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How did you feel at your first kiss?
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 面と向かって間近にすると、未だに神尾は、ぼーっとなる事がある。
 跡部の顔。
 知り合って間もない頃の方が気にならなかった。
 整った造作だとは思っていたけれど、見惚れるとか、そういった事は一切なかったのに。
 跡部と付き合いだして、一緒にいるようになって、好きだと思う気持ちが増えていく度に、神尾にとって跡部の表情の逐一が意味を変えた。
 緊張めいた照れで、うっかり浚われるようにみとれたり、身動きがとれなくなることも度々あって、最初のうち跡部はそんな神尾を随分と盛大にからかってくれたものだが。
 そして今も尚、時折そんな状況に陥る神尾に対して近頃の跡部は。
 ただからかう事よりこちらの方が得策とでもいいたいのか、神尾を背後から抱きこんでくるのが常になった。
 しょうがねえなとでも言いたげに目を細めて、跡部が神尾に手を伸ばす。
 くるりと身を返され、背中側からぴったりと抱き寄せられて。
 座り込む跡部の腕に包まれて、神尾はぴったりと跡部と密着する。
 その体勢も大概甘ったるい。
 だが跡部の顔を直視しなくて済む分、神尾には幾らか気が楽だ。
 そうしたまま、顔は見合わせないで、くっついて、喋る。
「赤ちゃんって、こーんなちっちゃいのなー。マジで可愛かったんだぜ!」
 今もその体勢だ。
 神尾は両手の人差し指を立てて赤ん坊のサイズを再現して見せながら、跡部の腕の中だ。
 今年最初のキスの後に。
 目を開けた神尾の視界いっぱいに広がった跡部の顔に、神尾が新年早々やられてしまった為だ。
 新年といっても、年が明けて数日が過ぎている。
 でも今日が、神尾が跡部に会った今年最初の日だ。
 キスの直後の跡部の顔は、本当に、ひどく綺麗だった。
「それで、姉ちゃんに、甥っ子か姪っ子早く作ってくれって、俺言ってんのにさあ」
 正月の三箇日はのんびりというよりは、何だかばたばたと忙しかった。
 それでも神尾は久しく会っていなかった親戚が連れてきた小さな小さな赤ん坊が可愛くて、その時の話を夢中になって跡部にしている。
「欲しがってばっかいないで自分で作れとか言うんだぜ」
 うちの姉ちゃん嫁いきたくねえのかなあ?と神尾は頭上を振り仰ぐように顔を上げた。
 跡部の表情が、真逆の角度でちらりと見えて。
 ん?と、その時になって漸く神尾は怪訝に思った。
「…なに不機嫌になってんの?」
 実にわかりやすく跡部は憮然としていた。
 そういえばこの体勢になってから、跡部は一言も言葉を発していないことにも神尾は気づいた。
「跡部、赤ちゃんきらい?」
 そう尋ねると、跡部はますます不機嫌そうな顔をした。
 子供みたいだ、と神尾はふいに思う。
 跡部に対してそんな事を思ったのは初めての事だ。
「跡部?」
「…つくるんだろ。てめえが赤ん坊」
 不機嫌というか。
 不貞腐れている。
 何故だろう。
「え…跡部、赤ちゃんつくれんの…?」
 神尾は思わず身体を捩って跡部の腹部を見る。
「何で俺様が孕むんだよ!」
「だって俺じゃ無理だし」
「俺だって孕めるか!」
「や、…跡部なら何でもかんでもどうにかしちゃうのかなーと…」
 じいっと跡部の腹部を見据えていると、神尾の両手首が跡部の手にとられ、そのまま床に押し倒される。
「……てめえは新年から碌な話しねえな」
「俺なんかへんなこと言った?」
 何で怒るんだろうとさっぱり理由が判らずにいる神尾は、噛みつかれるようなキスを跡部からされてびっくりする。
 さっきのキスは、本当にふんわりとやわらかくて、それとは全く違うやり方だったからだ。
「最悪だ、てめえは」
「……跡部…ー…?」
 どうしてこういう事になっているのか判らないながらも、神尾は今、自分を強引に押さえつけて拘束してきている跡部の腕の力が。
 何だか、恐る恐る神尾が差し出した自身の人差し指をぎゅうぎゅう握りしめてきた赤ん坊の小さな小さな手の力を思い起こさせて胸が詰まる。
「跡部」
「………………」
 神尾の肩口に跡部は顔を埋めてしまった。
 肌に触れる跡部の髪に、神尾は頬擦りするようにした。
 両手がきかないので手では撫でてやれない。
「俺、今年も跡部が好きだぜ」
「うるせえ」
 拗ねちゃったか。
 跡部はこういう時にかわいいよな、と神尾がひっそり思う。
 最初のキスの後、跡部の顔にみとれて盛大に照れた神尾を跡部は呆れていたけれど。
 跡部だってさあ、と考えながら神尾はもうあまり強くは戒められていなかった跡部の手から自分の両手を取り返す。
 硬い跡部の背中を、神尾は自身の両手で気持ちのまま抱きしめた。
 力、いっぱいで。
「跡部。好き」
「……くそ、泣かすぞ、てめえ」
 本気で凄まれたけれど、これっぽっちも怖くない。
 神尾は跡部にしがみつくように力をこめて、笑って、頷いた。
「いいよ」
 泣かせても。
 なにしても。
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