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How did you feel at your first kiss?
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 中学校の美術の授業のデッサンが裸体モデルだなんて、氷帝はいかれていると神尾は思う。
 いくら金持ちの私立校だからって。
「……………今日のモデルはじっとしとらん奴だなあ…」
 ぼやく不動峰の美術教師を、神尾は教壇の上に置かれた椅子に座って睨みつけた。
 うちなんかこれだぞっ、と神尾は叫び出しそうになる。
 出席簿順に当番が回ってきて、毎週授業開始からの十分がデッサンタイム。
 今日の当番は神尾だった。
 昨日、跡部とこの話をしていた。
 ついでに聞いた氷帝の美術デッサンの話も思い出して、神尾はムカムカする。
 裸体モデルって、まさか生徒が順番にやるのかと言ったら、馬鹿かと呆れられた。
 だってうちはそういうシステムなんだと言い返したのをきっかけに、何となく跡部の機嫌が悪くなって。
 神尾は神尾で、跡部のこの目が、いわゆるその裸体モデルの女性を見つめて、デッサン画を描くのかと思ったら気分が悪くて。
 いつもの小競り合いが始まった。
 そうしてそこからいつもの言い争いを経て、今日になって、自分達はいつものように喧嘩をしたままだ。
「………………涙目になるほどじっとしてるのが苦痛か神尾」
 お前は全くしょうがないなと、パンチとアフロ、どっちつかずの爆発頭の教師は言った。
「伊武。神尾と代われ」
 教師の指名が成されるや否や伊武が勢い良くぼやき出した。
「神尾と代われ?……どうしていつもアキラのフォローはオレがしなくちゃいけないんだよ。オレは出席番号一番で、とっくにモデルは済んでるのに。だいたいああいう晒し者みたいな真似、本来オレはしたくないんだよね。一度やれば充分だよ。何のために生徒が何人もいるんだよ。オレが二度もやる必要なんかないよね。うん。そうだよ。オレはモデルなんかしなくたっていいよ」
 聞こえるか聞こえないかの声のトーンなのに、女子席からたちまち声が上がった。
「えー、そんなこと言わないで伊武君!」
「そうだよー。伊武君ってすっごく描き易いもん。二度だって何度だっていいよ」
「綺麗だし、絶対動かないし」
 悪かったな綺麗じゃなくて!と女子ゾーンに言い返す神尾に、男子ゾーンから慰めともからかいともつかない声が飛ぶ。
「大丈夫だ神尾! 安心しろ! お前は綺麗じゃないが可愛いから!」
「そうそう涙目のアキラちゃんもなかなかだから!」
「その目だって一つで良いから描きやすいしな!」
 たちまちざわめく教室内に、美術教師の大声が響いた。
「判った判った! 神尾、どんなにじっとしてるのが嫌なら、何してたっていいからあと十分だけそこに座ってろ! 伊武はもう口閉じろ! それから今日の神尾に関しては、もうどんなポーズでもいいから全員好きに描け!」
 収集が、これで一応ついたのかつかないのか。
 とりあえず神尾はムカムカしながら跡部の事を考え、伊武は溜息と共に口を噤み、クラスメイト達は一部の悪ふざけを含み思い思いの神尾を描いた。


 その日の放課後、いつもは一緒に帰る伊武が、何だか今日は気配がするからと。
 神尾には少々意味不明なぼやきでもって先に帰ってしまったので、神尾は一人で帰途につく事になった。
 MDからの音楽で頭をいっぱいにしたいのに、どうしてもそこに跡部の声とか顔とかが浮かんできて落ち着かない。
 俯きがちにどんどん足早に歩いていったらぶつかった。
 硬くて、何かしっかりとした、揺るがないもの。
 額を押さえて神尾が顔を上げたら、それは跡部だった。
「な……………」
「………………」
 見るからに不機嫌そうな跡部は、無言のまま神尾の腕を掴んだ。
「おい、…っ……」
 別に痛いと言う程ではないけれど。
「………跡部?」
「お前なんかモデルにしたって」
「……はあ?」
 何不機嫌そうな顔してんだと、神尾は跡部を見上げた。
 たかだか美術の授業の話。
 跡部が、不動峰という学校のシステムを馬鹿にしてるのか、神尾自身の事を馬鹿にしてるのか。
 どちらにしろ結構どうでもいい事で態度を悪くしてるよな、と。
 神尾は毒気が抜かれたように、そう思った。
「普通の中学校はそういうもんなんだよ。お前らみたいな金持ち校と一緒にすんな。中学生に裸体モデルでデッサンとらせる学校の方が普通ありえねーよ」
「…………石膏像だ。バァカ」
「………へ?……人間じゃねーの?」
「それこそそんな中学校がどこにあるんだ。馬鹿」
 この天然、と頭を叩かれる。
「…ぃ…ってぇ…!……」
「行くぞ」
「………え? どこに」
 ぐいっと腕を引っ張られた。
「ついてこない気か」
「………睨むなよ」
 聞いてる事には答えないで、勝手な事を言って。
 何となくおかしくなって神尾は笑ってしまった。 
 跡部はどんどん先に行く。
 逆らわずについていく神尾は、黙っているのもつまらなくて、今日の美術の時間の話をした。
 椅子に座ってじっとしているのが苦痛だった事。
 モデルとして、女子は友人を支持して、男子は神尾へフォローなのかどうなのかよく判らない事を言っていたこと。
 教師が、今日の神尾だけは好きなポーズで描いていいと言ったので、悪ふざけをした一部の連中にグラビアモデルみたいなポーズのデッサンを描かれたこと。
 制服なんか当然着てなくて、それこそヌードモデルみたいな絵だったこと。
「……、跡部、っ?」
 跡部の部屋につくなり、それまで無言のままだった跡部に、ベッドに放り出された。
 普段よりも乱暴に制服を脱がされ、上顎から喉まで侵入しそうに、深く舌を含まされたキスをされた。
 跡部の悪態も、神尾には何が何だか判らない。
 驚いているけれど、怖い訳ではないので、神尾は性急な跡部にされるがまま、抱かれてしまった。


 翌週の美術の時間、神尾はクロッキー帳を開いて叫んだ。 
「ドッペルゲンガー!」
 俺が俺を描いてる!と言った神尾に、隣にいた伊武がうんざりした眼差しを向けてきた。
「うるさい…神尾…」
「深司深司!見てみろよこれ!」
「……………」
 広げられたクロッキー帳に目を落とす。
 神尾は「すっげー!」と感動し、伊武は「ああやだ、もうやだ、こんな露骨な絵」とぼやいた。
 神尾のクロッキー帳の最終ページには、神尾が描かれていた。
 驚くほど丹精なデッサン画。
 顔を横にしてうつぶせに寝ている神尾の目は閉じられていて、口元近くに指先を軽く握りこんだ手があった。
 肩は剥き出しで、身体の下にはドレープの流動線も見事なシーツ。
 髪の、少し湿った感じまでひどくリアルだ。
「……………」
 誰がどこでどういう状況でこの絵を描いたのか。
 簡単に判ってしまった伊武は、ドッペルゲンガー!と騒いでいる神尾を横目に深々と溜息をついたのだった。
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