How did you feel at your first kiss?
乾は慎重だ。
しかし臆病ではない。
抱きしめられて、キスをされて、海堂にはそのことがよく判った。
繰り返す手は、戸惑いではなく、丁寧なだけ。
力の強さは、乱暴なのではなく、執着を表す。
乾の腕の中で、海堂は小さく吐息を零す。
「海堂」
耳の際で聞こえた低い声。
されるがまま抱きしめられている海堂が身体を僅かに震わせると、乾の手が海堂の背中を抱いた。
そのまま乾の指先が海堂の肩口からうなじに忍んで来る。
「………、ん…」
かたい指の腹に肌をなぞられて、海堂が僅かに俯くと大きな手のひらがぐっと海堂の後頭部を掴むようにしてきた。
仰向けにされ、唇はすぐに深く塞がれた。
大抵の時は無機質な気配を漂わす乾が、熱をはらむ瞬間に海堂は敏感だった。
生々しく舌を取られて、海堂ははっきりと震えた。
乾は角度のついたキスを尚きつくする。
しっかりと乾の手に支えられている筈の首が、ぐらりと揺らぐような錯覚を覚える。
水の中で溺れるような心もとなさに、海堂は咄嗟に伸ばした手で乾の胸元のシャツを掴んだ。
「海堂…」
キスがほどけ、海堂の手はそこから引きはがされる。
そうした乾の手は優しかった。
「……先輩、…」
乾の指先は海堂の手のひらをやわらかく辿った。
手のひらが疼く。
そんなこと初めて知った。
重ね合わせた手の大きさが違うこと。
「海堂」
名前を呼ばれて、手と手を合わせて、唇と唇も再び重なる。
肌が触れ合う感触より、呼吸が混ざる感触の方がより濃密で強かった。
「ごめんな」
乾の声が呼気に混ざって海堂の唇に触れる。
「ちゃんと、ゆっくりでいいって」
唇を幾度となく塞がれながら。
「そういうふうに、言ってやれなくて、ごめんな」
言葉の意味はあまり判らなくて。
海堂は乾の舌を受け入れるようにわずかに唇をひらくことで精一杯だったから、寧ろ謝るのは自分の方ではないのかと考えた。
キスの、回数が増え、深さが増し、粘膜が過敏になっていく。
ひとりでは出来ないことをされる。
そういうことが海堂には物慣れなくて、ぎこちなくなってしまう所作を乾はその都度優しく詫びて。
でも、乾は絶対に止めはしないし、海堂も絶対に嫌だと思わない。
繰り返される抱擁。
繰り返されるキス。
奪い合うのではなく、与えあっている感じがする。
密度の高い、何か甘くて熱いような、不思議で知らない感覚が溜まっていく。
気持ちの中に、集まって、とどまっていく。
「海堂」
髪を撫でられる。
手をつながれる。
乾の、いったいどこにこんな熱があったのだろう。
海堂は目を閉じて、乾のすることを受け入れて、ふと思う。
テニスをしている時とも違う。
何かに没頭している時とも違う。
この、もどかしさに苦しがっているかのような、どこか切迫した乾の声や力は。
どこに今まで潜んでいたのだろうか。
身動きの取れない自分。
それは乾の力での拘束ではなく、乾があまり露にする事のない内面を僅かずつながらも剥き出しにしてくるからだ。
「………………」
海堂は、乾に繋がれていない方の手をそっと伸ばす。
乾の後首に指先をかけて。
縋って。
途端に一層深くまで貪られた唇を今より更に開いて、熱い舌を受け入れて。
「ン、……」
自らの手でも、乾の首を引き寄せる。
組み合わせた指と指とが更に強く結びつき、どうしようもないほどの安堵感に海堂は浸された。
この人は。
この男は。
自分に何をしているのか、判っているいるのだろうか。
聡明なその思慮の中で、本当にそれを理解しているのだろうかと、海堂はゆっくりと睫毛を引き上げるようにして乾を見詰めた。
唇を重ねた近すぎる距離では、はっきりと見て取れる訳ではないが、それでも。
強すぎる乾の眼の光の強さに、くらりとなって。
「………甘くなった」
ぽつりと漏らした乾の言葉の意味を図りかねる海堂だったが、キスをほどいてから、まるで何かを味わうように乾が舌で唇を舐める仕種に眩暈をひどくして脱力する。
乾の肩口に顔を伏せると、乾は海堂の髪に唇を寄せて、弱ったような笑い交じりの声音で囁いた。
「今、何した…?」
「……知るか…」
掠れた小声では、虚勢を張ったところで何の効力もないだろうと海堂は思ったのだが、乾は暫く無言でいた後、唐突に。
まるで我慢出来なくなったかのようにきつく海堂を抱きしめてきて。
口早に、何か八つ当たりっぽいような事を暫く言っていたのだが、最後は低い声で、好きだとひたすらに。
海堂に浴びせかけるように、言い出したので。
海堂はそれをほんのひとかけらも取りこぼさないよう、乾の背をしっかりと抱きしめ返した。
コミュニケーションは、ひどく不得意だ。
けれど、それでいて、欲しいものには貪欲な自分を海堂は知っている。
海堂を抱きしめて、海堂にキスをする、乾には、だから伝わるはずだ。
伝える身体で、伝わるはずだ。
しかし臆病ではない。
抱きしめられて、キスをされて、海堂にはそのことがよく判った。
繰り返す手は、戸惑いではなく、丁寧なだけ。
力の強さは、乱暴なのではなく、執着を表す。
乾の腕の中で、海堂は小さく吐息を零す。
「海堂」
耳の際で聞こえた低い声。
されるがまま抱きしめられている海堂が身体を僅かに震わせると、乾の手が海堂の背中を抱いた。
そのまま乾の指先が海堂の肩口からうなじに忍んで来る。
「………、ん…」
かたい指の腹に肌をなぞられて、海堂が僅かに俯くと大きな手のひらがぐっと海堂の後頭部を掴むようにしてきた。
仰向けにされ、唇はすぐに深く塞がれた。
大抵の時は無機質な気配を漂わす乾が、熱をはらむ瞬間に海堂は敏感だった。
生々しく舌を取られて、海堂ははっきりと震えた。
乾は角度のついたキスを尚きつくする。
しっかりと乾の手に支えられている筈の首が、ぐらりと揺らぐような錯覚を覚える。
水の中で溺れるような心もとなさに、海堂は咄嗟に伸ばした手で乾の胸元のシャツを掴んだ。
「海堂…」
キスがほどけ、海堂の手はそこから引きはがされる。
そうした乾の手は優しかった。
「……先輩、…」
乾の指先は海堂の手のひらをやわらかく辿った。
手のひらが疼く。
そんなこと初めて知った。
重ね合わせた手の大きさが違うこと。
「海堂」
名前を呼ばれて、手と手を合わせて、唇と唇も再び重なる。
肌が触れ合う感触より、呼吸が混ざる感触の方がより濃密で強かった。
「ごめんな」
乾の声が呼気に混ざって海堂の唇に触れる。
「ちゃんと、ゆっくりでいいって」
唇を幾度となく塞がれながら。
「そういうふうに、言ってやれなくて、ごめんな」
言葉の意味はあまり判らなくて。
海堂は乾の舌を受け入れるようにわずかに唇をひらくことで精一杯だったから、寧ろ謝るのは自分の方ではないのかと考えた。
キスの、回数が増え、深さが増し、粘膜が過敏になっていく。
ひとりでは出来ないことをされる。
そういうことが海堂には物慣れなくて、ぎこちなくなってしまう所作を乾はその都度優しく詫びて。
でも、乾は絶対に止めはしないし、海堂も絶対に嫌だと思わない。
繰り返される抱擁。
繰り返されるキス。
奪い合うのではなく、与えあっている感じがする。
密度の高い、何か甘くて熱いような、不思議で知らない感覚が溜まっていく。
気持ちの中に、集まって、とどまっていく。
「海堂」
髪を撫でられる。
手をつながれる。
乾の、いったいどこにこんな熱があったのだろう。
海堂は目を閉じて、乾のすることを受け入れて、ふと思う。
テニスをしている時とも違う。
何かに没頭している時とも違う。
この、もどかしさに苦しがっているかのような、どこか切迫した乾の声や力は。
どこに今まで潜んでいたのだろうか。
身動きの取れない自分。
それは乾の力での拘束ではなく、乾があまり露にする事のない内面を僅かずつながらも剥き出しにしてくるからだ。
「………………」
海堂は、乾に繋がれていない方の手をそっと伸ばす。
乾の後首に指先をかけて。
縋って。
途端に一層深くまで貪られた唇を今より更に開いて、熱い舌を受け入れて。
「ン、……」
自らの手でも、乾の首を引き寄せる。
組み合わせた指と指とが更に強く結びつき、どうしようもないほどの安堵感に海堂は浸された。
この人は。
この男は。
自分に何をしているのか、判っているいるのだろうか。
聡明なその思慮の中で、本当にそれを理解しているのだろうかと、海堂はゆっくりと睫毛を引き上げるようにして乾を見詰めた。
唇を重ねた近すぎる距離では、はっきりと見て取れる訳ではないが、それでも。
強すぎる乾の眼の光の強さに、くらりとなって。
「………甘くなった」
ぽつりと漏らした乾の言葉の意味を図りかねる海堂だったが、キスをほどいてから、まるで何かを味わうように乾が舌で唇を舐める仕種に眩暈をひどくして脱力する。
乾の肩口に顔を伏せると、乾は海堂の髪に唇を寄せて、弱ったような笑い交じりの声音で囁いた。
「今、何した…?」
「……知るか…」
掠れた小声では、虚勢を張ったところで何の効力もないだろうと海堂は思ったのだが、乾は暫く無言でいた後、唐突に。
まるで我慢出来なくなったかのようにきつく海堂を抱きしめてきて。
口早に、何か八つ当たりっぽいような事を暫く言っていたのだが、最後は低い声で、好きだとひたすらに。
海堂に浴びせかけるように、言い出したので。
海堂はそれをほんのひとかけらも取りこぼさないよう、乾の背をしっかりと抱きしめ返した。
コミュニケーションは、ひどく不得意だ。
けれど、それでいて、欲しいものには貪欲な自分を海堂は知っている。
海堂を抱きしめて、海堂にキスをする、乾には、だから伝わるはずだ。
伝える身体で、伝わるはずだ。
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