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How did you feel at your first kiss?
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 背中に大きな手のひらがぴったりと宛がわれている。
 海堂はゆっくり息を吸い込んだ。
 呼吸をよんで、乾が力をかけてくる。
「………………」
 少しずつ息を吐き出しながら、海堂は上体を前方に倒していく。
 乾に正しいストレッチを教わってから、海堂の身体の柔軟性は増したと思う。
「最後、押すよ。息吐き出しきって」
「………………」
 海堂の呼吸と乾の圧力とが的確にかみ合って、海堂の胸は床についた。
「やわらかくなったなあ海堂」
「………どうも」
 後ろ髪をくしゃりとかきまぜられる。
 乾の手が離れ、海堂もゆっくりと身体を起こした。
「………………」
 すると背後にいたはずの乾がいきなり正面にいて海堂は目を見張る。
 長身の膝を折って屈んでいた乾は、顔を上げた海堂のバンダナを取った。
「………なんですか…」
「少し身体が張ってるから、今日はこれでおしまい」
「…………っす」
 以前だったら反発していたかもしれないが。
 今は全て信頼しているから頷いた。
「先輩も疲れ溜まってるみたいだから今日は早く寝た方がいいです」
「俺?」
 何か変か?と乾は海堂の前にしゃがみこんだまま首を傾げる。
「乾先輩のノート」
「俺のノート?」
「さっき見せてくれた」
「ああ、見せたね」
 何か書いてあったか?と言った乾に海堂は低く答えた。
「蝶が飛んでた」
「…蝶?」
「あんた疲れてくると、データの横に蝶書くんだ」
 三角形が二つくっついた、一筆書きの蝶。
 海堂がそれに気付いたのは最近だ。
 考え事をしているのかと思った乾が、データの余白に蝶を書いている時が時々あって、それがどうやら乾が疲れてきた証拠らしいということ。
「本当に?」
「…気付いてなかったんすか」
「全然」
 乾はノートをとってきて、ペラペラと捲りながら。
「うわ……本当だ」
「………………」
 そんな乾の様子に海堂はちいさく笑んだ。
 柔らかくなった筋肉の中に張りがあるからと、触れて判ること。
 蝶がたくさん飛んでいたからと、見て判ること。
「それじゃあ今日は二人で休むか」
 強くなりたい時に、休まなければならないという事が、以前の海堂には出来なかったけれど。
 今ならば。
「……うち来ますか」
「よろこんで」
 小さく何だかかわいらしいような音をたてられ唇に。
 触れた、軽いキスは蝶が止まったイメージで。
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