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How did you feel at your first kiss?
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 何読んでんだ?と声をかけられて、鳳はベンチに座ったまま慌てて顔を上げた。
 いつの間にか鳳の正面にいた宍戸が、口元までたくしあげるように巻いていたマフラーを片手で押し下げながら身を屈めて、鳳の手元を覗き込んでくる。
 宍戸に気づいて鳳はぎょっとした。
「……んだよ、別に慌てふためくような本じゃねえじゃん」
 宍戸が鳳の手元へと伏せていた目を引き上げてきて。
 目が合うと笑った。
「………………」
 確かに宍戸の言うように、鳳は見られて困る本を読んでいた訳ではない。
 けれど鳳が、即座に本を閉じて慌てた理由は。
 夢中になって読んでいたのでは決してない本の方に気を取られて、宍戸に気付くのに遅れた自分自身に慌てたからだ。
 宍戸とは場所と時間を決めて待ち合わせていたのだから、今ここに宍戸が来ることが判っていた上での事だから尚更だ。
 広すぎる駅ビルは、駅の改札から離れたエリアの休息用ベンチほど空いていて、夏は涼しく冬は暖かい。
 待ち合わせには最適で、よく利用している慣れた場所でもある。
「あの…宍戸さん」
 鳳がベンチから立ち上がるより先、宍戸が隣に腰を下ろしてきた。
「何だ?」
 流し見られて鳳は弱ったように問いかけた。
 気付かないなんてあり得ないだろう。
「…怒って…る?」
 どこかおそるおそるの問いかけに対して、宍戸は怪訝そうに首を傾げてきた。
「何で?」
 鳳の声は更に小さくなった。
「本なんか読んでて、集中してない、とか」
 宍戸さんに、と。
 鳳が慎重に付け加えると。
 宍戸は呆れたような顔をした後、軽やかに笑った。
「ああ? 目の前にいない俺にどう集中すんだよ、長太郎」
 とん、と鳳は胸元を宍戸の手の甲で叩かれる。
 その指先が薄赤い。
 マフラーはしているけれど、手袋はしてきていないようだった。
「……俺、ひょっとして、相当ぼーっとしてました?」
 宍戸は寒がりで。
 けれどこんな風に指先が赤く染まるのは、冷えている最中よりも、少し時間が経ってからの症状だ。
 寒い場所から暖かい場所に移動してしばらくすると、宍戸の指先はいつもこういう色になる。
 徐々に色濃く、いつまでもだ。
 手にそっと握りこんでしまいたくなる微かに痛々しいような色味。
 鳳がそれに気をとられていると、肩を並べてベンチに座っている宍戸が、空中を見つめるように前を向いて、鳳の名前を呼んだ。
 そうやって声を小さくすると、宍戸の声音は、ぐんとやわらかくなる。
 鳳はその横顔をじっと見据えた。
「…ぼーっとしてたっていうなら、それ、俺の方かもな」
「はい…?」
「お前、やっぱ目立つなーって思ってよ。声掛けるまで、しばらく見てた」
「俺が…ですか。…目立ちますか?」
 宍戸の言葉に戸惑って返した鳳は、目線が合わないまま、宍戸からの言葉でまたびっくりする。
 強いて言えば身長くらいか、それ以外で特に自分が目立つタイプではないと思う鳳には、どうにも物慣れない言葉だった。
 しかし宍戸は鳳の困惑を一蹴する。
「目立つだろ。お前、綺麗な顔してるしよ。しかもすげえ優しいんだろうなあって。そういうのも顔とか雰囲気見りゃ判るし」
「は、?」
 普通、放っておかねえよなあ、お前みたいなの、と宍戸が囁くように言うので。
 鳳は心底、どういうリアクションをとればいいのか判らなくなってしまった。
 誰よりも綺麗で優しいひとにそんな事を言われて、どう反応すればいいのだろうか。
 面食らいつつも呆気にとられた呆れ顔を曝している鳳に、ふと気づいたかのように宍戸の視線が戻ってくる。
 宍戸は軽く眼を瞠った後、少し眉根を寄せた。
「なんだよ」
「え、…っと…」
「このくらい言われたっていつも平然としてんだろ、お前」
 少しばかり不機嫌そうに睨まれて、鳳は慌てて言い返した。
「いつもなんて言われませんし! だいたい平然となんてしてませんよ、宍戸さんといて…!」
 本当に、いつも、いつも、宍戸といると気持は休まったり乱れたり熱くなったり苦しくなったりする。
 その目まぐるしさを、ほんの少しも厭えない。
 ただ好きで。
 気ちは全部そこにつながるからだ。
「……そういうのも。宍戸さんに言われるから照れるんじゃないですか」
 もう、たぶん顔が赤いのも。
 隠しようがないだろうと鳳は思い、自らそう告げた。
「好きな人にそんなふうに言われたら、照れるでしょう、普通」
「…………にしたってお前。………んな、わかりやすく…赤くならなくたって、いいだろうが」
「なりますよ! 大好きなんですよ、宍戸さんのこと! おかしくなりますよこんなの」
「逆ギレすんな、アホ」
 言葉ほどは荒くもない、むしろ優しいような声で宍戸は呆れて。
「つーか、場所選んで言え、ばか」
「バカなんですよ。そういうバカな男にあれこれ注文つけないで下さいよ」
 鳳は開き直って、そんなのいろいろ無理ですからとぶつぶつと呟いた。
 片手で頭を抱えるようにして宍戸と逆側に視線を逃がす。
 これでは単に不貞腐れているだけだ。
 鳳自身判っているから余計、落ち込みがひどくなる。
 今更ながらに格好悪いなあと泣き言を口にしたくなる。
「あのなあ…」
 けれど。
 ふわりと溜息に混ぜるような宍戸の声が耳元すぐ近くに聞こえて。
 鳳は勢いよく宍戸の方へ向き直った。
 宍戸は鳳の肩に片手を置いて、顔を近づけ、小声で。
「格好いいって言っただけでおかしくなるんなら、その先どうすんだよ。長太郎?」
「…宍戸さん?」
「好きなんだぜ、おい」
 宍戸の唇から零れた吐息は、溜息よりも格段に優しかった。
 好きだ、ともう一度優しい息で鳳の耳元に囁いてから、宍戸は鳳の肩に手を置いたまま身体だけ離す。
 ほんの少し細めた眼で宍戸は鳳を見据えて。
「特別なこと言ってんじゃねえんだよ。俺は」
「宍戸さん」
「ほんと、ばかだよなあ、お前」
 自惚れて、余裕かましてたっていいのにな、と宍戸は言い、手を伸ばしてきて鳳の前髪を軽くかきまぜた。
 それこそ判りやすく甘やかされている宍戸の手の感触に、鳳は堪らなくなる。
 抱き締めたい。
 急激に膨れ上がった欲求は濃かった。
 それを堪える辛さの、ほんのひとかけらも判っていないような宍戸に、甘苦しい不満を少しだけ覚えるけれど。
「宍戸さん」
 それと同じ強さで、ひたひたと胸を埋める感情の方が、結局は勝つ。
「おいー…」
 まだ薄赤い宍戸の指先を握り込むように。
 手のひらにつつんで、そっとベンチに押さえつける。
 宍戸は眉を顰めていたが、鳳の手を振り払いはしなかった。
 溜息などひとつ零しながら、手はそのまま。
 そっと鳳へと身体を近づけてくる。
 二の腕と二の腕が触れ合う。
 視線はそれぞれ、逸らしているけれど。
 お互い。
 体温が、混ざりたそうに放熱しているのを感じていた。
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