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How did you feel at your first kiss?
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 部活のメンバーで電車やバスなどの乗物に乗る時、乾は仲間達と少し離れたところで、座ったり立ったりしていることが多い。
 仲間の目の届く距離だけれど、大抵少し離れた所に彼は居て、データ整理をするか眠るかしている。
 そんな乾が最近、空席や空間を見つけては、一人でなく。
 手を取ったり。
 背を引き寄せたり。
 名前をそっと呼ぶ事で。
 海堂の事も、そこへ一緒に連れて行くようになった。
 二人で、集団から離れるようになった。
 時々仲間内からからかうような冷やかしの声がかかる。
 そういうものに全く慣れていない海堂が固まってしまうのを見て、乾は大抵軽く笑う。
 気にするなと低い声で穏やかに言い、躊躇する海堂を連れ出していく。
 どうして自分を連れてくるのかと海堂は乾に時々聞いた。
『一緒にいたい』
 耳元で、低い声が、大抵は、そう言った。
 時々内容が変わった。
『多少くっついていても不自然じゃないシチュエーションだから、海堂を側に置いておきたい』
『見せびらかしたいのもあるかな』
 乾からの、特別な扱い。
 それは海堂にとってひどく気恥ずかしいものなのに、少しも嫌なことじゃなかった。
 海堂は今日も乾に聞いていた。
 何度そうされても不思議なままの、二人きりになる理由。
 そして今日の乾からの言葉は、海堂が初めて聞いたものだった。
「海堂、電車やバスで座ると、だいたい眠るだろ。これが可愛くて」
「………………」
 隣同士で腰掛けて数分。
 実際もう、うとうとしかけていた。
 乾の手に上手に促されて、いつの間にか乾の肩を借りていた。
 囁かれても、気持ち良いばかりで。
 何だか髪に、触られたりもしているようだけれど。
 どうでもよかった。
 心地よかった。
「海堂見てたら眠くなってきた」
 俺にも肩貸して、と。
 笑みの気配と共に乾から海堂へと凭れてきた重み。
 ひどく近い距離。
 揺れる車内。
 同じ呼吸で目を閉じたまま、何もかもがとろけるように、自然で優しい。
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