How did you feel at your first kiss?
宍戸がレギュラー落ちして、鳳と一緒に特訓をするようになって。
その日初めて、鳳の家に泊まった。
借りた風呂から戻ってきてすぐに、待ち構えていたかのように鳳が怪我の手当てをさせて欲しいと言ってきた。
ここ数日、幾度と無く鳳とやりとりを交わした話題。
自分がいつもと同じようにそんな事は必要ないとそれを強く拒んでいると、突然鳳に怒鳴られた。
そんな事は初めてだった。
咄嗟に面食らった自分に鳳は詰め寄ってきて肩をつかまれる。
何もかも本気で大丈夫だなんて言わないでくださいと、言った怒声は大きかったが、しかし同時にあまりにも痛ましげな目で見据えられてしまえば反抗心も湧かなくて。
鳳を、ただ見つめるしか出来なくなる。
こんな風に怒鳴られたのは初めてだった。
こんな顔の鳳を見るのも。
「宍戸さんは逃げない人だけど、傷つかない人じゃないんです」
「…長太郎?」
「頑張れる人だけど、何が起きても辛くない人じゃない。宍戸さんは時々そういう所をすごく間違えてます」
睨みつけるように見据えられ、本気で怒った鳳に傷んだ二の腕を強く握り込まれて、思わず眉を寄せたけれど。
苦しげな溜息を吐き出したのは寧ろ鳳の方だ。
そのままお互い黙り込んで、見詰め合うだけになる。
いつもならば穏やかに微笑む鳳の激昂に。
向けられた言葉に。
気持ちのどこかが揺すられる。
言葉を返せない自分に、鳳は無言のまま、徐に動いた。
彼の部屋に置いてあった小さな円柱のキャンドルに手を伸ばした。
そしてそれに火をつける。
白いキャンドルは炎を灯して、何かとてもいい香りがした。
そして鳳は部屋の電気を消した。
「………………」
暗いそれはまるで今の自分のおかれている状況と同じだ。
「ねえ、宍戸さん」
闇に滲むキャンドルの灯りのような声だ。
「キャンドルの炎、綺麗だと思いませんか」
「………………」
鳳の手元、ただそこだけが。
闇の中で暖かな色を滲ませ明るい。
「宍戸さんみたいじゃないですか」
「…俺?」
「宍戸さんは、何でキャンドルの灯りがこんなに綺麗かって、考えた事ありますか?」
僅かな光に照らされた鳳の目が真っ直ぐに自分を見つめてくる。
「例えばここにもし宝石があったとしても…暗闇の中ではダイヤは光れない。でもキャンドルは、暗闇でこそ光れます。自分の力で、灯り続けて光るんです。こんな暗闇の中でも」
低く落ち着いた、真摯な声だった。
キャンドルの炎に、鳳が身に着けているクロスが鈍く反射する。
「でもね、宍戸さん。そういうキャンドルであっても、息でも吹きかけられれば簡単に炎が消える事もある。水に投げ込まれたら、乾くまでの間は勿論火だって灯らない。どうなっても平気だなんて、そんな訳絶対になんかないんだ」
だから判っていて、と鳳は言った。
まるで懇願するように。
「消されても、何度でも。またあかりを灯して、自分自身の力で輝ける。だからこそ、何をされても平気だなんて、そういう過信だけはしないで下さい」
「………………」
薄暗がりの中、鳳の声は真剣で、そして優しかった。
揺れるキャンドルの炎と、鳳のクロスを見ながら貰った言葉に、少しだけ泣いてしまいそうになる。
「手当て、させてくれますか?」
キャンドルの炎の灯りだけしかない部屋で。
漸く、いつも見慣れた微笑と、優しい声とに。
自分が静かに頷けば。
抱き締められた。
鳳に。
一瞬より長く、永遠より短く。
その日初めて、鳳の家に泊まった。
借りた風呂から戻ってきてすぐに、待ち構えていたかのように鳳が怪我の手当てをさせて欲しいと言ってきた。
ここ数日、幾度と無く鳳とやりとりを交わした話題。
自分がいつもと同じようにそんな事は必要ないとそれを強く拒んでいると、突然鳳に怒鳴られた。
そんな事は初めてだった。
咄嗟に面食らった自分に鳳は詰め寄ってきて肩をつかまれる。
何もかも本気で大丈夫だなんて言わないでくださいと、言った怒声は大きかったが、しかし同時にあまりにも痛ましげな目で見据えられてしまえば反抗心も湧かなくて。
鳳を、ただ見つめるしか出来なくなる。
こんな風に怒鳴られたのは初めてだった。
こんな顔の鳳を見るのも。
「宍戸さんは逃げない人だけど、傷つかない人じゃないんです」
「…長太郎?」
「頑張れる人だけど、何が起きても辛くない人じゃない。宍戸さんは時々そういう所をすごく間違えてます」
睨みつけるように見据えられ、本気で怒った鳳に傷んだ二の腕を強く握り込まれて、思わず眉を寄せたけれど。
苦しげな溜息を吐き出したのは寧ろ鳳の方だ。
そのままお互い黙り込んで、見詰め合うだけになる。
いつもならば穏やかに微笑む鳳の激昂に。
向けられた言葉に。
気持ちのどこかが揺すられる。
言葉を返せない自分に、鳳は無言のまま、徐に動いた。
彼の部屋に置いてあった小さな円柱のキャンドルに手を伸ばした。
そしてそれに火をつける。
白いキャンドルは炎を灯して、何かとてもいい香りがした。
そして鳳は部屋の電気を消した。
「………………」
暗いそれはまるで今の自分のおかれている状況と同じだ。
「ねえ、宍戸さん」
闇に滲むキャンドルの灯りのような声だ。
「キャンドルの炎、綺麗だと思いませんか」
「………………」
鳳の手元、ただそこだけが。
闇の中で暖かな色を滲ませ明るい。
「宍戸さんみたいじゃないですか」
「…俺?」
「宍戸さんは、何でキャンドルの灯りがこんなに綺麗かって、考えた事ありますか?」
僅かな光に照らされた鳳の目が真っ直ぐに自分を見つめてくる。
「例えばここにもし宝石があったとしても…暗闇の中ではダイヤは光れない。でもキャンドルは、暗闇でこそ光れます。自分の力で、灯り続けて光るんです。こんな暗闇の中でも」
低く落ち着いた、真摯な声だった。
キャンドルの炎に、鳳が身に着けているクロスが鈍く反射する。
「でもね、宍戸さん。そういうキャンドルであっても、息でも吹きかけられれば簡単に炎が消える事もある。水に投げ込まれたら、乾くまでの間は勿論火だって灯らない。どうなっても平気だなんて、そんな訳絶対になんかないんだ」
だから判っていて、と鳳は言った。
まるで懇願するように。
「消されても、何度でも。またあかりを灯して、自分自身の力で輝ける。だからこそ、何をされても平気だなんて、そういう過信だけはしないで下さい」
「………………」
薄暗がりの中、鳳の声は真剣で、そして優しかった。
揺れるキャンドルの炎と、鳳のクロスを見ながら貰った言葉に、少しだけ泣いてしまいそうになる。
「手当て、させてくれますか?」
キャンドルの炎の灯りだけしかない部屋で。
漸く、いつも見慣れた微笑と、優しい声とに。
自分が静かに頷けば。
抱き締められた。
鳳に。
一瞬より長く、永遠より短く。
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