How did you feel at your first kiss?
宍戸が初めて怪訝な顔を見せたのは、鳳が宍戸に口付けようとしたその瞬間だった。
力で拘束するように宍戸の手首を握り込んで。
壁に押さえつけて、近づけた唇が触れる間際。
「………おい?」
「はい?……」
いぶかしむ声が微かな風となって鳳の唇に当たる。
「ちょっと待て…」
「……やだって言ったら?」
「待てっての」
鳳は思った。
やっぱり。
「………………」
「長太郎?……」
「やっぱり判ってませんでしたね……宍戸さん」
「……なにが」
「全部ですよ」
そう言って笑おうとしたのだけれど、多分失敗した。
消そうとした溜息が零れてしまった。
至近距離から食い入るように宍戸を見つめ鳳は嘆息する。
「宍戸さん、簡単に受け入れるから。ひょっとして意味判ってないのかと思ったらやっぱりだ」
普段から口にしていた言葉だからかもしれない。
でも鳳がいつもの意味とは少し違うのだと。
宍戸を抱き寄せるようにして言った、好きだという言葉を。
聞いた宍戸が、だから知ってるってと、鳳の髪をくしゃくしゃとかきまぜて平然としていたから、鳳は強引にキスに出た。
力づくで。
手首細いなと鳳は今更のように手の中の感触に思う。
寸での所で距離をとったまま鳳は囁いた。
「………キスくらいならいいかとか。そういう風には受け入れないで下さいね。宍戸さん」
「どういう意味だよ」
「俺があなたにしたい事はキスだけじゃありませんから」
追い詰める気はなかったが、もう少しちゃんと考えて欲しくて。
鳳は脅しているみたいだと自嘲気味に告げる。
聞いた宍戸は即座に、馬鹿かと吐き捨てるように言った。
鳳に両手を拘束されたまま。
「お前に人が脅せるかよ」
「宍戸さんになら出来ると思う」
「止せよ。そういうツラ」
似合わねえと溜息と一緒に宍戸は言った。
「なあ」
「…はい?」
「別に今のままでも、俺は相当お前を気に入ってるけど」
「…………………」
お前が俺を好きなのもちゃんと判るし。
そう付け加えられ、それは実際傲慢でも何でもなく。
鳳はそういう事は隠した覚えはないから、宍戸がそう言うのも当然の事なのだ。
「お前が思ってるより俺はお前のことが好きなんだ。それでもか?」
「それでもです」
それでも。
今のままより欲しいものが出来てしまった。
我慢が出来ないことが出来てしまった。
「俺に何がしたいんだ」
「……言っていいんですか」
「聞かなきゃ判んねえ」
「………………」
強くて無垢だ。
鳳は苦笑いしたい気分で、でもとてもそれまでの余裕はなく、宍戸の耳元に唇を近づけた。
欲しいもの。
我慢が出来ないこと。
宍戸にしたいこと。
我ながら、餓えた欲求をあからさまな言い方で囁き続けた。
最後には間近にある綺麗な首筋に噛み付くように口付けもして。
「………、……」
びくっと身を竦ませた宍戸が、感情のよめない吐息を零す。
鳳は宍戸の手首から指を解いた。
幾らなんでも怒るか呆れるかするだろうと宍戸を改めて見下ろした鳳は、勢いよく顔を上げてきた宍戸の眼差しに捕まって息をのむ。
「………………」
宍戸は両手を差し伸べてきた。
細くまっすぐに伸びた指が鳳の両頬を包む。
下から伸び上がってきた宍戸が、鳳の唇をキスで塞ぐ。
「……、……宍戸さ……」
奪うキスだ。
されるがままに任されない、宍戸からのそれは。
彼の性格にひどく見合った、力強くも甘く相手を許容するキスだった。
「裏切ったら殺す」
「………………」
「返事は」
唇を離し、でもまだ相当の至近距離から。
唖然とする鳳に、最後の方だけ、宍戸は笑った。
鳳は、自分の頬にある宍戸の手の上に己の手を重ねて。
鳳の方からも、その唇を塞いで。
「裏切りません。絶対」
そう答えた。
宍戸がまた目を細めたから。
それが彼の望んだ返事だったのだと思う。
宍戸が鳳の頬から指先を引く。
離しがたくて指先同士を絡ませたまま、鳳はその動きについていく。
「………………」
あらいざらい自分の本意を伝えた後で。
あれだけの事を聞いても、こうして自分をすべて受諾する相手の存在は。
一層、鳳の中で大きくなる。
「宍戸さん」
呼びかけにまっすぐ応えてくる怜悧な目。
「それとな。長太郎」
「何ですか?」
「言っておくがそれ以上デカくなったら別れるぞ」
「………はい?!」
言葉も聞こえないほど、形振り構わずの幸福感に没頭しきっていたわけではない筈なのに。
咄嗟に、完全に、解読不可能な事を聞いた気がして鳳は愕然とした。
今なんて言いましたかと辛うじてというようなたどたどしさで尋ね入れば、宍戸は吐き捨てるようにして毒づいた。
「背伸びしてやっと届くってのはどういう事だよ。年下のくせして」
「宍戸さ、…」
「…ったく…腹立つ」
「あの、宍戸さん、」
「いいな。長太郎」
「よくないです!」
宍戸に逆らい慣れてない鳳としては、こう叫ぶだけでも精一杯だ。
それでもさすがにこれだけは聞けない、というか、聞いたら別れは確実に近日中だ。
鳳の身長は、今尚、着実に伸びている。
「宍戸さん…っ!」
いつの間にか歩き出していた宍戸に気付くと、その背を追って、鳳は走り出した。
振り向かせて。
例の条件を取り消してもらう為のうまい言い訳は、まだ思いつかないまま。
それでも走って、手を取って。
振り向かせて。
恋人になった宍戸の顔が見たい。
力で拘束するように宍戸の手首を握り込んで。
壁に押さえつけて、近づけた唇が触れる間際。
「………おい?」
「はい?……」
いぶかしむ声が微かな風となって鳳の唇に当たる。
「ちょっと待て…」
「……やだって言ったら?」
「待てっての」
鳳は思った。
やっぱり。
「………………」
「長太郎?……」
「やっぱり判ってませんでしたね……宍戸さん」
「……なにが」
「全部ですよ」
そう言って笑おうとしたのだけれど、多分失敗した。
消そうとした溜息が零れてしまった。
至近距離から食い入るように宍戸を見つめ鳳は嘆息する。
「宍戸さん、簡単に受け入れるから。ひょっとして意味判ってないのかと思ったらやっぱりだ」
普段から口にしていた言葉だからかもしれない。
でも鳳がいつもの意味とは少し違うのだと。
宍戸を抱き寄せるようにして言った、好きだという言葉を。
聞いた宍戸が、だから知ってるってと、鳳の髪をくしゃくしゃとかきまぜて平然としていたから、鳳は強引にキスに出た。
力づくで。
手首細いなと鳳は今更のように手の中の感触に思う。
寸での所で距離をとったまま鳳は囁いた。
「………キスくらいならいいかとか。そういう風には受け入れないで下さいね。宍戸さん」
「どういう意味だよ」
「俺があなたにしたい事はキスだけじゃありませんから」
追い詰める気はなかったが、もう少しちゃんと考えて欲しくて。
鳳は脅しているみたいだと自嘲気味に告げる。
聞いた宍戸は即座に、馬鹿かと吐き捨てるように言った。
鳳に両手を拘束されたまま。
「お前に人が脅せるかよ」
「宍戸さんになら出来ると思う」
「止せよ。そういうツラ」
似合わねえと溜息と一緒に宍戸は言った。
「なあ」
「…はい?」
「別に今のままでも、俺は相当お前を気に入ってるけど」
「…………………」
お前が俺を好きなのもちゃんと判るし。
そう付け加えられ、それは実際傲慢でも何でもなく。
鳳はそういう事は隠した覚えはないから、宍戸がそう言うのも当然の事なのだ。
「お前が思ってるより俺はお前のことが好きなんだ。それでもか?」
「それでもです」
それでも。
今のままより欲しいものが出来てしまった。
我慢が出来ないことが出来てしまった。
「俺に何がしたいんだ」
「……言っていいんですか」
「聞かなきゃ判んねえ」
「………………」
強くて無垢だ。
鳳は苦笑いしたい気分で、でもとてもそれまでの余裕はなく、宍戸の耳元に唇を近づけた。
欲しいもの。
我慢が出来ないこと。
宍戸にしたいこと。
我ながら、餓えた欲求をあからさまな言い方で囁き続けた。
最後には間近にある綺麗な首筋に噛み付くように口付けもして。
「………、……」
びくっと身を竦ませた宍戸が、感情のよめない吐息を零す。
鳳は宍戸の手首から指を解いた。
幾らなんでも怒るか呆れるかするだろうと宍戸を改めて見下ろした鳳は、勢いよく顔を上げてきた宍戸の眼差しに捕まって息をのむ。
「………………」
宍戸は両手を差し伸べてきた。
細くまっすぐに伸びた指が鳳の両頬を包む。
下から伸び上がってきた宍戸が、鳳の唇をキスで塞ぐ。
「……、……宍戸さ……」
奪うキスだ。
されるがままに任されない、宍戸からのそれは。
彼の性格にひどく見合った、力強くも甘く相手を許容するキスだった。
「裏切ったら殺す」
「………………」
「返事は」
唇を離し、でもまだ相当の至近距離から。
唖然とする鳳に、最後の方だけ、宍戸は笑った。
鳳は、自分の頬にある宍戸の手の上に己の手を重ねて。
鳳の方からも、その唇を塞いで。
「裏切りません。絶対」
そう答えた。
宍戸がまた目を細めたから。
それが彼の望んだ返事だったのだと思う。
宍戸が鳳の頬から指先を引く。
離しがたくて指先同士を絡ませたまま、鳳はその動きについていく。
「………………」
あらいざらい自分の本意を伝えた後で。
あれだけの事を聞いても、こうして自分をすべて受諾する相手の存在は。
一層、鳳の中で大きくなる。
「宍戸さん」
呼びかけにまっすぐ応えてくる怜悧な目。
「それとな。長太郎」
「何ですか?」
「言っておくがそれ以上デカくなったら別れるぞ」
「………はい?!」
言葉も聞こえないほど、形振り構わずの幸福感に没頭しきっていたわけではない筈なのに。
咄嗟に、完全に、解読不可能な事を聞いた気がして鳳は愕然とした。
今なんて言いましたかと辛うじてというようなたどたどしさで尋ね入れば、宍戸は吐き捨てるようにして毒づいた。
「背伸びしてやっと届くってのはどういう事だよ。年下のくせして」
「宍戸さ、…」
「…ったく…腹立つ」
「あの、宍戸さん、」
「いいな。長太郎」
「よくないです!」
宍戸に逆らい慣れてない鳳としては、こう叫ぶだけでも精一杯だ。
それでもさすがにこれだけは聞けない、というか、聞いたら別れは確実に近日中だ。
鳳の身長は、今尚、着実に伸びている。
「宍戸さん…っ!」
いつの間にか歩き出していた宍戸に気付くと、その背を追って、鳳は走り出した。
振り向かせて。
例の条件を取り消してもらう為のうまい言い訳は、まだ思いつかないまま。
それでも走って、手を取って。
振り向かせて。
恋人になった宍戸の顔が見たい。
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