忍者ブログ
How did you feel at your first kiss?
[347]  [346]  [345]  [344]  [343]  [342]  [341]  [340]  [339]  [338]  [337
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 青学三年乾貞治と、青学二年海堂薫は、向かい合わせに対峙している。
 テニス部のコート脇にいる二人は、向き合って、顔を合わせて、立っている。
 今し方まではおそらく生真面目にテニスの話などしていたのであろう二人だが、誕生日おめでとうと言った乾と、眼を瞠った海堂とで、もっか二人は無言で顔を見合せている。
 口を噤んで相手を見ているだけ。
「あそこ、かわいいね」
 小さく笑みを零して、不二が呟いた。
「は?……かわいいって、…乾が?」
 海堂すっごい睨んでるよっ?と菊丸が頬を引きつらせた。
 不二の袖を掴んで揺さぶる菊丸に、不二は今度はもっとはっきりとした笑い声を響かせて否定する。
「違うよ、かわいいのは海堂」
 恥ずかしいんだね、と不二は海堂を見つめ直して囁く。
「かーわいい」
「なになにおチビまで!」
 恥ずかしいんでショ?海堂センパイ?と越前が肩にラケットを乗せるようにして首を傾け笑う。
「精一杯で威嚇してる子猫っすね。あのカンジ」
「越前に子猫なんて言われたら海堂は絶叫しそうだね」
「不二先輩だってそう思ってんじゃないですか」
「まあ、そうだね」
 不二と越前の会話に。
 むう、とたちどころに不機嫌そうに頬を膨らませた菊丸は、自分を挟んで左右にいる二人を交互に見やってから、大石に飛びつくようにして走り寄っていった。
「大石ー!」
「ん? どうした、英二」
 満面の笑みで菊丸に問いかける大石は、飛びついてきたうえ盛大に泣きついてもきた菊丸にびっくりしたように瞬いた。
「なんだよなんだよみんなしてー! 海堂の誕生日とか、海堂が可愛いのとかは、俺だけが知ってる筈だったのに!」
「…英二?」
 ずるいー!と癇癪を起した菊丸を、なんだかよく判らないながらも、そうかそうかと苦笑いで宥めてやりながら、大石は近くにいた桃城に声をかける。
「海堂は、今日誕生日なのか?」
「何で俺に聞くんですか、大石先輩」
 心底嫌そうに顔を顰めながらも、そうっすよ、と桃城は言った。
 言葉ほど不機嫌ではないのは、大石を見やって、にやりと笑った桃城の表情で見てとれる。
 桃城は大石にこっそりと耳打ちする。
「タカさんが特大穴子盛り、ケーキ代わりに差し入れしてくれるって言ってましたよ」
 まだ内緒っすけどね?と笑う桃城に、大石もまた困ったような小声で問いかけた。
「おいおい……手塚は知ってるのか?」
「知ってるっすよ。俺とタカさんで了承貰いに行きましたから。サプライズの号令は部長です」
「うーん……何だかんだ言って桃は」
 苦笑交じりの大石の呟きを、桃城はあっさりと切って。
「穴子寿司の為なんでね?」
「…ま、そういう事にしておくか」
 大石は器用に菊丸を宥めながら、桃城に向かって尚も器用に、溜息と笑みとを同じ分量、洩らした。



 何となくざわめきを周辺に感じない訳ではなかったが、それより何より今海堂は、目の前の出来事で手一杯だった。
 誕生日おめでとう。
 乾は、そう言った。
「ええと……海堂?」
「…………なんで」
「ん? ああ…誕生日?」
 海堂の硬直に、最初は困ったような苦笑いで海堂の名前を呼んだ乾は、海堂の言わんとしているところに気づいたようで、あっさりとそれに答えてくる。
「知ってるよ。そりゃ」
「……データ、そんなことまでとってるんですか」
「確かにね。でも、これはちょっと違う」
「………乾先輩?…」
「好きな子のことは、勝手に何でも覚えるし、忘れない」
「…、…は…い?」
「今日がそうだっていう知識があるから、ただ言った訳じゃないよ」
「………………」
 乾の手が、バンダナ越しに海堂の頭の上に、ぽんと乗せられる。
 数回、かるく、撫でられて。
 長身を腰から折るように乾が海堂に顔を近づけてくる。
 海堂の耳元に唇を寄せて、乾はもう一度言った。
「誕生日おめでとう。海堂」
「………………」
 ぐらぐらと、足元が覚束ない。
 海堂はそんな錯覚を覚えた。
 乾の手が、まるでそんな海堂の危うげな足元を察しでもしたのか、更にしっかりと海堂の後頭部を支えるようにして。
 三度目。
 今までで一番近くなった距離は、海堂の耳元へのその言葉以外にも、幾つかのものを海堂へと吹き込んでくる。
「好きな子の誕生日は、おめでとうって、とにかく、ただ言いたい」
 落ち着いた低い声で、乾がほんの少しの笑みを混ぜて囁く声に海堂は立ち尽くす。
「何度でも言いたい」
 誕生日なのに。
「海堂」
 胸の病気にでも、なったのか。
「おめでとう」
 息をするだけで。
「誕生日」
 呼吸が甘苦しい。

 誕生日なのに。
PR
この記事にコメントする
name
title
font color
mali
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
アーカイブ
ブログ内検索
バーコード
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ [PR]