、泣かれた。
もっと、もっと、泣いていて欲しくなる。
あげたいもの、貰いたいもの、望まれたいもの、それらを手にするのには、さほどたくさんの言葉を使わなくてもいい。
たくさんの時間を使わなくてもいい。
今、その時にだけで充分。
確実に、手の中に、それがあるから、いいのだと。
だからもう好きなだけ泣かせたかった。
何故かはよく判らなかったけれど。
自分のそんな心境が、随分と身勝手だとも思うのだけれど。
「……辛い?」
鳳は両手で宍戸の頭を抱え込むようにして、宍戸を組み敷いている。
食い入るように見下ろす先で、宍戸は浅く息を継ぎながら涙の絡んだ睫を震わせている。
「宍戸さん」
眦に溜まった、ひとしずく。
宍戸の涙は雫の形がくずれない。
涙も、汗も、綺麗な球体のまま肌の上にあって、それがいつも鳳を堪らない気持ちにさせた。
宍戸が身の内から滲ませるものは、どれもこれも鳳の目に不思議な煌きを放つ。
涙や汗もそうで、その他に、笑みだったり、強さだったり、優しさだったり、無数だ。
「………………」
鳳は宍戸の唇をそっと塞いだ。
声にならずに震えている呼気を吸い取るようにして、口付けながら宍戸の髪を撫で付ける。
熱い息すら目に見えずとも煌いて、すでに押し込んでいるものが煽られるように尚一層宍戸へと沈む。
「……、…っ……ひ、」
衝撃はよほど凄まじかったらしく、宍戸は打たれたように身体を跳ね上がらせ、反動でキスが解けた。
まるい雫で零れた涙は、こめかみに幾筋も流れていく。
鳳は涙に手を伸ばす。
ひっきりなしに溢れる涙に、指と唇とを一緒に寄せると、舌に飢餓感を煽るような宍戸の涙の味が移り、指先は熱く涙が沁みた。
至近距離で宍戸と目が合う。
宍戸は潤みきった黒々とした目で鳳を見ながら、何故だか笑った。
「も、………おまえ…」
「………宍戸さん…?…」
「…人…、が……泣くたび…安心したよう、な……ツラしやがって……」
「え………」
滑舌のとてつもなくあまくなった声で、それでも澄んだ声で。
宍戸が言って、笑った事に、鳳は驚いた。
悪趣味だと思われて当然の事実を、何故宍戸がそんな表情を浮かべて言うのか。
鳳が言葉に詰まるのを泣き濡れた目で見上げてきた宍戸は、片腕を持ち上げて鳳の髪を耳の上あたりで撫でた。
「俺が…安心…してるから……だろ…?……」
「宍戸さん……」
「……だから…泣いてるって…知って、る…から、おまえ…」
そういう顔、するんだよな、と言った掠れた小さな声は優しかった。
宍戸は睫を震わせて、瞬いて、また涙を零しながら乱れた息をして、そして。
目を閉じ、安堵している和らいだ顔を鳳の眼下に晒す。
「………………」
宍戸は辛い時には泣かない。
辛い時には、絶対にだ。
鳳は知っている。
それは、単に宍戸が強いからという事ではなく、宍戸は、辛い時や哀しい時には、泣くより先にする事があると考える事を知っているからだ。
宍戸が泣く。
それは、宍戸が、ただ彼のまま、その瞬間に安らいでいるという事だ。
「宍戸さ……」
だから、なのか、と。
鳳は知ってはいたけれども自分だけでは判らなかった心情を宍戸に教わり、本当に、この腕の中にいる彼がどれほどに大事なのか思い知らされ、抱き締める。
「………っ……ん」
あえかな、か細い声が自分の肩口に当たる。
鳳は宍戸を両腕で抱き締めながら、その身体を揺らした。
「長太郎…、……」
「……はい…」
鳳が、動くと。
宍戸は、息をのむ。
腰を引くと、微かに啼く。
体温を上げる。
かぶりをふる。
宍戸の目に、涙は。
溢れて、零れて、止まらなくて。
それでも鳳と目が合うたび、宍戸は笑んだ。
宍戸が安心している。
鳳は安堵する。
つながって、揺れて、身体の中がなだらかに組み合わさっていくのが判る。
ずっと、ずっと、泣かれた。
もっと、もっと、泣いていて欲しくなる。
あげたいもの、貰いたいもの、望まれたいもの、それらを手にするのには、さほどたくさんの言葉を使わなくてもいい。
たくさんの時間を使わなくてもいい。
今、その時にだけで充分。
確実に、手の中に、それがあるから、いいのだと。
だからもう好きなだけ泣かせたかった。
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